九十六話 誰食べるん?
カルナの提案に一同、凍りつく。
え? 本当にシロを食べるの?
皿の上のシロを見る。
『フム、できれば美味しく食べて欲しいカナ』
食べられる気満々じゃないかっ!
「い、いやいやいやいや、食べちゃダメだろう、シロも冗談だよなっ? 食べられたくないよなっ?」
『いや、いっこうに構わないゾ。なかなかいいアイデアだ』
ほ、本気なのか?
アリスも、もしかして黒いモノを美味しく頂いたのか?
「あとは誰が食べるかやな」
「チハル、たべたい、ちゃんとのこさず、たべるよっ」
「おお、えらいな、チハル ……じゃ、ないよっ! ダメだよっ、こんなの食べたらっ!」
『こんなのとは失礼ダナ。ワタシは意外と美味しいゾ』
なんだ、この混沌とした状態は。
さっきまでの緊張感に包まれた空気はどこにいってしまったんだ。
「一つ、聞かせてくれないかしら。私達の誰かが貴方を食べたら、あの黒アリスと互角に戦えるの?」
サシャがようやくまともなことを聞いてくれる。
でも、やっぱり食べる前提だ。
『それは無理カナ。元々の力がアリスとは違うカラナ。まあ、一人が食べて残りがサポートすれば、1%くらいは勝てるチャンスがあるんじゃないカナ』
「そ、そうか、そんな確率じゃ意味ないよな。サシャ、シロを食べるのはやめて……」
「十分な確率よ。完全にゼロだったんだから」
やっぱり食べるんだ。
「少し、待ってください」
「おお、レイア。みんなを止めてくれるのか?」
最後の希望にすがりつく。
「シロ、いえ、シロさん。貴方を食べたら、も、もしかして、私の胸、大きくなったりしますか?」
ま、まだ、気にしていたのかっ!
今まったく、そんな場合じゃないんだけどっ!
『フム、様々な影響を受けるので、たぶん大きくなるカナ』
ぱぁ、とレイアが笑顔になる。
「ハイ、私、食べます! 食べたいです!」
「ちょっと待ちいや! それならうちも食べたいわっ!」
「まってや、カル姉っ、うちも……」
「「乳でかい人は、引っ込んでてっ!!」」
レイアとカルナがハモってクロエに激ギレしている。
なんかもう完全に目的変わってないか?
『ああ、そうだ。一つ言い忘れていたが、かなりの力がないとワタシの力を受け止めきれず、爆破霧散するぞ』
騒がしかった食卓がピタリと静まりかえる。
「し、仕方ないな。うち、おねーちゃんやし、クーちゃんに譲ったげよかなぁ」
「え、いや、うちもなんか、いきなりお腹いっぱいになってしもて…… うん、今回はレイアにあげよかな」
ドラゴン姉妹が急に遠慮しだした。
よかった、とりあえずはシロを食べることは中止に……
「……私は、食べてみようと思います。誰かがアリス様を止めなくてはいけないのですから」
うん、冷静に食べようとするのもやめてほしい。
爆破霧散しちゃうよ?
「レイアが爆破したら、私が再生してみます。ぐいっ、といきましょう」
うん、こんなとこで最高レベルの僧侶キャラ全面に押し出してくるのやめて、サシャ。
「なあ、コレって、タッくんが食べたら爆破霧散、せえへんのちゃう?」
「へ?」
カルナが突然、こっちに振ってくる。
「うちが魔剣の時も、力吸われへんかったし、たぶん大丈夫やと思うねんけど」
その発言にみんなが俺に注目する。
俺が恐る恐る皿の上のシロを見ると。
『ああ、確かにそうダナ。タクミの器は壊れてイル。ワタシを食べても爆破することはないダロウ』
え? なに? 俺が食べるの!?
「タッくん、カラメルと醤油、どっちがええ?」
「い、嫌だよっ! 何もいらないよっ!」
「塩も?」
「プレーンでいいよっ!」
「食べる気まんまんやん」
いや、無理だよっ!
シロを食べるなんてっ!
「大丈夫です。タクミさん。私が食べます」
レイアが強い決意を持って、シロの皿を持ち上げた。
「タクミさんなら、これを食べなくても黒いアリス様に勝てるでしょう。でも、きっと止めることはできない。タクミさんは優しすぎます」
いや、勝てるわけないよ。
さらに、シロを食べても勝てないよ。
「だから、私がアリス様と戦います。大丈夫、数多の神を降ろしていた身体です。きっと爆破霧散することもないでしょう」
ダメだ。嫌な予感が止まらない。
その前振りは死亡フラグというんだぞ、レイア。
「レイアっ、調味料いらんのかっ」
「ええ、プレーンでいただきます」
なんだ、コレ。ちくしょう。もう、仕方ないじゃないか。
今にも、シロを飲み込みそうなレイアから、ひょい、と皿ごと取り上げる。
「タ、タクミさん」
「もういい、俺が食べる。そして、今度はちゃんとアリスを止める」
ついにシロを食べる決心をしてしまう。
『やるではなイカ。かっこいいゾ。タクミ』
皿の上のシロもなんだか嬉しそうだ。
でも、ちょっと黙っててほしい。
しゃべっているものを食べるのはすごくイヤだ。
「タクミさん、本当は食べたくないのに、アリス様の、いえ、私達みんなのために、シロを食べてくれるのですかっ」
初めてではなかろうか。
いままで使っていたあのセリフを、心の底から本心で口にする。
「よくわかったな。その通りだ」




