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閑話 クロとアリス

 

 魔王の大迷宮ラビリンス

 その跡地に座っていた。

 砂漠に突き刺さった72本の十字架は、すべてへし折れている。

 大迷宮ラビリンスは、完全に崩壊し、そこには大きなクレーターが広がっていた。


『どうして帰ってきたのダ。すべてを破壊するのではなかったノカ?』


 頭の中に声が響く。

 目も鼻も口もない黒い存在は、ワタシの中に入り、ワタシを黒く染めた。


『頭を撫でられただけで、力が抜けたノカ? オマエの決意はそんなものだったノカ?』

「うるさい、少し黙れ」


 数百匹の虫が、頭の中を這いずるような、そんな声に苛立ちを覚える。


『黙らんヨ。オマエは最強ダ。すでに臨界りんかいを突破している。だから、全部破壊(こわ)してもいい』


「だから、全部破壊(こわ)してもいい」生まれた時に初めて聞いた言葉が、どんどんと大きくなっていく。

 いまにも、頭を突き破り、虫共が飛び出してきそうだ。


『生まれた時に、人としてのリミッターを破壊した。どこまでも強くなれるバグ。それがオマエなのダ』

「……黙れ、と言っている」

『何を躊躇っているノカ? まだ、タクミがオマエに振り向くと思っているノカ? 言っただろう、あの男はオマエのことを……』

「だっ、まっ、れぇえええーーーっっっっ!!」」


 爆発するように、大声で叫ぶ。

 同時に身体から、黒いモノが飛び出した。

 黒かった髪が元の金色にもどっていく。


『……信じられんな。意思の力だけで、ワタシを弾き出したノカ』


 黒いモノが、ワタシの前で感心している。

 まだ、中で話されるより、若干マシだ。


「ワタシはワタシの好きなようにやる。お前の指示は受けない」

『別に命令しているわけではないヨ。ただ忠告しているだけダ。オマエは人を愛するようにはできてイナイ』


 知っている。

 言われなくてもわかっている。

 だから、その言葉を口にするな。


『オマエは破壊するために生まれてきたんダ』


 どん、と足を大きく踏み込んだ。

 砂漠にできたクレーターがさらに広がっていく。

 全力の一撃を黒いモノの顔面に叩き込む。

 ぱんっ、と弾けて首から上がなくなった。


「いずれ、オマエも破壊してやる」

『すごいな、いつか本当にワタシを超えそうダ』


 頭を破壊しても、まだ話せるらしい。

 ちっ、と舌打ちして、また座る。

 黒いモノの頭がウネウネと再生していた。


「あのシロは、もう当分動けないんだろ。しばらくオマエの力はいらない」

『油断しないほうがイイ。オマエがワタシを取り込んだように、誰かがシロを取り込むかもしれないヨ』

「あの五人の誰かがか? 無理だよ。彼女達にそこまでの力はない」


 シロの力を取り込んで無事で済むはずがない。

 ワタシですら、その圧倒的な力に身体がむしばんでいくのを感じていた。


『どうカナ。あの五人なら可能性はあると思うヨ。それにもう一人、あの男だけは、ワタシも力を測れない』

「タクミなら、シロを取り込んでも変わらない。今のままでも、どうせワタシは勝つことができない」


 黒い存在は、子供の頃のタクミに出会ったと言っていた。

 まだ、冒険者になってすらいなかったタクミ。

 そのタクミに黒い存在は、手も足も出ずに撃退されたという。

 この世界の枠からはみ出たぐらいでは、まだまだ足元にも及ばない。

 タクミはその枠のさらに外側にいる。

 そう、まさしく宇宙最強なのだ。


「だったら俺を壊して終わりにしろ」


 タクミの言葉を思い出す。

 タクミは、みんなを守ろうとするだろう。

 そして、こんなワタシでも見捨てない。

 それなら、ワタシはタクミを壊すことができる。

 ワタシは、そのように生まれてきたんだ。

 

「……次で全部、終わらせる」

『期待しているヨ。彼らには逃げられてしまったからネ』


 魔王や東方仙人は、黒いモノの登場でその動きを止めていた。

 あの場で動けるのは、ワタシだけだった。

 なのに、二人は忽然とその姿を消す。

 魔王の大迷宮ラビリンスにいたはずのリックも、いなくなっていた。


『タクミ以外で動けるものがいたのは予想外だったヨ。空間魔法ダ。あの日からずっと、ワタシの再来に備えて準備していたノカ』


 魔王達が消える時に、空間の影にその姿を確認した。


「リンデン・リンドバーグか」


 幼い頃、タクミと共に黒いモノと遭遇していたらしい。

 彼女のタクミに対する想いは、かつてのワタシを見ているようで、目障りだった。


 タクミのことが好きなのに、決して側には近寄らず、ただ見守っている。

 魔王の依代よりしろとなり、リックの計画に加担し、タクミが平穏に暮らすためだけに行動していた。


 大武会の後、一度だけ彼女と話したことを思い出す。

 そうだ、最初にあの紙を渡したのは、彼女だった。


 0番。


 過去の2人に何があったかはわからないが、リンデン・リンドバーグのタクミに対する想いは、他のライバル達とは別格だということは瞬時にわかった。


『油断はしないことダ。裏で色々と動いているヨ。次は総力戦になるかもしれない。これはもう戦争なのダ』


 黒い存在の顔が完全に再生される。

 その顔が笑っていた。

 正確には、何も無かった顔に、三日月を横にしたような空間が大きく広がっていた。

 破壊が楽しくて仕方がないのだろう。

 ワタシはそうではないと思っていた。

 だが、それは破壊の衝動をただ我慢していただけだった。

 ずっと、中に閉じ込めていたものが噴出し、もうおさえることができない。


『そうダ。それでいい』


 黒い存在がワタシに近づいてくる。

 まるで、失っていた半身のように、それは自然にワタシと同化していく。


 ワタシは砂漠の中心で、産声をあげるように咆哮した。




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