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九十一話 予兆

 

 たんたんたん、とアリスが軽快なステップを踏んでいた。


 身長が縮んでいて、顔が幼い。

 出会った頃のアリスだ。


 骨だけの魔物、スケルトンに囲まれていた。

 それをアリスが、まるで一緒に踊るように、くるくると回りながら、破壊していく。

 アリスのステップはどんどん早くなっていき、俺はそれを目で追いかけている。

 アリスの表情が生き生きとしていた。


 たんたん、たたん、たんたたたん。


 ステップが跳ねるように、躍動感を増していく。

 まるで、スケルトンを破壊するのが楽しくて仕方がないといった感じだ。



 ああ、これは夢だ。

 冒険者時代、ダンジョンの中で、ヌルハチ達とはぐれてアリスと二人きりになった時の夢を見ているのか。



 スケルトンに囲まれ、アリスは俺の方を見て言う。


「ねえ、タクミ。これって生きてないよね? 全部壊していい?」


 普段から、俺はアリスに無駄な戦いをしないように諭していた。


『命を奪うという事は、その命を背負って生きていくという事なんだ』


 そう言った俺の言葉をアリスは忠実に守っている。

 しかし、スケルトンに囲まれ、パニックになっていた俺は、アリスに言ってしまう。


「そ、そうだな。元から死んでるしな。壊してもいいんじゃないかな」


 幼いアリスは、にぱー、と満面の笑みを浮かべた。



 これまで押さえていたのが弾けたように、アリスは解放される。


 たたん、たんたんたん、たたたたん。


 うじゃうじゃと地面から湧き出てくるスケルトンを、楽しそうに破壊していく。

 無邪気な子供が、とっておきのおもちゃで遊んでいるようだ。

 これが本来のアリスなのか。

 俺はずっとアリスに無理をさせていたのだろうか?


「タクミ、みてみてー。もうすぐ、おわるよ」


 破壊された骨の山を背にアリスが手を振っている。

 止めないといけない。

 破壊を楽しんだらダメだ。

 そう思って声を出そうとしたが声が出ない。


 そうだ。これは夢の中だ。

 過去の俺はただアリスに向かって、引きつった顔で手を振っている。



「アリスっ!!」


 大声で叫んだのは、過去の俺ではなかった。

 ベッドから起き上がり叫んだ、現在いまの俺だ。

 夢から覚めたのに、まだ夢を見ているようだった。

 全身にグッショリと汗をかいている。


 なんだ、どうして今になって、あの頃の夢を……


「予兆カナ」

「え?」


 隣で声がして、横を見るとそこにシロが立っていた。

 ベッドで半身を起こした俺を見下ろしている。


「ど、どうして俺の部屋にっ!?」


 思わず、ふとんで身体を隠してしまう。


「乙女みたいな反応ダナ、タクミ。今までもワタシはいきなり側にいたダロウ?」


 いや、確かにシロは最初から、いきなり現れたりしてたけど、それは女の子の姿をしていない、目も口も鼻もないただの白い者だった。

 だが、今は違う。

 透き通るように白く、幻想的なまでに美しいシロが同じ部屋にいるというだけで、心臓の鼓動が早くなり、バクバクと落ち着かない。


「と、とにかく、外に出ようか。もしこんなところを他のみんなに見られたら……」

「タクミさんっ! 大変ですっ! 空がっ! ……あっ」


 遅かった。

 見られたらまずいと言う前にドアがバーン、と勢いよく開けられる。

 入ってきたレイアが、そのままの姿勢で固まっていた。


「タクミさん、どうしてここにこの女がいるのですか?」

「い、いや、知らないよ。気がついたらいたんだ」

「胸が、私より胸が大きいからいたんですかっ!?」


 いつものレイアではない。声が怒りで震えている。

 ダメだ。何を言っても聞いてくれそうにない。


「シロ、ちょっと、何か言ってくれ」

「ん? ワタシがいつもタクミの側にいると言う話カ?」

「違うっ、そうじゃなくてっ ……え?」


 いつのまにかレイアだけではなく、クロエやカルナ、そしてヌルハチとサシャもドアの前に集まっていた。


「……みんな、どうしたんだ?」


 まだ明け方前のこの時刻に、みんなが起きていることなど今までにない。

 何か異常なことが起こっているとようやく気がつく。


「フム、全員、気配に気づいたノカ。なかなか優秀じゃナイカ」


 シロの前にヌルハチが、詰め寄ってくる。


「アレはやはりお主の関係者か?」

「まあ、そうカナ。近い存在カナ。最も遠い存在でもあるガナ」


 ヌルハチが、そしてシロが何を言っているのかわからない。


「いったい、何が起こっているんだ?」

「まだ何も起こっていない。ちょっと外に出ようカ」


 俺の問いにシロが答え、ドアのほうに歩いていくと、みんなは避けるように道を開ける。

 その後を追いかけようとベッドから出ると、レイアがギュッと手を握ってきた。


「いつも側にいるんですか?」


 上目遣いでレイアが睨んでいる。

 そんな場合じゃない気がするんだが、握られた手が砕けそうなので、ぶんぶんと首を振って否定する。


「そんなことはないぞ。今回が初めてだ」


 心の中で、あの姿では、とこっそり付け加える。


「そうですか。良かったです」


 そう言って、微笑んだレイアを見て、胸がズキリ、と痛くなった。

 なんだ。やはり、俺はおかしい。

 やっぱりシロが姿を変えた頃から、何か精神的な攻撃を受けている。


「タッくん、それ、攻撃とちがうで」


 後でずっと人間形態でいるカルナがボソリと呟いたが、振り向くと、ぷい、とそっぽをむかれた。


「いったい、何が起こっているんだ?」


 俺はもう一度、同じセリフを言ってしまう。

 今度は誰も俺の問いには答えてくれなかった。



 全員で外に出ると、誰も言葉を口にせず、ただ空を眺める。

 朝日が昇り初めて、明るくなってきているのに、西の空、魔王の大迷宮ラビリンスがある辺りだけが、黒く染まっていた。


 なんだ? この感じは?

 俺は知っているぞ。

 この感覚を……


 遥か遠くにある黒い空から、異様な気配がただよっている。

 まるで、そこだけ戻る事のできない、深い深い闇へと繋がっているようだった。


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