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九十話 謎の紙交換

 

 空気が淀んでいた。

 こんなにも、ギスギスした中でご飯を食べるのは初めてだった。

 誰も一言も話さない。

 タクミ教室が終わった後の夕食は、まるでお通夜のような雰囲気に包まれている。


「こ、今夜の夕食は、この前作って保存しておいたチーズと米を使ってリゾットを作ってみたんだ。上に削って振りかけてあるキノコは、大草原の時にベビモが見つけてきてくれたトリュフというキノコで……」


 料理の説明をしているが、誰も聞いていない。

 無言でチーズリゾットを平らげていく。

 シロが来てから、険悪な雰囲気にはなっていたが、ここまで酷くはなかったはずだ。


 シロがみんなに何かしたのだろうか。

 そう思って彼女のほうを見ると、食事の手を止めて、俺を見てニコリと笑う。

 どきん、と心臓が跳ね上がった。


 なんだ、これはっ? やはり、なにかの攻撃かっ!? タクミ教室の時から、俺はシロに謎の攻撃を受けているのかっ!?


 びきっ、という破壊音がシロ以外のみんなから一斉に聞こえてくる。

 みると、全員の握っていた銀のスプーンが真っ二つに折れていた。


「ほら、言うたとおりやろ。タッくん、ヤバイことになってるで」


 人間形態に戻ったままのカルナの声にみんなが頷いている。


 え? 俺ヤバイの? どうなってるの?


「確かに由々しき事態やな、カル姉。早くアレをなんとかせんと取り返しがつかんようなるわ」


 そ、そこまでなのかっ! 大丈夫なのか、俺っ! し、死なないよね?


「とりあえず、あの乳をもいでしまえば、少しはマシになるかもしれません」


 レイアがシロの乳を、まるで親の仇のように睨んでいる。

 俺の体調が悪いのは、シロの乳が関係しているのか?


「ヌルハチ、急がないといけないわ。シロの弱点はわかった?」

「今、ルシア王国から持ってきた文献を調べておる。それまでタクミとあやつを近づけないよう見張っててくれ。……すでにもう手遅れかもしれんがな」


 て、手遅れっ!? お、俺、もうダメなのかっ!?


「……まだだっ。まだ、間に合うはずだっ」


 アリスが立ち上がり、何故かサシャの所へ向かっていく。


「あれ、返して」

「あれって、これ?」


 アリスがサシャから、一枚の紙を受け取った。

 かわりに同じような紙をサシャに渡す。


「……本格的にヤバイってことね」


 サシャが引きつった笑みを浮かべながら、交換された紙を見つめている。

 一体なにが書いてあるんだろうか。

 まさか俺の病状が書かれているのか?


 アリスはサシャと交換した紙を持って、シロの所へ歩いていく。


「ちょっとみんなアリスから貰った紙出して、順番がずれたから交換するわよ」


 一方、サシャは食卓でみんなとアリスから貰った紙を交換している。

 え? あの紙みんなもってるの?

 俺だけ貰ってないのは、どういうことだ?


「いややわ、もう下がりたくないわ。うち絶対もっと上やと思うねんけど。タッくんと一番一緒におるんやで」

「いやヌルハチはこれが妥当だとおもうぞ。ずっと近くにいることは、メリットではない」


 やっぱり俺に関係している紙のようだ。

 下がるとか上とか、何のことだろう。


「胸の大きさも関係しているのでしょうか。ならば、私とカルナは絶望的です」

「アホかっ!うちはレイアよりあるわっ! 着痩せしてるだけやねんっ!」


 ほとんど何も着てないじゃないか、と思ったが、カルナが可哀想なので、何も言わないでおく。


「‥‥‥でもクーちゃん。後でちょっとそれ、うちにわけてくれへん?」

「私もわけて欲しいですっ!」

「無理に決まってるやろっ!」


 ダメだ。会話だけ聞いてても、紙に何が書かれているかわからない。

 でも、直接聞いたらダメなような気がする。


 そして、アリスがシロの顔の前に紙を突き出す。


「受け取れ。今はお前が一番のようだ」

「フム、コレはコレは。有り難く頂戴シヨウ」


 シロが紙を受け取った瞬間だった。

 前回の食事の時と同じようにアリスがシロに殴りかかる。


「懲りないな。無駄だと言ったダロ?」


 再び人差し指一本で、アリスの拳を受け止めようとするシロ。

 だが、アリスの拳は途中でスピードを緩め、スローモーションのようにゆっくりとなり、突き出したシロの人差し指の横を通り過ぎる。


 コツンと軽く、シロの頭にアリスの拳が当たった。


「ホエ?」


 シロが素っ頓狂な声をあげて、自らの頭を触る。


「やはりな。敵意のない攻撃には反応できない。昔、ワタシもタクミにやられた」


 魔王の大迷宮ラビリンスでアリスと出会った時のことを言っているのか?

 確かに俺はそこでアリスの頭をなでている。


「自分が無敵とでも思っていたか? 悪いがすぐに超えていく。力も、そして…… ごにょごにょ、もだっ!」


 アリスが頬を赤く染めながら、シロになにかを宣言した。

 最後のほうは、声が小さくて何を言っているのか、わからない。


「すごいナ。人間に触れられたのは、初めてダ」


 シロがちょっと嬉しそうに笑う。

 あれ、また胸が痛い。

 やっぱり俺、シロから攻撃を受けてる?


 アリスがそんな俺を、ものすごく残念そうな顔で見つめている。

 俺、死ぬの? もうすぐ死んでしまうん?


「アレ? 続きはやらないノカ?」


 アリスはシロに背を向けて、洞窟の外へと向かう。


「まだ勝てないからな。しばらく留守にする」

「魔王の大迷宮ラビリンスに行くノカ。イイネ、あそこには今、東方の仙人がいるカラナ。新しい戦い方を学んで帰ってくるがイイ」

「人の心を読むな。……バケモノが」


 アリスが捨て台詞を残して、去っていく。


「バケモノか。オマエも十分、バケモノだヨ」


 アリスに軽く叩かれた頭を触りながら、シロがそう呟いた。


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