八十九話 原因不明の体調不良
ご報告
うちの弟子の二巻の発売が3月14日に決定致しました!
これも応援してくださった読者の皆様のおかげです(≧∀≦)
本当にありがとうございます!!
現在、書籍の書き下ろし及び改稿作業をしております。
かなりの加筆修正をして、web版で書ききれなかった伏線の回収や、活躍の少なかった人物のお話を大幅に増やしております。リンデンとタクミの過去話もバッチリ書き下ろし中です(^^)
二巻も素晴らしい出来になるように、全力で頑張っていきますので、これからもうちの弟子をよろしくお願い致します(╹◡╹)
「……それではタクミさん、また後で」
レイアがガックリと肩を落としながら洞窟に戻っていく。
後姿がちょっとさみしい。
「何も言わなくていいのカナ?」
からかうようにシロが後から俺を覗き込む。
「だ、大丈夫だ。レイアはすぐに立ち直るさ」
「さて、どうカナ。タクミは女心がわからないカラナ」
「……ぐっ」
まさにその通りなので反論の余地もない。
お前の胸が大きいせいだぞっ。
とも言えず無言でシロを睨みつける。
その時だ。
「タクミ殿っ、生徒さんが集まって来ています。案内してもいいですか」
クロエが洞窟のほうからレイアと入れ違いでやって来た。
太陽を見ると、ちょうど真上にあり、タクミ授業が始まる正午を知らせている。
「もうそんな時間か。いいよ、クロエ、通してあげて」
「わかりました。ではカル姉を渡しておきますね」
久々に魔剣カルナを受け取ると、所々に傷がついて汚れていた。
よく見るとやって来たクロエの黒い肌も、火傷や擦り傷が沢山ある。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ああ、傷のことですか? 朝食の後、カル姉と特訓したんですっ。そこにいる生意気な奴をぶっ倒すために」
クロエが俺の隣にいるシロを睨む。
「ほう、そうかそうか。まあ頑張ってクレ」
「……ふん、あまり舐めるなよ。次を見ているがいい」
みんな、シロの強さを見てもまったく怯まない。
頼もしいけど、無茶なことはしないでね。
「ああっ、そういえばタクミ殿。先ほどレイアとすれ違ったのですが、随分と落ち込んでいるようでした。心配して声をかけたのですが、我を見たらさらに落ち込んでしまいました。一体何があったのでしょうか?」
クロエを見てさらに落ち込んだ。
その理由はすぐにわかる。
だってクロエ、シロよりも大きいんだもの。
最悪のタイミングで、最大のものに出会ってしまったレイアに同情する。
せめて、姉のカルナが人間形態で出会っていたら、レイアは回復していたかもしれない。
『タッくん』
久しぶりにカルナの声を聞いた気がした。
『今、なんか失礼なこと考えた?』
「い、いや…… 考えてない、考えてないぞっ!」
しかし、俺の心が読めるカルナには言い訳は通用しない。
『へえ、タッくんは巨乳が好きなんか。……授業終わったら、しばいてもいい?』
「ごめんなさい、勘弁してください」
カルナに謝りながら、青空教室の教壇に向かう。
二人きり生活のため、長い間休講していたからか、あれだけ嫌だった授業も、なんだか懐かしい。
「さあ、久しぶりの授業に行こうか」
『よっしゃ、はりきっていくで』
気合い十分なカルナの声を聞いて、さらにやる気がみなぎってくる。
初めて、タクミ授業を真面目にやってみよう、そう思って挑んだのだが……
「え、えっと、これはだな、そ、その、剣の基本的な使い方で、えと、なんだったかな」
『タッくんっ、違うやんっ、今日、魔法の授業やでっ!』
頭の中が真っ白になる。
まともに授業ができない。
原因はわかっていた。
シロだ。
教壇の真正面にある一番前の席。
そこにシロが座って授業開始から俺をじっと見つめている。
また何かトラブルを起こすんじゃないだろうか。
心配してシロを見ていたが、授業が始まってもシロは何もせず、ただ黙って授業を聞いていた。
それなのに、何故か、俺はだんだんと息苦しくなってきて、授業のことが頭から抜けていき、しどろもどろになっていく。
『ど、どうしたんや、タッくん。体調悪いんかっ!?』
「わ、わからない。なんだか、胸が熱くなって、息苦しいんだ」
『な、なんや、誰かから攻撃でも受けてるんかっ!?』
「い、いや、確かに苦しいのに、なんだか満たされるような、そんな気持ちになるんだ」
こんな感情は初めてで、自分でもなにがなんだかわからない。
『え? タッくん、それって……』
「原因がわかるのか? カルナ」
『まあ、わかるっちゃわかるねんけど、今日、いつもと違うところあるやんな?』
「い、いや、特にないんだが、強いて言うなら、シロが正面の席に座っていることぐらいかな」
『……はぁ、やっぱりそうやんな』
「えっ!? わかったのかっ、カルナっ!!」
さすがカルナだ。
俺でもわからない原因を瞬時に見抜いてくれる。
「さすがカルナだ。これはやっぱりシロの攻撃なのかっ? どうすれば防げるんだっ?」
『……教えへん。これは自分で考えなあかんことやで、タッくん』
「へ? どういう意味だ、カルナ?」
カルナの声がいつもと違う。
『……うち、先に帰るわ。バイバイ、タッくん』
突然、カルナが魔剣から人間形態に戻っていく。
授業中だったので、その光景を見た生徒達が騒めきたつ。
「すげえっ、剣を人間に変化させたぞっ!」
「初めて見たぞっ、古代魔法かっ! 魔法の授業で剣の話をしていたのは、こういうことだったのかっ!」
「相変わらずタクミ先生の授業はすごすぎるっ! もはや神の域に突入しているっ!」
大歓声の中、去っていくカルナの小さい声が耳に残る。
「……タッくんのアホ。もうしらん」
俺はカルナになにか悪いことをしたのだろうか。
原因不明の動悸に加え、カルナのことまでわからなくなる。
再びシロのほうを見ると、シロは変わらず、じっと俺を見つめている。
息苦しさが強くなり、思わず顔を背けてしまう。
「きょ、今日の授業はここまでっ」
逃げるように、授業を終わらせてカルナの後を追いかける。
シロから離れたとたんに、なぞの息苦しさがすっ、と消えていく。
なのに、俺は後ろを振り返り、遠くなったシロをまた見てしまう。
心臓の鼓動が早くなり、再び息が苦しくなる。
カルナに言われたように自分で考えてみたが、やっぱり原因はわからないままだった。




