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八十六話 八人目の同居人

 

 その姿は、あまりにも幻想的だった。

 これまでに見たどの白よりも白い。

 透き通るような白い肌に、思わず目を奪われた。


「フム」


 白い者は、自分の身体を確認するようにじっくりと見る。


「人への変化は久方ぶりダガ、悪くないカナ」

「いや、ダメだよっ!」


 思わず叫んでしまう。

 だって、素っ裸なんだもの。

 あまりの白さに目が眩み、ツッコミが遅れてしまう。


「なぜだ。肝心なところは隠れているゾ」


 たしかに絶妙な具合に伸びた長い髪が、上手く隠してくれている。

 こちらは白い肌とは対照的に、深い闇のような真っ黒な髪だ。


「服を着てくれ。できないなら元に戻ってほしい」

「フム、窮屈だが仕方ないカナ」


 白い彼女が右手を軽くあげ、宙を引っ掻くような仕草をする。

 それだけで、宙空が切り裂かれ、そこから白い着物が現れた。

 ひらひらと宙を舞い、ふわさ、と着物が白い彼女に覆い被さる。

 その一瞬で、着物の装着は終わっていた。


「これでよいカナ」


 そう言ってニコッと笑う白い彼女に、ドキッとしてしまう。

 それは以前までの不気味な笑みとは違っていた。

 笑みを浮かべる白い彼女は、まるで、この世のものとは思えないほど、美しかった。


「そ、それがお前の本当の姿なのか?」


 何故だろう。

 今の白い彼女を見ていると、胸の奥が締め付けられるように熱くなる。

 容姿の美しさだけなら、アリスとて負けていない。

 しかし、白い彼女には、またそれとは別の、美しさだけではない何かがあった。


「正確には少し違う。オマエの好みに合わせて変化させたカナ」

「へ?」


 その姿、俺の好みなの?


「自分でもわからんノカ? 深層記憶に障害があるナ。おそらく、失った記憶に似たような人物がいるのだろう。オマエの過去はワタシにも覗くことは出来ないカラナ」


 すっかり、忘れていたが、そういえば、俺は幼い頃の記憶がなかった。


「では、明日。皆に紹介してくれるカナ」

「いや、紹介も何も、俺もお前のことまるで知らないぞ」

「……フム、そうだったカナ」


 しばらく、考えるようなポーズで停止する白い彼女。

 今まではただ不気味なだけだったのに、その佇まいを見るだけで、自分の心音が少し早くなるのがわかる。


「シロでいい。古い知り合いと言ってくれれば、後はコチラが考える」


 そう言った白い彼女、シロが景色と混ざるように消えていく。


「あれ? そういえば、なんで今日じゃなくて、明日なんだ?」


 その理由に気がつくのは、随分と後になってからのことだった。



 洞窟に戻った後も、部屋割り問題は解決しておらず、仮部屋ということで、全員俺とは離れた部屋で寝ることになった。

 五日間の二人きり生活で疲れていたのか、横になった途端にすぐに意識が途絶え始める。

 冒険者時代に、サシャがよく歌っていた歌が聞こえた気がしたが、それが夢なのか、現実なのかわからないまま、深い眠りに落ちていった。



 朝になり、朝食の準備をしようと洞窟から出ると、当然のようにシロが外で待っていた。

 はぁ、と大きなため息を吐いて、話しかける。


「じゃあ、みんなに紹介しようか」

「ウム、よろしく頼むカナ」


 もうどうなっても知らん。

 半分ヤケクソで、シロを洞窟の中に連れて行く。

 ヌルハチが改装してくれた洞窟は、中心部に大きな丸型の食堂があり、その周りをグルリと囲むように12の部屋がある。

 十豪会じゅうごうかいで使った円卓をイメージして作ったようだが、さすがに12もの部屋はやり過ぎだと思う。


「大丈夫カナ。たぶん、まだ増えるカナ」

「勘弁してくれ」


 ただでさえ、処理しきれないのに、これ以上増えたらどうなるかわからない。


「なあ、やっぱり考え直さないか?」

「ん? どうしてカナ?」

「どう考えても、うまくいくと思わない。すごくイヤな予感がするんだ。絶対、とんでもないことになる」


 そう言った時、シロは凄く嬉しそうに笑った。


「それがいいんじゃナイカ」


 悔しいが、その笑顔があまりにも綺麗で何も言えなくなってしまう。



「あれ? 何をしているのカナ?」


 朝食の前に、みんなにシロを紹介してしまおうと思っていた。

 しかし、急遽予定を変更し、食堂で簡単な朝食を作ることにする。

 もし、みんなとシロが険悪になり戦いが始まったとしても、俺には止めることが出来ない。

 俺が出来ることは、みんなにうまいものを食べさせて、その場を和ませるくらいしかなかった。


 ヌルハチが作ってくれたキッチンを改めて見る。

 食堂と連結しており、かなり広く設計されていた。

 俺の身長に合わせて作ってくれたのか、包丁や鍋などが丁度いい位置に配置されている。

 皿やフォークなど、食器もすべて銀製品で揃えられ、南方の技術を使ったと思われる、最新鋭の石窯まで設置されていた。

 洞窟の中で調理するのは初めてだったが、今まで以上に美味い料理が作れそうだ。


「不思議ダナ」


 朝御飯を作る俺を後ろから見ながら、シロがつぶやく。


「オマエはどれだけ鍛えても、強くなることが出来ナイ。まるで、力そのものが、オマエを嫌っているヨウダ。なのに料理の知識や経験は、余すこと無く受け止めてイル」


 何やらシロがブツブツと話しているが無視して料理に集中する。


「本当にオマエは一体何者なのダ?」


 それは、そっくりそのまま、アンタに言いたいよっ!


 心の中でそう叫びながらも、料理を作る手は一切休めない。

 七つの鍋に水を入れ、均等に沸騰させ、お酢を入れてかき混ぜる。

 弱火にした後、その渦の中心に次々と卵を落としていく。

 こんな料理が同時にできるようになったのも、すべてヌルハチのおかげだ。

 感謝しながら、仕上げに取り掛かる。


「さあ、完成だ」


 一気に七人分の朝食を作り上げ、テーブルに並べていく。


 食堂に置いてある手持ち鐘(ハンドベル)を鳴らして、朝食の合図を送る。


「さあ、始めルカ」


 シロの声と共に五つの扉が開かれた。




 

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