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七十九話 四分の二

 

「さて、まずは誰からかかってくる? 三人まとめてでもかまわないぞ」


 アリスが悪のラスボスみたいなセリフで、みんなを挑発する。

 洞窟に住める定員は二名。

 その二つの座を獲得するため、アリス、レイア、クロエ、サシャの四人が争っている。


 レイアもクロエも、アリスの気迫に身動きが取れない中、サシャは余裕の笑みを浮かべて、一歩前に出た。


「最初はサシャからか。よし、かかってこい」

「かかってこいじゃないわよ、アリス。まさかバトルでもしようってんじゃないわよね?」

「え?」

「え? じゃないわよ。タクミと一緒に住むのに、強くないといけない理由なんて、どこにあるの?」


 う、うん、確かにそうだ。

 サシャうまいこと言った。

 サシャの口撃(こうげき)にアリスが、じりっ、と後ろに下がる。

 そういえば、冒険者時代から、アリスがサシャに口喧嘩で勝ったことなかったなぁ。


「そ、それはタクミの弟子として一緒に住むなら、当然、強い者が優先されるべきだろう」

「なんでよ。師匠は、弱い者を強くする為に存在するのよ。一番強い人より、一番弱い人のほうが優先されるべきじゃない?」

「い、いや、それは、その、そのとおりなんだが、しかし……」


 アリスが俺のほうをチラチラ見ている。

 いや、無理だよ、アリス。俺、助けないよ?

 全部、拳で解決するスタイルは、俺もいけないと思っています。


「まあ、そうなったら確実にアリスは一緒に住めないわね。今あやまるなら、選考方法を変えてあげてもいいわよ」

「ほ、本当かっ、優しいなっ、さすがサシャ」


 よろしくてよ、といった感じでサシャが、髪をかきあげる。

 悲しいかな、アリスがサシャに勝てる未来がまったく見えない。


「ではサシャ殿、一体どういった方法で、タクミさんと一緒に住む者を決めるおつもりですか?」


 アリスに変わり、今度はレイアがサシャに質問する。


「そんなの、タクミに決めてもらうのが一番に決まってるじゃない」

「へ?」


 いつも自分の意志とは関係ないところで、すべてが決まっていた。

 今回もまたどうせみんなで勝手にワイワイ騒いで、一緒に住む二人が決まると思っていたのだ。


『コレは、コレは』


 後ろにいる白い者が、うんうん、と首を縦に振った後、また「ニヤリ」と笑う。


『いい展開じゃナイか!』


 コイツは本当にこの状況を楽しんでいるだけのようだ。

 すっごく邪魔だし、追い出したい。

 だが、それが不可能なこともわかっている。

 だんだんとコイツの正体がわかってきた。

 きっと、コイツは、誰も干渉することができない存在だ。


「ちょっとまってやっ! 今、この場でタクミ殿に決めてもらうんかっ? そんなん、一緒に住んでたアンタとレイアが有利に決まってるやんっ!」


 クロエの抗議にアリスが腕を組みながら頷いている。

 どうやらアリスは、口ではサシャに勝てないので、クロエに乗っかる方針のようだ。


「そうですね。確かにそれは平等ではないですね。いいでしょう、では、こうしましょう。明日から、一人一日ずつ、タクミと二人だけで暮らしましょう! その後にタクミ自身に決めてもらったらみんな平等でしょう?」


 サシャの爆弾発言に、三人だけではなく、俺まで衝撃を受ける。


「えっ、ちょっ、二人? いきなり二人きりなんっ!?」

「そうですよ。怖気(おじけ)づきましたか? クロエさん」

「そ、そんなことあらへんっ! う、うちは、うちはいつでも覚悟は出来てるでっ!!」


 なんの覚悟が出来ているのだろうか。

 恐ろしくて聞けない。


『ちょっと、タッくんっ! クーちゃんになんの覚悟が出来てるか聞いたげてっ!!』


 いや、だから聞けないんだってっ!!


 カルナの声に心の中で激しくツッコむ。


「そう、クロエさんは大丈夫と。レイアも大丈夫よね? しばらくは二人で暮らしてた時もあったみたいだし」


 そう言ったサシャの目がちょっと怖い。

 確かにレイアとは、チハルが来るまでしばらく二人で暮らしていたが、もう随分昔のように感じてしまい、今さらまた二人で暮らすのは、少し緊張してしまう。


「も、もちろんです。ま、ま、また元に戻るだけですからね。わ、わ、わ、私達にとっては慣れ親しんだ日常となんら変わりありません。ね、ねぇ、タクミさん?」

「う、う、うむ。よ、よ、よ、よくわかったな、その通りだ」


 二人して真っ赤になって、頷き合う。

 ダメだ。めっちゃ意識してしまうし、全然慣れ親しみのない非日常だ。


「最後はアリスね。どう? この勝負受けれるかしら?」

「ふん、当然だ」


 アリスが胸を張ってサシャの前に対峙する。


「ワタシとタクミの仲良しぶりに、敵うものなどあるはずもないっ。この勝負受けてやろうっ!」


 だ、大丈夫か、この勝負。

 四人のうち、一緒に住む二人を選ぶということは、二人を見捨て切り離すということだ。

 そんなことが、果たして俺にできるのだろうか。


「では、今日は各自、準備をして勝負は明日の朝から始めましょう。順番はアイウエオ順でいいかしら?」

「ちょっと待て、それだとワタシからにならないか?」

「自信満々なんでしょ、アリス。順番なんか気にするの?」

「いや、気にならんっ。ワタシからいこうっ!」


 アリス、クロエ、サシャ、レイアの順に、明日から四日連続で二人きりの生活が始まることになってしまった。


『……分岐点ダヨ、タクミ。どの選択肢(ルート)を選ぶかトテモ楽しみダヨ』


 誰と誰を選んでも、大きな波乱が待ち受けている。

 そんな予感がして、俺はその場から逃げ出したくなった。




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