たった1つの想い
6「たった1つの想い」
俺が呆然としていると、エルニは先程より落ち着いた声色で
「まずはじめに言っておくけれど、エルの体調は問題ないわ
今は魔力不足で再び眠っているけれど、心配しないで
・・・っで、ここが大きな問題なのだけど、
エルが先程光ったわよね?それは精霊契約成立の光で、とても珍しいものではあるのだけれど、前例が無いわけではないわ
でもね、問題はエルがリンクを使用してしまったということよ」
そこで一度止めると、少し難しそうな顔をして続ける
「この子は貴方の毒を無効にするために、貴方と自分のパスをつないで、状態異常を無効にするため、リンクを使用したみたいね
まあ、リンクが使用された契約は契約の中でもごく稀に存在するには、存在するわ
でもね、それを下級精霊が行なったというものは前例が存在しないわ」
「そして、リンクでの契約は上級以上の魔力量であれば、そこまで問題なかったのだけれど、下級の魔力量の場合はとんでもない欠点が存在するの・・・」
そこまで言ってエルニは言葉を区切る
な、なんだ!?もしかしてこのままじゃ死んでしまうとか?いや、でも、今は大丈夫って言ってたし・・
クソ・・俺が早く誤解を解いておけば・・・
そんな風に最悪のシナリオを思い描いていると
エルニは深刻な顔で説明してくれる
「それは、契約者と文字通り離れなくなるの文字通りにね
体の一部分に接触していないと、数分で精霊が消滅してしまうのよ・・・
もちろん、一定量以上の魔力を手に入れたら、離れることができるようになるのだけれど・・・
要するに、貴方とエルは一心同体になってしまったのよ・・・」
う、うん?
なんかかなり深刻な顔しているけど、ようはエルと一緒にいればいいだけでは?
まあ、完全に引っ付いたままだと多少不便ではあるだろうが、消滅に比べれば大したことないわけで
「え、えっと・・ようはエルと一緒にいればいいだけだよね?エルが育つまで
それって、別に大したことじゃないような?・・・」
俺が苦笑しながら告げると
「は、はあ!?貴方わかってるの!?
精霊というだけで、どれだけ人間から狙われるのかを!目には見えていなくても、ぼんやりとその魔力を感知できる人は数多く存在するわ
だから、精霊がいるというだけで、無理矢理にその精霊を奪うため貴方が狙われるのよ!勿論命を!」
「いくら、精霊と契約する利点があったとしても、この子はまだ下級精霊よ
貴方が狙われても、完全にその障害を排除することは出来ない・・・
そんな状況で、貴方は出会ったばかりのこの子を手放さないなんて言えるの!?」
エルニはとても真剣な目で睨みながらも、それでいてどこか縋るような眼差しを向けてくる
俺はそこで初めて、この子にとってエルがどれだけ大切な存在であるかを知った気がした
年数などはわからないが、それなりの時間をこの子は共に過ごしてきたのだろう
だから、我が子のように思っている
その子供が、出会ったばかりの人間の決定で生きるか死ぬかが決まってしまう
しかも、その決定に人間側のメリットが少ないときた
それは絶望的だろう、わざわざデメリットが多い方を選ぶものなんて殆どいない
でも俺は思った
これまで人生、まあ前の世界のことになるんだけれど
実際は食べていないけれど、毒キノコを食べたと思って血相を変えて心配してくれたエルニ、俺が死ぬと聞いて、涙を流しながら死なないでと抱き着いてくれたエル
そんな風に思って行動してくれる人たちは一体どれ程いただろうか?
家族はそう言ってくれたかもしれない、けどこれまでの同級生、バイト仲間たちは?
俺はそこまで考えると、一瞬でも他の可能性を考えていた自分に苦笑する
ここで、彼女を選ばないと誰にも顔向けできないだろう
そこまで思えば答えは1つだ
「そう・・だな、この子といれば俺は多くの人から狙われてしまうんだよな、しかも、この子には俺を守るだけの力もまだ持っていない
普通に考えて、俺はこの子を無視して、自分のことを考えたほうがいい」
俺はそこで一度言葉を切る
人生の大きな選択肢である話し合いに緊張もあり、言葉を区切っただけであるが
エルニはそう捉えなかったみたいで・・
「お、おねがい!この子のことはどうか見捨てないで!
なんでもするから!この子と一緒にいてくれるだけでもいいから・・・
だから、どうか・・お願い!、ううん!お願いします
この子を・・、エルを助けてくださいませんか!」
エルニはそう言いながら、俺に向かって膝をついて、土下座までしようとしてくる
それを見て俺は
膝をつくエルニの手を取り、俺も地面に膝をつきながら、目線を合わせ
「落ち着いてエルニ、まだ話は終わってない
普通は見捨てる道を選ぶと思う、危険だし、戦う力もないからね、
だけど俺はエルやエルニに助けてもらったんだ
今度は俺がこの子を助けてあげないと」
そこまで話す俺を遮り
「助けたって、私達まだ貴方に何も・・・」
そう言いながら、涙に濡れながら困惑した瞳を俺に向ける
「ううん、ちゃんと俺は助けてもらったよ
俺は食べてないけれど、死んでしまうかもしれないと思い、俺のために頑張ってくれたエル
そして、出会って間もない俺を心から心配してくれたエルニ
俺は君達二人にちゃんと助けてもらってるんだよ?」
「たとえ、その行動が勘違いからの行動だとしても、「もしかしたら」食べていたかもしれないときに、君はきっと俺を助けてくれたと思う
だからありがとう、今度は俺の番だよ
俺はたとえこの子といることで、命を狙われたとしても、俺はこの子と一緒にいるよ
この子の笑顔が好きだしね」
俺はエルニに手を貸し立ち上がらせる
俺がこんな選択を選んだ、1番な理由はやはり彼女達の「優しさ」だろう
俺はその優しさに応えたいと思った、それが理由だ
エルニは信じられないと言った表情で俺を見つめる
「だから、俺はこの子と一緒にいたい」
「!、・・・・・はい!ありがとうございます!」
エルニが笑顔になったのは言うまでもないだろう