悲鳴と絶叫の中で
温羅さんSIDE。読んでくださり有難うございます。
「なんだ! 一体何が起こっている!」
悪の秘密結社『ONIGASHIMA』の頭目「温羅」は状況を把握出来ていなかった。
「ボス! 敵の正体が分かりました!」
「何?! 一体どこのどいつだ?」
「敵は『KIBIDAMGO』、例の反乱組織の仕業です!」
「『KIBIDAMGO』……あいつらかぁ!!」
温羅は今の状況を作り出した反乱組織を知っていた、数年前から何かと自分達の邪魔をする鬱陶しい奴らだった。
「おい! 何故敵の侵入を許した! 防衛部隊は一体何をしていたと言うんだ」
「それが、急に上空から大爆撃により戦力を大幅に削られ、その後に万を超える軍隊が押し寄せて来て対処しきれず」
「ええい! 役立たずどもが! 御託はいい、一体どこまで侵入を許したのだ?!」
「只今、第4シェルターまで侵入中です!」
「第4だと!? ここまで来るのも時間の問題ではないか!」
この秘密のアジトは第7層までシェルターが張られていた、万全の防衛体制その防衛力は世界一と自負していた。
「なんたる失態、なんたる無能ども! 任せては置けない! 私が直接指示する!」
直接、指示を出し温羅はここまで侵入を許した存在を無視できなかった。
「桃太郎……」
自分が十年前に殺した研究者の孫息子だった、あの当時温羅は翁と嫗の研究していたクローン技術を欲していた。
絶対に自分を裏切らない部下、当時の温羅には喉から手が出る程に欲していた。
「あの生き残り風情が……」
まさかここまで力をつけて私に反撃をしてくるとは夢にも思っていなかった。
「フ……フハハ……フハハハハ」
「ボ、ボス?」
突然温羅は笑い声を上げ始めた、愉快だこんな事こんなふざけた事態おかしすぎて笑えてくる。
「舐めるなよ、良いだろう……来るなら来い桃太郎」
快進撃を繰り広げる桃太郎達を見て温羅は暗く笑う、笑ったことによって自分の感情も落ち着いた。
「おい、お前私のコレクションで一番良いワインを持って来てくれないか?」
「は?」
「……いいから持って来い」
「は、はい! ただいま!」
赤ワインの風味を味わいながら温羅は侵入して来る桃太郎をじっと眺めていた。
頭は沸騰しそうにキレていた、だが表面は大人しく淡々とその報告を聞いていた。
「桃太郎……素直に賞賛してやろう、実に見事だ。見事だ……」
椅子に足を組み優雅に敵の到着を待った。
「だがな……貴様に私は殺せない、これは子供の遊びじゃないんだよ」
薄くニヤケながら待つ温羅の目の前で最後の第7シェルターの扉が爆破された。
犬の特別製の爆発によって木っ端微塵に吹き飛ばされる。
「兄貴! つきやしたぜ! あいつが温羅です!」
「……あぁ分かってる忘れるわけがねぇよ」
爆破された向こうには途中から合流した「犬」「猿」「雉」そして「桃太郎」がいた。
「よくぞここまで到達した、先ずはそのことを褒めてやろうではないか」
「……そいつはどうも」
「桃太郎……だったか?どうだ俺の部下として一緒に世界を支配しないか?」
「……何?」
「貴様ほどの力と才覚、そして私の手腕と経験があれば世界を牛耳るなど容易い」
「そんな話に乗ると思っているのか?」
「乗らないのか?」
「あぁ貴様の泥舟に乗るつもりはねぇよ」
「泥舟か……言ってくれるな、ハハハハ! 折角のチャンスをふいにしたか、愚か者め」
「俺は、俺たちは貴様を倒し、お前と言う悪を滅ぼす!」
「やれるものなら、やってみろ!!!」
そう言うと温羅の周りから温羅と同じ顔つき身長の男達がぞろぞろと出て来た。
「な、なんだこれは! 温羅が沢山いるだと?!」
「貴様は自分の翁と嫗が何を研究していたのか知らなかったようだな」
「研究?」
「クローンだよ、クローンの研究をしていたんだ、優秀な戦士、裏切らない部下、そして強靭にして圧倒的な肉体!」
「クローンだと!?」
「そうだ! 遺伝子ごと優秀な遺伝子へと作り変え、体を鋼のように頭脳を天才に作り変え放題だ」
「……」
「ここには人体をはるかに超えた超人的な戦士が500! 貴様ら、貴様ら如きに! こいつらを倒せるのかな?」
椅子に座りながら踏ん反り返ってまたワインを片手に温羅は見下した。
「桃太郎、所詮貴様にこの俺は倒せない、精々足掻いてみせろ」
温羅は桃太郎たちが到着したにも関わらず、一人上機嫌で笑っていた。