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楽しい自殺

作者: 横山裕奈
掲載日:2018/03/28

「ねぇ」

「……なにかしら」

 屋上に立つ少女に、少年はあくび交じりの声をかける。

「死ぬの?」

「そうね、死ぬわ」


 フェンスの向こう側に立つ少女は、振り返って笑ってみせた。

「じゃあ最期に話さない?」

「人生最期の話し相手にしては、妙なやつに見つかったわね」

「妙なのって俺のこと? ひどいなぁ」

 すとん、とフェンスを乗り越えて、また少女は戻ってくる。


「あれ、どしたの」

「あそこ、不安定だから。話してるうちに落ちたらお笑い種でしょ」

「確かにね。僕も降りた方がいい?」

「どっちでも」

 屋上の、さらに高くなったところ。そこに寝そべって、少年は明るく笑う。


「じゃあこのままで。ね、どうして自殺するの?」

「ありきたりな理由よ。聞かなくていいわ」

 それだけ告げて、少女は黙る。それ以上話すことはないのだろう、少年もまた笑顔のまま次の質問をする。

「ここから飛び降りるのって、なんで?」

「そんなの……ここに住んでるからよ。遠くまで行くのも面倒だわ」

 当たり前だと言いたげな口調で、少女は言う。


「え、ここに住んでんの? 俺も俺も」

「あら、そうなの。高校は?」

「えっとねー」

 言い合った高校は、違う高校だった。それは会わないはずだ。

「遠いところに通ってるのね」

「そ。だから家出るの早いよー、朝6時とか」

「まだご飯食べてるわ、私」

「そりゃそうでしょ。下手したらまだ寝てるとか?」

「それはないわよ」


 気分を害したように口を尖らせる少女に、少年は笑いかける。

「ごめんごめん。……遺書って書いた?」

「書いたわよ。原因についてだけ簡単に。それ以上に書くことなんてないわね」

「先立つ不孝を~、的なのは?」

「書くわけないでしょ」

「まぁテンプレ過ぎてださいもんね」

 きっと親にも原因の一端があるのだろう、と思いつつも少年は踏み込まない。


「……そろそろ逝くわ。また数十年後かに会うかもしれないわね。……ああでも、自殺したら賽の河原だったわね」

「さぁ、会うかもね。賽の河原で」

 妙な人ね、と少女は笑う。


「ねぇ、最後に1つだけ」

「なに?」

「止めようとしないのはなぜ?」

「止めてほしくないだろ?」

「もちろんよ」

「それがすべてだよ。止めるのが優しさじゃない。あんたは止めてほしくないだろうし、俺が止めてたらなにも聞かずに飛び降りた。違う?」

「違わないわ。……ありがとう。それじゃあね」

 軽やかな動きで、少女はフェンスの向こうに消える。そして少し遅れて、肉の潰れる音。


「かわいかったし、もったいないなぁ」

 でも死後じゃ普通の姿で会えるだろう、と根拠のない確信を少年はする。

「数十年後じゃないんだよな。数十秒後、だよな」

 少年は持っていた瓶の中身を口に含む。きっと騒ぎになるだろう。同じ時間に、2人の高校生が死んだ。遺書では少年について触れられていないのに、なぜ同時に?

 混乱する大人を思い描いて、少年は喉の奥で笑う。視界が黒く染まる。まぁどうせ、1日もしないうちに俺らのことなんて忘れられるだろうけど。


 でも、それでも。自分しか知らない真実がこの世にあると思うと、少年は楽しいのだった。

お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] (≧∇≦)b 好き!自殺しよー今から
[良い点] 平穏じゃない [気になる点] 男のほうを詳しく [一言] 楽ちい
[気になる点] 少年は最後毒で死んだんですか?
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