過去5
退院1週間前。
包帯から解放される日がやって来た。
俺は、嬉しくてたまらなかった。
仲間には退院の事を内緒にして、こっそり皆を驚かすのも良いかなー。
とか考えて、1人で喜んでいた。
「お願いします!先生!」
まずは、身体の右手を中心とした包帯の解放。
相変わらず、凸凹して火傷の後は治らないけど、いい感じだ。
次は、今まで触れる事の許されなかった、顔に巻かれた包帯の解放。
外された瞬間、病室ながら、今までとは違う風を身体全体に感じる事が出来た。
(よしっ!)
そして、隠れていた顔の感触を…
触れてみた。
こちらも、腕と同じで凸凹感がある。
まあ、しょうがないか。
何もしていないのに、左上に引っ張られる違和感…。
更に、髪に触れようと上に手をあてがうが、度々1.2本の毛に触れる事はあるけど、束になった髪の毛と言う感触がない…。
喜びが不安に変わる…。
病室を抜けて、鏡を探しに行く。
走る!
「何処だ!」
走る、探す、走る、探す、走る、探す
「何処に鏡があるんだ!」
走る、探す、走る、探す、走る、探す…
「無い訳がないんだ!」
走る、探す、走る、探す、走る…。
そして、とうとう窓に写る自分の顔を見つけた…。
これが、俺の顔…
これが、俺の顔…
これが、俺の顔…
思わず、声に出していた…
「これが!俺の顔!!!」
顔の左半分は爛れて、耳も変形。
左前方の髪は無くなり、左側面だけ禿げ上がっていた。
「ーーーーー!!!!」
言葉に表せない叫びを上げた!!
先生が、後ろからやって来た。
「これが最善だった。すまない」
「ーーーーー」
既に言葉にもならない…。
この、虚無感…。
涙も出ない…。
ふと浮かんだのが、自警団仲間の顔。
アイーダの顔…。
こんなんじゃ、会わす顔が無い…。
「先生…、退院を早める事は出来ますか?」
「あぁ、可能だよ…」
「じゃあ、明日にでもお願いします」
翌日。
顔に、布を巻き皆を避ける様に、1人家に帰った。
帰ると、父親が家の前で待っていた。
病院から報告があったのだろう。
「ちょっと来い」
「はい…」
工房に連れていかれた。
「まず、布を取れ」
「はい…」
父親の顔は変わらない。
「お前、道具を持てるのか」
「左手なら持てます」
「利き腕だった右手はどうした」
「痺れて上手く持てません…」
それを聞いた父親は目をつむり…
「そうか…。なら、鍛冶屋の成人の儀は無理だな」
「そんな!!」
更に父親は言う。
「片手で出来る鍛冶は無い、別の生き方を考えろ」
「出来ます!絶対やりきります!お願いします!成人の儀を受けさせて下さい!」
父親は凄みを増して、
「左手も失いたいのか!」
「ーーーー」
何も言えなかった。
「話は以上だ」
俺は、自分の部屋に入った。
久々の部屋だが変わりは無かった。
そして、机に置いていた鏡を手に取り、自分の顔を見直した。
何て酷い顔だ…。
左手周辺の火傷の後も見る。
俺、化け物じゃないか…。
「新・人物紹介」
エンハンス家
党首:ウィリアム・エンハンス