白昼夢
俺はその場に居ることが恥ずかしくなり、自分の部屋へ戻った。
ベッドに顔を押し付け、自分の不甲斐なさに苦悶したが、まだ疲れていたのか、俺の意識は次第にまどろみの中に溶けて行った。
ここはどこだろう。
辺りには靄がかかっていて先が見えない。
また夢を見て居るのだろうか。
目を凝らしながら進んでいると、霧の中から人が現れた。
腰まで伸びる銀色の髪はとても美しくその赤い瞳は全てを見透かしているようだ。
美女と言う言葉がしっくりくる。
しかし、初対面だと思うが、どことなく懐かしい感じがする。
目の前の女性が気さくに話し掛けてきた。
「やあ、ライザ君!」
「えっと……誰でしたっけ?」
「え〜! それは酷いじゃないか!」
「酷いと言われても……どこかで会ってるとか?」
「会ったも何も、あんな事やこんな事までする仲だったのに……」
この人は一体何を言い出すんだ……。
当然ながらそんな覚えはないし、そんなに女っ気のある人生ではなかった気がするんだが。
「いやいや、ごめん、ごめん、ウソだよ、ウソ」
「でしょうね……」
「でもね、そんなに他人行儀になるような仲ではないのは事実だけどね!」
「すみません。全然思い出せません……」
「なんで丁寧語なの!? まぁ、今知らないのは至極当然か。少しだけ、君と話す事ができる力の余裕ができたからちょっとアドバイスをしようと思ってね」
「はぁ……」
「君は悲観するほど弱くない。君のスキルの使い方次第だ。ディーからスキルのことは聞いてるかな?」
「ディー? もしかして……師匠の事を知ってるのか?」
「へぇ、師匠って呼ばせてるんだあいつ……まぁ、いいや。君の固有スキル多重詠唱を上手く使うとね、もっと戦えると思うよ?」
「でも、俺の魔法を何発撃った所で変わらないじゃないか」
「そうじゃあないよ。一発一発は弱いかもしれないけど、魔法を同時にバラバラで使うんじゃ無くて、同時に唱えた魔法を合わせて使うんだ!」
ん? 言っている意味がよくわからないぞ……。
合わせて使うって、それぞれバラバラになりそうな気もするが。
目の前の女性はジェスチャーを加えながら説明を続けてくれる。
「んー、つまりね、同時に唱えた魔法を一つに束ねて使うって事だ!」
両手で? 違う魔法を使って? 両手を合わせるイメージらしい。
そんな動きをしていた。
流石に、違う魔法を同時に使った事はないな。
同じ魔法でも、別々に使えば良いのだろうか。
しかし、こんなに親切に教えてくれる目の前女性は誰なんだろうか。
「あんたの名前は? なんでこんなに詳しく教えてくれるんだ?」
「そうだねぇ……と言うか、もうそろそろ時間みたいだ!」
「時間って?」
「まぁ、またきっと会えるよ! それまで頑張りな! 君なら大丈夫だ!」
次第に目の前のモヤが濃くなり、女性を覆い隠していく。
もっと聞きたい事があったんだけどな。
と思っていると、最後に大きな声が聞こえた。
「忘れてた! 王宮には必ずアリスと一緒に来るんだよ!」
その言葉が最後になり、気づいたらベッドに横たわっていた。
白昼夢でも見たのだろうか、なんとも懐かしく悲しい気持ちになった。
しかし、最後の言葉は何だったんだろう。
王宮にはアリスと行けか……。
自室から出ると、4人が王宮へ向かう後ろ姿が見えた。
結局ギドは来なかったのか。
みんなが出て行った後、俺はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。
思い返すと、これまで散々フォローしてくれていたのに、ちょっと言い過ぎたか。
俺に何か出来ただろうか……。
夢の中であんなに励まされたが、それでも、俺の足は館の外へ向かなかった。
どれくらい経っただろうか、力無い身体をゆっくりお越し、立ち上がった。
これからどうするか……。
だが、考える間も無く屋敷の中に大きな声が響いた。
「ライザさん!! いますか?!」
声のする方へ振り向くとそこには、はぁはぁと息を切らしたアリスが立っていた。
もしかして、引き返してきたのか?
「アリス、どうして……?」
「やっぱり、ライザさんが一緒じゃないとダメです!」
「でも、俺行っても意味ないだろう?」
「その言葉は聞き飽きました! それに、どうして王都に来たんですか? 目的を忘れちゃったんですか? ライザさんの目的はライザさんしか果たせないんですよ?!」
アリスの凄い剣幕に俺は圧倒された。
そうだ、俺は何故王都に来たんだったか。
明確な理由があったはずだ。
しかし、そう思ったとしても、俺の力のなさを自覚し、意気消沈してしまっている。
俺は、俺は、どうすればいい……。
「迷うことなんてないと思いますよ? 強い意志があれば、きっとなんとかなります」
俺とアリスしかいないと思っていたが、屋敷の奥から聞こえてきた声の主はリズだった。
アリスの声で目が覚めたんだろう。
まだ本調子ではない身体を引きずりながら現れた。
「しかし……また迷惑をかけるかもしれない……」
「ディーナ様より強い人が出てきても、お二人ならなんとなかっちゃうと思うんです。だって、もしそれが奇跡に近い事だとしても、既にお二人で奇跡を起こされたじゃないですか! その奇跡を授かった私が言うんだから間違いないです!」
「そうです! いけばなんとかなります!」
「ははは……それは頼もしいな……リズ、すまない」
「どういたしまして」
リズは俺の顔を見て微笑んだ。
彼女の言葉は何も根拠はないのだが、真っ直ぐに俺を信じてくれているのだろう、俺の心に掛かっていたモヤが晴れて行くのを感じた。
そして、アリスの言葉の通り、俺はおな馴染みの足取りを探しに来たんだ。
戦いや自分の力ばかり気にして、本来の目的を忘れていた。
俺でも何かやれることがあるかもしれない。
拳を握りしめる。
「よし! 行くか!」
「はい!」
俺は両手で両頬をぴしゃっと叩き、気合いを入れ、アリスと共に館の扉を開く。
手をかけた扉は少し重く感じた。




