教会
助けられたお礼がしたいと少女から申し出もあり、現在は馬車に乗っている。
さっきの事も気になるし、もしかすると王都まで連れて言ってくれるかも知れない。
淡い期待を胸に、好意に甘え同行する事にした。
暫く馬車の中は静まり返っていたが、少女から沈黙を破られた。
「先程は助けて頂いてありがとうございます」
少女は、金髪の髪を二つに分けて結った頭を深々とお辞儀をしながらお礼を言っていた。
青いふわっとした服装はどこかのお嬢様なのかと思わせる。
「自己紹介がまだでしたね。私はアリシアと申します。みんなからはアリスと呼ばれてます」
「……あ……ああ、じゃあ、俺もアリスって呼ばせてもらうよ」
名前を呼ばれた事が嬉しいのか、アリスがこちらを見てニコニコしていた。
じっとこちらを見て、俺の自己紹介を待っているようだ。
「あー、俺はライザって言うんだけど、そう、普通のライザ」
普通ライザって何だ? 人と話すの事が緊張しすぎて挙動不審な会話をしてしまった。
恥ずかしそうにアリスの方を向くと、ニコニコしていた。
とりあえず、いいか……。
「そういえば、さっきのは?」
アリスの使ったのは確かに回復魔法に見えた。
しかし、こんな馬車に乗ってたり、服装を見ると、魔族じゃないよな……?
少し間を空け、アリスが話し始めた。
「……気になりますよね?」
「ああ、もしかして、魔法? だよな……?」
「そう、ですね。魔法です。あ、でも魔族ではないですよ? ちゃんと人間です」
「でも、人間が魔法なんて……」
「普通では考えられないですよね?」
と、彼女が苦笑いながら答えた。
「ナイショですが、王都へお呼び頂いた時にこの力を神様より授かったんです」
「……神様?」
「はい。襲われたのは王都からの帰りだったんですよ」
アリスは王都からの帰りなのか……。
王都に行けるかもという考えは残念ながら潰えた。
しかし、王都で人間が魔法を使えるようになる?
そんなの、聞いた事ないぞ。
それと、さっきの野盗は何か関係があるのだろうか。
「そういやー、さっきの襲って来たやつらには心当たりは?」
「特にはないですが、野盗に襲われたのも初めてです」
「ふむ……」
ガタン
荷台が軽く震度し、馬車が止まったようだ。
「あ、到着したみたいですね!」
咄嗟に声をかけたが、先にやることがあるようで、少し待つように言いい、そそくさと馬車を降りた。
取り敢えず、俺も馬車から降りよう。
小走りに建物に入って行くアリスが見えた。
しかし、変わった建物だな。
御者も丁度降りたところらしく、此方に歩きながら声をかけてきた。
「やあ! さっきは助けてもらったのに、御礼も言えずすまなかったね」
「あ、いや、別に、大丈夫」
急に話しかけられて、ドキドキしてしまった。
まだ、他の人間と話すのは緊張してしまう……。
しかし、さっきの戦いでは野盗には歯が立っていなかった。
あのまま続けていたら、俺の負けだっただろう。
それにしても、野盗が有利だったのに、勝手に撤退したみたいだった。
再度同じ野盗に襲われたら勝てるだろうかと思うと、不安になってくる。
そうえいば、王都ではないことは確かだが、そもそも、ここはどこなのだろうか。
「そういえば、この建物は?」
「あー、ここは教会だよ。神様を祀ってる場所らしいね」
「神様?」
「ああ、その昔、人間と魔族で大きな戦争があった事は知ってるかい?その時に人間側に味方した神様がいるらしい。その人を祀ってるんだと」
神様……か。
アリスはあの力を神様から貰ったとか言っていたな。
「そういやー、兄ちゃんはどこか目的地があるのかい?」
「目的地? んー、とりあえず王都ってとこを目指してるんだけど」
「王都か! 兄ちゃんタイミングが良いよかったかもな。俺はこれで引き上げるが、最近は教会と王都で頻繁に行き来してるらしいから、ここで待っていたら王都行きの馬車に乗れるかもな」
王都! それは願っても無いチャンス!
しかし、魔法、神様、王都……か、何か関係があるのか。
取り敢えず、アリスに話を聞いてみよう。
そんな事を考えていると、教会の入り口付近で、アリスがぴょこぴょこ跳ねながらこちらに手を振っているのが見えた。
御者のおっちゃんに軽く挨拶をすると、アリスがいる場所へ歩いた。
しかし、結構元気な子だな。