さらば野盗、そして王都へ
あぁぁ、眩しいし……まだ、むちゃ眠い……。
俺は窓から射し込む光で目が覚めた。
師匠が小屋に帰ってから、しばらくしてから、俺も中に入ったんだっけ。
昨晩は特にお楽しめないまま、師匠の言葉に悶々してすぐには眠ることができなかったが、流石に眠気には負けて気を失ってしまった。
身体を起こしてあたりを見ると寝る前と同じく凄惨な光景であった。
流石に女性陣はベッドに寝ていたが、他の面々は床で雑魚寝である。
しかし、昨日の師匠からマリアへ酒の飲ませっぷりと言ったら……。
マリアも憧れのディーナと話ができるのが嬉しかったのだろうか、全然拒否する事なく師匠に勧められるがまま飲まされていたな。
そもそも、教会でお酒なんて飲んでたのだろうか……?
仮にも一国のお姫様なんだろうが、最終的にはかなり弾け飛んでたな……。
師匠にちゅーしようとしてたり、なんか凄かった気がする。
しばらく、巻き込まれないように退避していたアリスと荒れた光景を見ていたが、全員倒れる頃、隠れるように就寝した。
と、昨日の様子を思い返していたが、そんな師匠とお姫様もまだぐっすり眠っている。
まぁ、あれだけ飲めばしばらく起きて来ないだろう。
とりあえず、顔でも洗って来るか。
俺はひと伸びした後、ゆっくり立ち上がっり、みんなを起こさない様に音を立てない様に注意してゆっくり扉を開いた。
音を立てないように歩き、外の水場まで向かった。
しこたま顔を洗ったが、眠気が取れることはなく、大きな欠伸が出てしまった。
「ふあぁぁ、眠い、眠いけど、良い天気だ。とりあえず、今日1日馬車で移動すればやっと王都へ到着できるはずなんだが……」
水場の石で積まれた低い塀に腰掛け、ぼーっとしていた。
ついつい独り言を言ってしまったが、やっと念願の王都へ行けるのだ。
期待と不安が入り混じっているが、今までのことを考えると、なかなか処理しきれていない。
はぁぁ、これからどうすっかなぁー、とか考えていると、足音が聞こえた。
その方向に振り返ったところ、足音の主はアリスだった。
アリスはまだまだ眠いのか、目を擦りながらこちらへ向かって来た。
「おはようございますぅ」
「あー、おはよう。ふあぁぁ」
「大きな欠伸ですね。眠れませんでしたか?」
「ちょっとな。そんなアリスもあまり眠れてないようだけど?」
「まぁ、でも、ちょっとは眠れました……色々大変でしたけど」
「……おつかれさん」
みんなが寝付くまで、アリスが片付けなどの面倒を見てくれてた。
まだアリスはお酒が飲める歳ではなかったので、一人シラフだったのがいけなかったのか?
しばらく、お世話係と化していた。
俺も師匠達に巻き込まれないように多少手伝ったりしたんだけど。
師匠は屋敷にいた頃も酒癖はかなり酷くて絡まれた。
もちろん、酒のつまみは俺が作ったり、後片付けをしたり、かなり大変だった覚えがある。
「そういえば、まだ他のみんなはまだ寝ているのか?」
「いえ、みなさん起きたみたいでしたよ。マリアさんとサラさんは何か頭を抑えてましたが」
「飲み過ぎだろう……」
「……ですね」
アリスと俺は互いに苦笑いをしていた。お酒はほどほどに……。
小屋に戻ると、一応みんな起きていたが、アリスとの言った通り、マリアとサラは頭を抑えて、その顔は真っ青だった。これから馬車に乗るんだが、大丈夫なのだろうか。
それとは裏腹に、師匠はケロっとしていた。
そういえば、師匠の元で修行? してた頃も師匠はかなり飲んだ後、次の日に持ち越すことはなかった様な気がする。
ひとしきり準備した後、野盗に見送られながら馬車に乗り込み出発したが、なんとも不思議な光景である。
馬車の中では、マリアは真っ青な顔でニコニコしているが、何故か壺を抱えている。何に使うんだろうか。
サラは乗ってから窓側に席を取り外をずっと見ている。
これまた顔が真っ青だが、大丈夫か……?
師匠はというと、早速寝始めた。
まぁ、どこでも寝れるやつっているよな。
しばらく馬車に揺られていたが、暇になってきたので、俺はアリスに話しかけた。
「ここから王都までどれぐらいで着くかわかるか?」
「そうですね。陽が落ちるまでには到着できるとは思いますけど」
「結構かかるなぁ……」
ゆっくりと、壺に顔を突っ込んでいるお姫様と、窓から顔を突き出している魔族に視線を移した。
夕方まで持つのだろうか。
「そういえば、以前少しお聞きしたと思うんですが、ライザさんが王都に行く一番の理由なんですけど」
「俺の行く理由か……前に師匠の里で少し話したっけ」
「……はい」
「まぁ、なんだ。同じ村の幼馴染でサーシャっていう女の子がいてな、その子を探しに行くのが一番の目的……かな」
「彼女さんなんですか?」
「ち、違う! 断じて! ただの幼馴染!」
「でも、村の方達を差し置いても探したい女性なんですよね?」
「あー、もう! 違うよ!」
俺の必死の言葉に、アリスはホッと息を漏らし、何故か安心した様な顔をしていた。中々反応に困るな。
「見つかるといいですね」
「だなぁ……」
王都を探すのが一番かもしれないが、サラ達の話を聞くと、王宮を半壊させて逃げた魔族がいると言っていた。
もしかするとその魔族がサーシャかもしれない。
が、あの娘は引っ込み思案で魔力は高いが魔法で攻撃するなんて性格ではなかったはず。
でも、それがサーシャである事を祈るしかない、か……。
陽も暮れかかってきた頃、正面に巨大な壁が現れた。
アリスに聞いたところ、どうも、王都を守る防壁のようだ。
王都はそんなに外敵を警戒しているのだろうか。
門には、衛兵なのだろうか、他の馬車を検問しているようだった。
逃亡中の王女様が同行しているが、無事に通れるか心配ではあった。
列に並びしばらくして、自分たちの馬車の順番が来た。
「次の馬車をここへ!」
検問している衛兵が声をかけてきた。
御者をしている騎士二人が衛兵と話をしている。
「あなた達は王宮の騎士でしょうか?」
「そうだ、ギド隊長の命で客人を載せている。急いでいるのでこのまま通して欲しい」
「あぁ、ギドさんの? 承知しました、どうぞお通りください」
ギドの名前を出したら確認もなしにすんなり通ることができたみたいだ。
衛兵の中ではギドはそんなに信頼が置ける立ち位置なんだろうか。
「大丈夫でしたね!」
「ギドって結構有名だったりするんだな」
「なんか、ギドさんの隊は王都では人気らしいですよ?」
未だ回復しきっていない真っ青なお姫様がニコッと笑いこちらを向いた。
もしかして、壺に顔を埋めていたから見られなかったからとか……?
サラは意外にもかなり回復していたようだった。
二日酔いとかに回復魔法が効いたら良いんだけどなぁ。
アルコールって毒寄りなんだろうか、解毒魔法とかあったら治りそうな気がする。
どうもこの馬車では王都の奥まではいけないらしく、馬車は指定の馬宿に預ける必要があるとのことだ。
馬宿に到着すると、ちょうど師匠も起きたようで呑気に欠伸をしながら伸びをしていた。
御者をやってくれた二人の騎士は一度ギドと合流するとのことで、王宮へ向かった。
俺たちはというと、当初のアリスの提案通り、アリスの家に向かうこととなった。
馬車の外に出て思ったが、石造りの家が多く、村育ちの田舎っ子な俺にはとんでもない場所に来てしまったと思ってしまった。
夕暮れなのに、人が多い! 広い道沿いに店がある! 恥ずかしげもなくキョロキョロしている俺を見て、アリスは微笑んでいた。
しばらく歩いていると大きな屋敷が見えて来た。
「ここが私の家です!」
バーンとアリスが手で指してくれた……が、思ったより……かなりでかい。
なんというか、鉄の門がまず大きいのだが、前に立って中庭の奥の方を見ると、かなりの大きな建物が見えた。
「アリス、本当に?」
「え? 私の家ですよ〜」
「あ、そう……」
「なかなか良い家に住んでるんじゃな」
「でも、今は私一人しか住んでいないんですけどね……」
アリスの両親は王宮に呼ばれてから家に帰っていないと言っていたっけ。
こんな大きな家で一人は流石に寂しいんじゃないかと思う。
門を開け、屋敷の扉まではしばらく歩いた。
しかし、でかい。
管理はどうしてるんだろうと考えてしまう。
屋敷の扉をアリスが開けようとしたところ、
「あれ、鍵が開いてる?」
「鍵をかけ忘れたんじゃ?」
「いえ……そんなことは……」
もしかして、侵入者か?
俺達4人は顔を見合わせ緊張が走った。
とりあえず、アリスとマリアを下がらせ、俺が先頭に立ち扉をゆっくり開いていった。
扉を開ききった瞬間、遠くから猛然と走って来る足音が聞こえたきたのだった。




