またまた例のやつ
急停止した馬車の外を小窓から確認すると複数の人影が見えた。
いつの間にか師匠はとてもいい顔で寝ていたが、急停止してもピクリともしなのは凄いと思った。
もしかして、ギドの偽の報告がバレてマリアを殺しに着た刺客か、サラの時みたいなアリスを狙った魔族だろうか。
戦いになるかもしれないため、取り敢えず馬車から降りる事にした。
馬車から降りると、御者をやっている騎士二人は既に臨戦体制を取っていた。
辺りを見渡すと、武器を持ったいかにもな野盗が十数人ほどで馬車を囲んでいる。
ため息と共に、俺はゆっくりアリスの方を見る。
「あー、なんだ。アリスが野盗の話をするから……」
「えぇっ、私ですか?!」
「何かフラグな気がしたんだよな……もしかして、野盗じゃなくてサラの仲間?」
「いや、違うし、私に振るな。まぁ、前のメンバーはいなさそうだ」
「ふぅん、じゃあ、王都からの刺客とか?」
サラに話を振って見たが嫌そうな顔をして答えてくれた。
そういえば、あの時サラと一緒にいた奴らはどこに行ったのだろうか。
念のため、騎士の二人にも聞いて見たが、わからないとの事だった。
俺たちが内輪で話をしていると、周囲が震えるぐらいの怒号が響き渡った。
「俺たちを無視して何をごちゃごちゃいっている!!」
はぁはぁと胸を上下させている奴がいた。
その、真っ赤な顔をした奴はひときわモフモフな毛がついた鎧を着ていた。
多分、格好からして野盗の親分なのかもしれない。
どうも怒っているようだが、そりゃそうか。
そんなやりとりをしていると、馬車からゆっくり師匠が降りてきた。
「なんじゃ、うるさいのう……」
「いや、なんか結構な人数に取り囲まれててさ」
「ふむ、なんじゃ、野盗というやつか?」
師匠は周りを見渡しながら、何かを考えているようだったが、ポンと手を叩き、何か閃いた。
「ライザ、修行の時間じゃ」
「え、いきなりなんだよ……」
「とりあえず、一人であいつらを倒すのじゃ」
「まじか……」
とりあえず、剣を構えるが、多勢に無勢、本当に一人でやれってのか。
見た感じ、魔族ではなさそうなので、魔法攻撃はしてこないだろう。
速度向上の魔法を唱え、斬り込んでいく。
「ちっ、あいつら魔族か! 関係ねぇ! スピードが活かせないように囲んでしまえ!」
俺が魔法を使った事により少し驚いたようだが、リーダーと思われる男が指示を出した。
確かに、囲まれたら厄介だと思い、注意して立ち回っていたが、次々とくる攻撃を凌ぐ事でいっぱいいっぱいになっていた。
深手にはならないにしろ、何回か斬られてもおかしくないと思ったが、何故かどの攻撃も俺に当たる直前で弾かれているじゃないか。
おかしいと思い、師匠達の方を見た。
「ディーナ様、それはちょっと過保護では?」
「だって、ライザが怪我でもしたら大変じゃ……」
どうも、師匠が攻撃を防ぐ魔法を使っていたらしい。
助かるが、あまり修行になってない気がするが……。
とりあえず、炎の魔法で壁を作り、野盗達を怯ませ後ろへ後退する。
野盗達は体制を立て直し、数人が勇んで斬りかかって来た。
考え事をしていた師匠を見ると何かを決意したのか、良しと言いながら首を縦に振ったかと思うと、斬りかかって来た野盗達は向かって来た方向とは反対側に勢いよく吹っ飛ばされた。
師匠が何かしたのだろうか。
「良いマトになる奴が沢山いるし、里でも少し教えたが、また魔法のレクチャーをしてやろう」
この数の野盗の事を”マト”と言ってしまえる師匠の強さは素敵すぎるが、不憫にも思った。
里でもある程度は教えてもらったつもりだったが、実践的な事だろうか。
そうえいば、あの本と俺の魔法の事については自己理解してしまっていたから、次の機会に聞いてみよう。
そんな事を考えていると、さっそく師匠のレクチャーが始まっていた。
「まず、基本属性として、地水火風の4属性がある事は教えたはずじゃが、これ以外に無属性の魔法がある。屋敷で立会いしていた時に、素早くなる魔法を使っていたと思うが、あれは無属性魔法じゃ。あと、魔法とは別に魔核を持つものに発言する固有スキルというのがあるが、またこれは別の機会じゃな」
師匠は次々に襲ってくる野盗の攻撃を交わしながら説明を始めた。
しかし、あれって、サラが使っていたのを真似ただけだったから風属性の魔法だと思い込んでたな……。
詠唱に風とか言ってしまっていたので、ちょっと恥ずかしくなった。
サラをふと見るとちょっと驚いたような顔をしていたので、自身も知らなかったのかもしれない。
「お前たちが使ったこの魔法のコントロールは序の口じゃ。ワシはこの魔法を縮地と呼んておるが、もっと早く動けるようになる。制御が大変じゃがな」
野盗の攻撃を避ける師匠の動きがどんどん早くなっていくのがわかる。避けたかと思うと、瞬時に相手の懐に入り、吹っ飛ばしている。
至近距離で攻撃したかと思うと、瞬時に距離を取っている。
あの吹っ飛ばしている攻撃も魔法なのだろうか……。
圧倒的な状況から野盗たちから少し叫び声が聞こえ出した。
「あのガキ、化け物だ!」
「うるさい! ガキ一人になにやってる! ごちゃごちゃ言わずにもっと束になってかかれ!」
野盗の親分が同時攻撃を指示したところ、ガキと言われてちょっとイラっとしたのか師匠の顔が険しくなっていた。
一斉にかかってくる野盗の方向へ、師匠は腕を組んだまま片足を上げ、勢いよく地面を踏んだ。
その瞬間、向かってくる野盗の足元が一気に隆起し、空高く弾き飛ばした。
天高く飛ばされた野盗は着地もできず、それぞれ地面に叩きつけられ動かなくなった。
「ちなみに、これは地属性の魔法じゃ。今みたいな使い方もできるし、壁として攻撃を防ぐこともできる」
師匠は良い気味だと言わんばかりの悪そうな顔をしながら、使った魔法を解説してくれた。
前に師匠から魔法はイメージが大事で、そのイメージをし易くするために詠唱があるという事を教わったが、さっきから野盗に対して使っている魔法は詠唱なんて行動は一切なく、他の話をし ながら繰り出しているところを見ると、師匠の凄さがわかる。
今使っている魔法も本の一片過ぎないんだと思うが、さすが魔王と呼ばれるだけのこともある。
しかし、王都に行って師匠と同等のインフィアが出て来た場合、果たして戦えるのか気が滅入ってくる。
動ける野盗も数人というところになり、ついに野盗の親分が襲いかかる。
大きな斧を振るい師匠に攻撃を仕掛けるが、大振りな攻撃が当たるわけもなく、ひらりと師匠はかわしている。
「因みに、魔法を使う奴を相手にする場合、急に殴りかかるのは要注意じゃ。どんな魔法を使ってくるかわからんじゃろ」
そう言った師匠は、斧の攻撃を避けるのをやめ、攻撃を真正面から受けた。
斧は師匠を切断するかと思いきや、その刃は届かず空中で止まっていた。
「因みに、これも物理攻撃を防ぐ無属性魔法なんじゃが、使える奴がいるかもしれんし、このままカウンターで攻撃される危険がある」
野盗の親分は身体を震わせながら吠え、空中で止まっている斧にさらに力を入れた。
その瞬間、師匠がポツリと呟いた。
-- ウェポンブレイク --
その瞬間、斧は粉々に砕けた。
「まぁ、稀じゃが、こんな魔法もあるから、いきなり攻撃は要注意じゃ」
とは言いつつも、魔法が使えない奴は武器で攻撃するしかないと思うのだが、どうすればいいのだろう……。
粉々に砕かれた斧の柄を握りしめ、野盗の親分は青ざめた顔をして、その場に座り込んだ。
もう勝負は決まっただろう。
「最後に、ライザ、お前に一つ魔法を教えてやろう」
師匠は右手を空に掲げ、また魔法の名前をつぶやく。
-- フレイムアロー --
その瞬間、掲げた手の上方に炎の矢が発生し、対象の方を向いた状態で静止している。
その数は数百本はあるだろうか。
「まぁ、そのまんまじゃが、炎の矢じゃ。普通のやつはこんな数は作れないと思うが、魔力量と魔力コントロールで増減は可能じゃし、全属性で応用ができる一般的な魔法じゃ」
師匠は腕を正面に振り下ろすと、上空の炎の矢は野盗達へ次々と降り注いだ。
しかし、わざと外したのだろうが、野盗へ直撃することはなく、周囲を抉ったところで、既に野盗達は戦意喪失していた。
十数人もいた野盗は、橙色の髪を後ろで一つに結った150センチ程の少女一人に蹂躙されたのだった。
余談だが、俺の持っている本は光っぱなしだった。
事が終わった時、すでに日も傾き薄暗くなっていた。
そもそも王都に行くのに平時でも2日はかかるのだが、今回のアクシデントがあったため、目的の中継地点で安全な宿泊ができなくなっていた。
「そろそろ、どこかで野営する準備をしないといけないかのう」
と言いつつ、師匠は腰が抜けて青ざめている親分らしい男に近づき、笑顔で胸ぐらを掴んだ。
「ワシらはか弱い女性が多いから、滅多なところで野宿はしたくない。お主たちの宿営地に案内して欲しいんじゃが」
野盗のリーダーは泣きながら首を何度も縦に振っていた。




