プロローグ
鬱蒼とした森の中、ひたすら走っていた。
「は、はははっ、やった……ついにやった!」
息を切らしながらも声を出して笑っていた。
これで俺も魔法が使えるようになるんだ!
帰ったらあいつ喜んでくれるかな。
「みんな……驚くだろうな……」
ある場所から盗んだ虹色の玉を抱きしめ、息も絶え絶えに森を走っていた。
やっと自分の村に辿り着いた……と思った瞬間、眼前に広がった光景は悲惨な状況だった。
「あれ? 村がない……? どうなってんだ……?」
今見ている光景がまったく理解出来ない。
時間も忘れるぐらい呆然と立ち尽くしていると、どこから現れたのか、見覚えのある老人が話し掛けてきた。
「何かあったようじゃな」
「あ……? じーさんか……」
「じーさんじゃない!あれ程師匠と呼べと……。しかし、勝手に人ん家の物を持って逃げたと思ったら……。 理由ぐらいは教えてもらえるんじゃろ?」
「あぁ……、そうだな……」
俺は力のない声で話を始めた。
「……俺が魔族だって、師匠も知ってるだろ……? 普通、魔族は魔力があるんだけど、俺は生まれつき魔力がなくてさ、コンプレックスってやつかな……」
「ふむ……。それだけか?」
「あ、いや……。幼馴染に魔法を使えるようになったところを見せたかったのもあるかな……。村で一番魔法の力が強いのに、引っ込み思案でさ、苛められてたりすると俺が守ってたんだ」
「でも、お前と違って魔法が使えるんじゃろ?」
「そうだな……。多分、自分より強くなる奴を守ってることで、自分を誇示したかっただけなんだと思う……。だから、なおさら魔法が使えるようになりたかったんだ」
「そこで、この玉か?」
「そうだよ! 魔力が手に入る玉があるって噂で聞いた事があって、それであんたの所へ弟子入りしたんだ。いつか盗んでやろうと思って!」
「まぁ、なんだ……。人の家から盗むのはよくないんじゃないかのう?」
「それは……、すまなかった……」
じーさんが顎に手を当て、考えていた。
「まぁ……、使い方を教えてやろう」
「……え?」
唐突に言われた言葉にびっくりしていると、俺の手から玉を取り上げ、突然光りだした玉を俺の胸に押さえつけた。
「ちょっと痛いかも知れんが、我慢じゃ」
「……え?」
その玉は俺の胸の中に徐々に侵入し、途端痛みが身体中を走った。
「があああああああっ!!!」
痛い、痛い、苦しい、身体を内側から焼かれるような痛みを感じた。
痛みに悶え、地面を転がり地面を指から血が出るほど掻きむしった。
何れ程の時間が経過したのか、俺はのたうち回り、何回も意識が飛びそうになったが、歯を食いしばり、堪えた。
しかし、しばらくすると徐々に痛みも消え、楽になっていくのがわかった。
「適合したみたいじゃな。」
「……はぁ、はぁ、一体なにを……?」
「魔法を使えてるきっかけを与えただけじゃ。」
「……? もしかしで、俺が魔法を使えるようになったのか……?」
「適合したからそうじゃろうなぁ」
「……しなかったら?」
「死ぬな」
「おいっ!」
無責任なじーさんに頭に気温たが、諦めてため息をついた。
「で、盗んだ俺になんで?」
「ただの気まぐれじゃ。別に他に使う宛もないしのぅ……」
「は?」
小声でごにょごにょ言っていたが聞き取れなかった。
師匠が辺りを見回して言った。
「しかし、この状況から考えるとただ村を荒らしにきたようには思えん」
「?」
「争った形跡はあるが、誰も村にいないじゃろう?」
「目的はどうあれ、どこかへ連れ去られたんじゃろうな。」
「……まだ、村のやつは生きてるか?」
「それはわからん。なにせ、お前がわしの所へ来て5年じゃからのう。いつ襲われたのかもわからんのじゃろう?」
少し間を空け、師匠が話を続けた。
「じゃが、行き先はなんとなくわかるがな……」
「本当か! 教えてくれ!」
「行ってどうする?」
「もちろん助ける! もし何かがあればそのときは…!!」
「助ける? 村の住人をか?」
「村の住人は……それより、助けたい大事なやつがいるんだ。なにがあってもあいつは助けたい、守ってやるって約束してたんだ!」
「ふぅむ。決心は固いようじゃな。まぁ、一応弟子じゃからな、少しばかり助けてやるか」
力づくで止めらるかと思っていたが、師匠は案外楽に許しをくれたのが意外だった。
簡単ではあるが、王都への行き方を教わった。
「今はまだ魔法は使えないが、旅の途中できっと使えるようになる。お前がワシの家に来てから多少戦い方は教えたつもりじゃ」
「ああ、ありがとう。不出来な弟子で申し訳なかった……」
「まぁ、無理はしないようにな」
師匠に頭を下げ、教えてもらった方角へ歩き出す。
--ドウカ、キヲツケ--
懐かしい少女の声が微かに聞こえたような気がした。