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しあわせは悪魔とともに  作者: 実乃里
第一章 転校は憂鬱とともに
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三人組

 その後、事務室でコピーをすませ、マジックペンと画用紙も手に入れた。これで残るはドリンクケースのみ。

 有国さんの方はどうだろうか。調達が困難なものは全て彼女の担当だ。僕より学校に詳しいとはいえ、さすがに生贄の牡牛を用意するのは無茶だ。本人は当てがあるようなことを言っていたけれど、いったいどうする気なのだろう。

 まあ、なにか考えがあるのだろうと、僕は食堂へと向かった。

 厨房のドアを叩くも、食堂のおばさんは留守のようで、なんの反応もない。一時的に出払っているだけか、それとも帰ってしまったのか。最悪無断で借りて行くことも視野に入れつつ、とりあえず待つことにした。

 食堂内の椅子にでも座っていよう。もし、おばさんが戻ってきたらカウンター越しに見えるはず。

 食堂のメインホールに入ったとき、幾人かの人影があった。

 正確な人数は三人だ。一人はテーブルに腰を下ろし、スマートフォンを弄っている。もう一人は漫画雑誌を広げ、テーブルのお菓子に手を伸ばしている。最後の一人はなにをするわけでもなく、気怠そうな顔で体を椅子に沈め、行儀悪く両足をテーブルの上に乗せていた。

 彼らには見覚えがあった。今朝、職員室で目撃した三人だ。

 ああいう連中にはかかわらないのが無難だ。僕は彼らを刺激しないよう、静かにカウンター前の席に腰を下ろした。

 なにか因縁でもつけられないよう祈りつつ、おばさんが現れるのを待っていると、


「なあ、そこのお前さ……」


 と声が聞こえてきた。

 食堂に他の人はいないことから、まず間違いなく僕に向けて発せられたのだろう。

 無視するわけにもいかず、僕は彼らの方を向く。

 声の主はダルそうにしていた生徒なようで、彼は行儀の悪い体制はそのままで、顔だけこちらに向けていた。


「今日きた転校生って、ひょっとしてお前なの?」


 まず校章の色から、彼がこちらと同じ二学年であることを確認する。一緒にいる二人も同じく二学年のようだ。


「ああ、そうだ。今日から二年A組になった井坂十夜だ。よろしくな」


 とりあえず友好的な態度を見せる。邪険に扱わなければ面倒なことにはならないだろう。


「オレは()(ねり)和弘(かずひろ)ってんだ。隣のこいつは(みね)()明憲(あきのり)で、そっちは北方(きたかた)(しげる)。三人ともB組だ」


 漫画を読んでいるのが峰辺で、スマートフォンを弄っているのが北方らしい。名前を呼ばれた二人は、軽く手を上げて存在をアピールする。

案外気のいいやつらなのかもしれない。僕は彼らへの警戒を緩めることにした。


「ところで、そりゃなんだ?」


 部練は僕の手にある丸められた画用紙を指差す。

とくに隠す理由もないので、オカルト研で使用するのだと答えると、三人の表情が僅かに引き攣る。


「オカルト研か……。いや、まあ、なんだな……。そう、なんだよな……」


 腫れものに触るような態度に、僕は苦笑いを返すしかできなかった。この学校の生徒がオカルト研に抱いているイメージが掴めた気がした。


「君らはここでなにしてんだ? 今の時間なら部活だと思うんだが?」


 話を変えるべくこちらから話題を振ると、今度は彼らが苦笑いを浮かべる。


「オレたちゃ未所属なんだよ」


 答えたのは峰辺だった。読んでいた漫画をテーブルに投げるように置き、椅子によりかかる。


「あれっ? 確かこの学校って、部活への所属が義務化されていたよな。未所属ってどういうことだ?」

「元々オレたちはサッカー部に所属していたんだ。それが色々あって、つい二日前に退部したのさ。まだ未所属の期間が短いから見逃されているってわけだ」


 今度は北方が説明してくれた。彼はスマートフォンをポケットにしまい、腰かけていたテーブルから降りる。


「そんなわけで、今、新しい部を探している真っ最中ってわけさ。今朝も教師たちからは早く決めろと急かされるは、もううんざりだぜ」


 部練がそう言うと、峰辺と北方も頷く。

 今朝、彼らを職員室で見かけたのはそのためか。ツンとしているようで、彼らもそれなりに苦労をしているらしかった。

 ふと、彼らをオカルト研に勧誘してはどうかと考えたとき、カウンターの向こうでドアが開く音がした。どうやら食堂のおばさんが戻ってきたようだ。僕は三人との会話を切り上げ、カウンターに進んだ。

 ドリンクケースを貸してほしい旨を伝えると、おばさんは快くオーケーしてくれた。

 厨房の奥に積まれていたドリンクケースを一つ手にし、僕はオカルト研の部室へと戻った。

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