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しあわせは悪魔とともに  作者: 実乃里
第一章 転校は憂鬱とともに
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五十嵐菜々

 道具は全て学校内で調達しなくてはならない。当然だけど黒魔術の道具なんかが備品としてあるわけはない。探すのは、あくまで代用品だ。

 僕は渡された調達物リストを確認する。

 本の拡大コピーに、大判の画用紙を数枚。マジックペンとロウソク。そして祭壇の土台に使えそうなもの。リストにはないけど、ロウソクに火を灯すのにライターかマッチがいるだろう。

 入手できる場所も教えてもらった。コピー機、画用紙とマジックペンは事務室、ロウソクは理科室、土台にできそうなドリンクケースは食堂で借りられるそうだ。

 まずは近い理科室から当たることにした。

 六時限目にどこかのクラスが使用していたのか、理科室の中は微かに焦げた臭いが漂っていた。

 ロウソクを探して棚の中を見て回るも、それらしきものは見当たらない。

 やむなく理科準備室のドアを開けると、中に人がいた。


「あなた、どうしてここに。その制服……ここの生徒だったのわけ?」

「今日転校してきたんだ。君の蹴りはなかなか強烈だったよ」


 肩まであるセミロングの少女。今朝、冷蔵庫に潰されていた僕を助けようとするも、些細な勘違いから暴力に訴えてしまった、そそっかしい人。


「覗き魔にそれ相当の報いを受けさせただけよ」


 行きすぎた行為だったと理解しているのか、彼女からは動揺が窺えた。


「ショートパンツを穿いていたなら問題はなかったろ? 蹴ることはないと思うけどな」

「あら、それはつまり。今朝私はショートパンツを穿いていたから助かったものの、一歩間違えば、あなたの目にノーマルパンツを晒していた可能性があったというわけね。危なかったわ」


 彼女は髪を掻き上げ、こちらに侮蔑の瞳を向けてきた。


「結局、あなたが私のスカート内に、意図的に目を向けたという事実は変わらないわけでしょ。泥棒がなにも取らずに逃げたとしても、無罪にはならないわよ」


 彼女から動揺は消えていた。僕は劣勢に追い込まれているのを悟った。


「転校生にスカートを覗かれたって、新聞部にリークしちゃおうかしら。あそこの部員はものごとを荒立てるのが大好きな人ばかりよ。一瞬で学校中にあなたの噂が知れ渡るわよ」


 僕は両手を上げた。


「わかったよ。蹴られたことはもう水に流す。だから、お互い今朝のことは忘れてしまうことを提案するけど、どう?」


 彼女はしばし考えたのち、「それがいいかもね」と承諾する。


「私はあなたの変態行為を忘れてあげる。あなたも私に蹴られたことは忘れなさい」


 双方の意見がまとまった。交渉成立というやつだ。


「ところで、なんの用があってここにきたわけ?」


 僕が事情を説明すると、彼女が目を細める。


「オカルト研なんて、物好きね……」

 

 呆れたような物言いで、奥の棚を指差した。


「あなたのほしいものは、あの棚の一番下にあるわ」


 そう言って窓の方に顔を向けてしまった。

 窓からは校庭が一望できる。聞いた話では、校庭はサッカー部、野球部、陸上部が交代で使用しているらしい。今日練習しているのは陸上部のようだ。

 僕は指定された棚から、ロウソクとマッチを手に取る。

準備室を出る際、壁に貼ってある当番表が目についた。今日の準備室整理係の欄には、『五十嵐菜々(いがらしなな)』と表記されていた。多分、彼女の名前だろう。

 この名を記憶に留めつつ、僕は理科室をあとにした。

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