美しいということ。
「みんな私を美しいと言うわ」
その高慢な言葉とは裏腹に、彼女が浮かべた表情はひどく退廃的なものだった。
温かな春の陽気とは程遠い冷たい風が僕らを揺らす。
やっと春が訪れたかと思えば、ここ数日は冬を思わせるような温度に凍えそうになる。
君があんまりにも疲れたように呟くから、僕はこちらを振り向いてほしくて言葉を投げた。
「君はそれが嬉しくはないの?」
「嬉しいか、ですって?」
案の定、君は振り向いて、傷ついたような瞳で僕を見た。
その奥に揺れる色は、何かを諦めようとして、それでもまだ諦めきれないような、そんな混沌としたものに思えた。
「美しさの価値は誰が決めるの? そもそも美しいと言う評価は値踏みされたうえでしか生まれないのに、何を喜べばいいの?」
「そうだよ、君は値踏みされたうえで評価を勝ち取ったんだ。それを喜んだらどう?」
「違うわ。美しいと言う評価は、それをいずれ失うことを前提とした上で初めて成立するのよ。だから、私を美しいと称賛した唇は私にとっては同時に呪いでしかないのよ。いつか彼らは同じ唇で私を醜いと言うのだわ」
吐き出された言葉は棘を持つ花のように鮮烈で、そして正しかった。
肌を撫でる凍てつく風はまるで木枯らしのようだ。
もう冬は終わったのに、こうして僕らはまた白の季節を思い返してしまう。
今は温かな芽吹きの季節のはずなのに。
君は自分の体を見下ろして、口元だけで力なく微笑む。
「老いて枯れてしまえば、誰も見向きなんてしないくせに……狡いのよ」
「それでも僕は君を美しいと思うけれど」
なんの思考も挟まずに、無意識に口にした言葉に彼女は少し黙った。
それから、再び僕を見ると、ひどく綺麗に笑った。
「あなたにそう言われているうちはきっと私も幸せね」
君は桜。
僕がこの世でもっとも愛する、桜の花。