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7話 市場で調査

エントリーシートを書く前の肩慣らしに書くつもりが…こっちの方が文字数が多いという…。




 一週間、文字や数字を書いて書いて書き続け、今日という日を待ちに待っていた。





 というのは嘘だ。



 文字は3日で飽きた。  

 数字は…1時間で飽きた。


 だから、新しい絵本をお父さんに出してもらって読んだり、アネットと話をしたりして過ごした。

 流石に一週間も同じことをすることは出来ない。


 しかし、それでも文字と数字は完璧に書けるようになった。

数字は前世と形こそ違っていたが、十進歩だったので計算も余裕だ。

これは市場調査でも役に立つはずだ。



 だからこそ、今日の市場ではいい結果を残すことが出来ると思っている。

食材について調査して、食生活を改善する算段(さんだん)を立てるのだ。 へへん。

 そのために今日はいつもより早く起きて、着替えも急いで済ませたのだ。




 わたしはドアの前で仁王立ちしてお父さんを呼ぶ。



 「お父さん、まだー?」


 お父さんは、眠そうに目をこすりながら部屋から出てきた。


 「早すぎるよ、エマ…」

 「早すぎじゃないよ、わたし楽しみにしてたんだよ!」


 ぐわっと食らいつくような勢いで言う。



 今日の市場調査にはわたしのこれからの食生活がかかっているのだ。

 市場は毎日開かれるが、このあたりの人達は毎日買い物をせずに一週間分をまとめて買う人が多い。我が家もそうなので、今日をしくじると次の機会は来週になる。それは嫌だ。早めに行って調査の時間をちょっとでも長くしたい。

 『早起きは三文の得』に違いない。きっとそうだ。



 ……ごはんが不味いのは死活問題だからね。



 それから、くるっとお父さんの後ろに回ってから背中を押し、急かす。

 わたしの勢いに気おされたお父さんが仕方なさそうに息を吐いた。


 「はー、そうだね、じゃあ早めに朝食をとってから行こうか。」


 お父さんとわたしは素早く朝食をとり、手をつないで家を出る。

家を出るとわたしは両手を広げて抱っこをねだった。いつもは歩きたがるのに、いつもと違う事をしたので、お父さんは不思議そうな顔をしたが抱っこしてくれた。

 今は少しの時間でも惜しいのだ。わたしが歩いたら時間がかかるため、お父さんに頼った方がいい。



 わたしはお父さんに抱っこされて、家から少し東に行ったところにある市場まで移動する。



 家から外に出ると石畳が続いていて、市場までの道のりにはいろいろな店が建ち並んでいる。

 因みに、わたしたちの家は王都の貴族街に近いところにあるので、比較的街並みが綺麗なのだそうだ。市場よりもっと東側はそこまで綺麗ではないらしいが、わたしは行ったことがないのでわからない。いつか行ってみたい。




 「お父さん、今日は何を買うの?」

 「今日は、お肉と野菜類それから…卵と牛乳とパンだね。後はまだ残っているから。」



 ……家に砂糖はあるみたいだし、卵、牛乳、パンならフレンチトーストが作れるね。後は、お肉はいいとして、問題は野菜だね。ここの野菜はよくわからないものが多いから。



 「じゃあ、先に野菜を見に行こうよ。」

 「いいけど…どうしたんだい?」


 お父さんは頭に疑問符を浮かべながらわたしを見た。

 わたしは、「野菜が一番気になるからだよ。」と答えてニコリと笑う。


  

 市場の野菜を売っているコーナーにつくと、まずは、お父さんに下におろしてもらい手をつなぐ。そして、ざっと売っているものをチェックした。

 葉野菜はほとんど前世と同じものなので質問の候補から省いて、玉ねぎのような形をしたピンクの物体と、とぐろを巻いた人参みたいなのを指さしてたずねる。


 「あれと、それからあれは何?」

 「タマオンとキャロリールだよ。今朝も食べたでしょ。」


 どうやらわたしはあのユニークな野菜を食べたことがあるらしい。いつもはカットされているから気づかなかっただけみたいだ。


 ……あの二つの味は玉ねぎと人参だから調理方法も多分一緒だよね。


 そう思って、ほんの少し安心しているとお父さんがポケットから手袋を出して、手にはめてから野菜を手に取った。なぜだろうと思って首をかしげながらきく。


 「どうして、手袋をはめたの?」

 「え?あぁ、この野菜は素手で触れると跳ねるんだよ。皮をむいてしまえば大丈夫なんだけどね。」



 ……や、野菜が跳ねる? そんなことあるの?かなり物騒なんですけど。


 「へ、へぇそうなんだ。」


 お父さんの手元から若干目をそらしてそう言う。そして、目をそらした瞬間に少し離れた場所で売られている灰色の物体を発見してしまった。ジャムエーラ芋である。あれは回避したい。


 わたしは切羽詰まった口調でお父さんに話しかけた。しかし、それはすぐに拒否されてしまう。


 「お父さん! それを買い終わったら他の所に行こうよ!!」

 「ダメだよ。まだ買わなくちゃいけないものがあるんだから。」


 ……それはジャムエーラ芋じゃないよね!?


 わたしが震えながら「何を買わなくちゃいけないの?」ときくと、「ポテル芋だよ」と答えが返ってきた。本当に良かった。芋は芋でもポテル芋らしい。


 ……ん? でも、ポテル芋って何?


 疑問に思っていると、お父さんは革袋から銀貨を2枚取り出して、お店のおじさんに渡してお釣りに2枚の銅貨を受け取っていた。購入した野菜の総額は銀貨1枚と銅貨3枚だったので、銅貨2枚のお釣りがあるということは、銅貨5枚で銀貨1枚の価値なのだろう。


 支払いをすましたお父さんは、手に野菜の入った袋をもって移動を開始する。わたしもお父さんに手を引かれながら後をついていく。


 ……あれっ? こっちってジャムエーラ芋の売ってる方角じゃない?



 ハラハラしながらお店につくとジャムエーラ芋の横に、前世で見慣れたジャガイモらしき物が売られていた。わたしはそれを指さして問う。


 「これがポテル芋?」

 「うん、これも今朝食べたでしょ」


 「これも、素手で触っちゃいけないの?」

 「これは大丈夫だよ。ただ、調理する一番初めに真ん中で半分にしなくちゃいけないんだ。でないと、跳ねるんだよ。」



 ……これも?それじゃ他の野菜も跳ねるってこと?


 「お父さん、お父さん、タマオンとキャロリールそれからポテル芋以外に調理するときに何か気を付けないといけない野菜ってあるの!?」

 「んー特にはないと思うよ。私はあまり詳しくはなんだけど…」


 お父さんは記憶を探るように上を見ながらそう言った。


 「そっか」


 ……今のところ、跳ねるのは3つだけだと思ってもいいね。




 奈留時代に度々お世話になった冷蔵庫の御三家、ジャガイモ・人参・玉ねぎは跳ねる、という事実を知って遠い目をしている間に、お父さんは支払いを済ませたみたいだ。袋に沢山のポテル芋を詰めてもらっている。


 「そんなに買って大丈夫?」

 「大丈夫だよ。ポテル芋は日持ちするからね。」


 「違うよ。他にも買うものがあるでしょ、重くないの?」

 「あ、あぁ重くないよ。私は鍛えているからね。」



 ……おぉ、かっこいい! 流石、冒険者。





 それから、わたしたちはいくつかの果物や卵、牛乳を買って、お肉屋さんへ向かった。お肉屋さんでは大きなお肉のブロックとベーコンと挽き肉を買った。挽き肉に関しては、わたしがお願いをして買ってもらった。

 その帰り道に立ち寄ったお店で黄金色に光る液体を見たわたしはお父さんに尋ねる。


 「この金色の液体は何?ジュース?」

 「違うよ。これはキャメリーアの種からとれる油だよ。」


 「他の油とどう違うの?」

 「他より香りが良くて、高品質の油だよ。だいたいこの時期にしか手に入らないから貴重なんだ。」


 「この油、買うの?」

 「うん、今年は種の採取に行けなかったからね。」



 毎年、秋になったばかりの時分に森へ種の採取に行くのだが、最近は忙しくて行くことが出来なかったらしい。少しでも時期がずれると全く採れなくなるので、今年は買うことにしたそうだ。


 お父さんにも拘りがあって、品質の高いものを選んでいるんだなと感心しながら、棚に並んでいるキャメリーア油の入った瓶を見つめる。そんなわたしの横でお父さんは革袋から小金貨を1枚取り出してお店のおじさんに手渡した。すると、お店のおじさんは素早く棚から瓶をとって持ってきた。



 「1本でいいのかい?」


 「あと何本か買うつもりだけど、今日は1本でいいよ」

 「取り置くことも出来るが、どうする?」


 「そうだね、じゃあ15本ほどお願いしようかな。」

 「そんなにかい!?」


 何故かおじさんが物凄く驚いて目を見開いているので、すかさず手を挙げて質問する。



 「おじさんはどうしてそんなに驚いてるの?」

 「あ、あぁ15本となると小金貨15枚分だからね。お嬢ちゃんにはまだわからないかもしれないが、小金貨15枚となるとこの辺でいっても大金なんだよ。」



 おじさん(いわ)く、ごく一般労働者が一日中ずっと働き詰めても賃金は銀貨15枚程度なのだそうだ。つまり小金貨1枚と銀貨5枚ということなので、その労働者10日分の賃金を油につぎ込もうとしているお父さんはある意味凄いらしい。



 ……それは、驚くよね。油だけに大金を使おうとしてるんだもん。



 いくら貴族街付近に住む富裕層でも、油にここまでの大金を使うことは滅多にないみたいなので驚かれるのも無理もない。だけど拘りは人それぞれだから、それは別におかしい事じゃないはずだ。

 わたしとしてはそんなことよりも、自分の家がお金持ちだということを知っていたのに、それを今まで感じることが出来なかった自分自身が一番の驚き要素だと思った。しかしそれも、便利な日本での生活が身に沁みついている弊害だから仕方ない事なのだと思う。



 そう納得したわたしは、目を瞑り一人でこくこくと頷いて、お父さんと一緒にお店を後にする。




 ……今日の市場調査は上手くいったよ。ふふん♪

    次は食生活の改善だね~。何つくろうかなー



 そして、ニコニコしながら、足取り軽く、家路についた。













次は料理をします。

就活と卒論で多忙のため、次回の更新は未定です。

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