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5話 庶民のごはん




 「おとうさん、さっきのおんなの人だあれぇ?」


 帰り道、わたしは精一杯 2歳児っぽく話す。似非(エセ)幼児だからちょっと違うかもしれないが気にしてはいけない。


 ……大人の前では年相応の話し方をしなくては変だと思われるかもしれないからねっ。わたしは女優なのだ。ふへへ。



 幼児なのに幼児らしからぬことを考えていたら「ん?もしかして、何か嫌なことでもされたのかい!?」とお父さんが詰め寄ってきた。


 ……ちょ、なんでそんなに慌ててるの?


 「ちがうよ。どうして?」

 「それならいいんだ。あの人はメースさんで、さっきちょっと、ね…」



 よくわからないが、とても微妙な顔をしている。メースと何かあったのだろうか。疑問に思ったが、今はとにかく明日の事を伝えなくてはいけないので考えることをやめて、ラウルと話したことを伝える。

 

 すると、「え!?明日も行くの?」と何故か凄く驚かれてしまった。行かなくていいならそれに越したことはないが、わたしが行かなくてはラウルが一人になってしまう。それはかわいそうだ。



 「ラウル、ひとりになっちゃうもん」

 「そう…」


 困ったように眉を八の字にし、「あそこに1度あずければ、しばらくは一人で外に出ることもなくなると思ったんだけど…」と小さくつぶやいて溜息をついている。本当に今日だけで、わたしにお灸をすえるつもりだったのだろう。


 ……まさかわたしって、言うこと聞かない子だと思われちゃってる!?


 ムッとしてお父さんを見るが、何やらまだ困ったようにしていた。




 それはさておき、わたしはまたもや墓穴を掘ってしまったようだ。今日だけでなく明日も託児所に行かなくてはいけない。もしかすると、ラウルが3歳になるまでずっとかもしれない。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』というが、わたしの場合、虎穴ではなくて、墓穴をわざわざ掘って入っているような気がする。

 いやいや、それは気のせいだ。考えてはいけない。フラグが立ってしまう。



 ……まーた裏目に出ちゃったよ。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・



 次の日託児所に行くとメースが出迎えてくれた。

 メースは渋るお父さんから私を引きはがすと「では、」とだけ言ってニコッと笑い、子ども部屋へ連れていく。訝しげに思って見上げればニコニコと笑顔を向けられた。反射でパッと逸らしてしまったが。



 ……はぁ考えても仕方ない


 わたしは思考を放棄し、ラウルを探すことにした。しかし、探す必要はなく、先にわたしに気付いた向こうからこっちに来てくれるみたいだった。


 「おはよう」

 「うんっ!おはよう」

 わたしたちは挨拶を交わし他の子たちがいる方へ移動を開始する。その間後ろから妙な視線を感じたが、無視だ無視。触らぬ神に祟りなしのはず。


 「エマちゃんっ、あのね…」


 ラウルがもごもごと話すので、どうしたのかと思って先を促すと、今日の事を他の子に言ったらその子たちも来ることになったそうだ。


 ……ん?それってわたしが来た意味なくない?ラウル一人じゃないじゃん。


 でも、まぁそんなこと言ってもしょうがない。ラウルは何か気にしているみたいだったけど、わたしは気にしていないし、子どもが増えたところで現状に変化はない。笑顔で返しておこう。


 「気にしてないよ」


 そう言うとラウルは嬉しそうに笑ってから、何人かの子がいる方に向かって手を振って合図をする。すると、ラウルと同じ、もしくは何か月か年下の、おそらくわたしよりも早く3歳になるであろう年頃の子どもが二人駆け寄ってきた。一人は赤い髪の女の子、もう一人は黄土色の髪をした男の子だ。


 「そのこが?」

 「うんっ、エマちゃんだよ」


 ラウルが私を紹介すると、まず、赤い方の女の子が名乗り、次いで黄土色の男の子が名乗る。


 「あたし、イリーナ」

 「ぼくは…ティレ―ヘル」


 よろしくと言った後二人がこっちを見つめてくるので、交互に二人を見てから笑顔を振りまいておいた。

 その後の2人の話によれば、二人とも親が商業ギルドや冒険者ギルドの関係者らしく、それでラウルと仲良くなったらしい。


 ……そういえば、ラウルのお父さんって冒険者ギルドのギルド長だった気がする。あーギルド行ってみたいなぁ。



 ギルドの三階にあるラウルの家には、何度もアネットに連れて行ってもらったことがある。しかし、いつも裏口からしか入れてもらえず、ギルド内を見ることが出来なかったのだ。












 「お昼の時間よ」



 そうこうしているうちにお昼になったようだ。メースとガルシアが机を出してきて、そこに自分達と私達の昼食を並べている。年齢ごとに器が違うみたいだ。

わたしの器にはゆでた野菜とパンそして灰色の芋みたいなのと切った果物が入っていた。ラウルたちも同じだ。家よりも、もっといいものが出るかもと期待していたが、家より質素だった。メースやガルシアの器の中身も似たようなものだ。



 因みに、わたしは7か月から離乳食が始まって、毎日ゆで野菜を食べている。1歳を過ぎたあたりから小さなパンの欠片や肉の欠片なども食べさせてもらえるようになったがその程度だ。正直、この世界に来て大したものを食べていない。そもそもこの世界に大したものがあるのか自体定かではないのだが。少なくとも我が家の食事は大したものではないと言い切れる。何故なら、お父さんが食べていたのも、わたしが食べているものに塩や胡椒、香草で味を付けただけの簡単なものだったからだ。レパートリーが少ない。



 ……もしかして、かなりヤバいんじゃない? この世界の食生活……




 皆が席に着くと食事を開始する。

 大人たちはフォークやスプーンを使っているが幼児であるわたしたちは手づかみだ。汚い。衛生上に問題がある。家では手をきれいに拭いてもらってから食べていたためそれ程嫌悪感はなかったが、ここにはお絞り一つない。しょうがないから、手持ちのハンカチで手を拭くことにした。やらないよりはましだ。



 ……こういう時ってお箸が懐かしく思えるんだよねぇ


 奈留時代、保育園の『お泊り保育』という行事で、おばあちゃんと竹のお箸や竹トンボをつくった事を思い出す。あれは確か、5歳くらいだっただろうか。ナイフで竹を削ってつくった思い出だ。

 指をぐっさり切って病院に運ばれた子がいた気もするが…それは忘れた。



 ……お箸をまた作ってみたいとは思ったんだけど…2歳のわたしじゃ筋力が足りなくてまだ作れないかも。材料も道具もないし。




 色々と考えながら手を動かす。そう言えばこの灰色の芋みたいな物体は初めて見る。何て言うものなんだろう。


 わたしは隣に座っていたラウルの袖をちょんちょんと引っ張って訊ねてみた。


 「ねえ、ラウルこれ何?」

 「え?知らないの?ジャムエーラ芋だよっ」


 目を見開いて首をかしげながら教えてくれた。知っているのが当たり前というような言い方だったことから一般的な食べ物なのだろう。わたしはまだ食べたことがないので知らなかったが。

 ひとまず、味が気になったので、ちょっとだけ口の中に入れてみることにする。



 「うぐっ…マズっ」


 口にした灰色の芋は芋ではなかった。想像を絶する不味さの何かである。例えるならそう、吐しゃ物。ゲロだ。

 わたしは不味いと思ったが、他の子たちは顔色を変えずに普通にほおばっているように見える。これが文化の違いというやつだろうか。

 とにかく、わたしには飲み込むことは出来ない。このまま飲み込むと一人だけ嘔吐(えず)いてまいそうだ。


 わたしはそっとハンカチを取り出すと、誰も見ていないのを横目で確認してから吐き出す。



 ぺッ



 ハンカチは犠牲になったが、アレを飲み込むよりマシだ。そのままハンカチでぐるぐる巻きにしてからポケットに忍ばせる。



 ……ふぅ。後でこっそり洗わないといけないね。それにしてもマズかった。口直しにゆで野菜でも食べておこうっと。



 わたしは手でゆで野菜をつかみ、口の中に入れてから咀嚼する。味は素材の味といったところだ。幼児用だから味付けを控えているのだと思う。


 ……マヨネーズが欲しいね。


 マヨネーズに思いを馳せながら、ゆで野菜を食べ終えて、最後にとっておいた果物を手に取る。ネオレーブルだ。紫に近い色で毒々しいが味はオレンジそのもの。家でもよく食べるため覚えている。



 ……ネオレーブルはおいしいね。でも…あの芋はもう食べたくないな。あと、食事中にメースさんがちらちらと視線を投げかけてきたのはちょっと気になったよ。全部無視しておいたけど。






 食事を終えると、迎えがくるまでまた4人で過ごした。やることと言えば積み木で遊んだりぬいぐるみで遊んだりだ。わたしの場合は遊ぶというより遊んであげるといった方がいいだろう。今日だけだし、たまにはいいかなという気分で遊んであげた。






 ……そろそろお父さんが来る頃だと思うし、みんなに明日からはわたしが来ないことを伝えなくっちゃね。




 「あのね、みんな…」


 「エマちゃんっ、きょうはみんなであそべてたのしかったよ」

 「「「うん」」」

 「「「あしたもあそぼうねっ」」」

 そう言って3人はとても可愛らしい笑顔を私に向けてくれた。



 「う、うん…そうだね」


 私の顔は今、ちゃんと笑えているだろうか。

 必死に引き攣りそうなのをこらえているのだが…。

 あんなに可愛らしい笑顔を向けられたら言い出し辛い。というより言い出せない。

 ラウルが、わたしがさっき何を言おうとしていたのか訊いてきたけど、わたしも同じことを言おうと思っていたのだと答えた。だって、3人の笑顔を壊す事なんてわたしにはできないのだから。そうなると、やはりラウル達が3歳になるまで託児所に通うことは確定事項になったということか。明日だけでなくズルズルと延びていきそうな気がするから。




 ……うーん、メースさんの事は気になるんだけど、それ以外は家より託児所の方が暇じゃないし、子ども達と戯れるのは癒されるし、まぁいいかな。





 ポジティブに考えて、お父さんを待っていると今日もガルシアが知らせに来てくれた。3人にバイバイをすると部屋を出る。



 「やっぱりエマちゃんはわたしの思った通りの子でした。」



 部屋の外ではメースが何か意味の分からない事を言っていた。お父さんは引き攣った笑みで明日からはわたしをここに通わせるつもりはないと返事をしている。


 近くに寄ってから聞いた二人の話によると、お父さんはやっぱり昨日だけのつもりでわたしをここに連れてきていたらしい。そして、メースは昨日の段階からわたしをしばらく通わせてくれるように頼んでいたらしい。

 因みに、わたしのどこがいいのかという質問には、容姿と自分と目を合わせてくれない事を上げていた。



 メースの事はともかく、3人と約束したことは破るわけにはいけないため、お父さんの袖を引っ張って、ヒートアップしている二人の会話を止める。そして、3人との約束を伝えた。

 お父さんは、溜息をついて項垂れてしまったが、メースは紫の瞳をキラキラと輝かせてこっちを見ているようだった。





 ……触らなかったら逆に祟られたような気がしなくもないよ……









メースは雌 + SⅯ➡ⅯSからです。つまりは…


明日は休みます


次はまだ決まってないですが、そろそろエマが活動します。



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