3話 家の中と情報あつめ 後編
思った以上に1歳になるのが長かったです。
……最初はやっぱり自分の部屋だよね。
まずはベッド。
このベッドはわたしがこの世界に来てから一番長い間過ごした場所だ。
木製でシンプルなデザインだ。というより、この部屋にある家具は全て木製でシンプルなデザインなのだ。
家も木造建築で、奈留だった時に木造の家に住んでいたこともあり落ち着く空間になっている。暇すぎでさえなければ。
サイズが大きいのは体が成長してからも使えるようにそうしているのだろう。
ベッドはドアから一番遠いところにあって、たぶん北枕。ベッドの近くには窓があるけれど、子供の手が届かないように高いところに位置している。
とりあえずは、ベッドの下に何かないかのぞいてみる。
……うん。何もない。流石わたしの部屋、健全、健全。
お約束の、いかがわしいあんな本やこんな本はない。
次、行ってみよう~
次はタンス。これはベッドのすぐ横にある。
タンスの上には沐浴用の桶があって、この桶に現在もお世話になっている。3日に1回沐浴のために使い、それ以外の日は温かいお絞りで体を拭いてもらうといった感じだ。
そして、そのタンスの引き出しを一生懸命引っ張って中身をだしてみると、赤ちゃん用品しか入っていなかった。
……何もないし、タンスはもういいかな。さて次は机と椅子だ~
わたしはタンスの中身を放置し、向きを変えてペタペタとハイハイをして机と椅子の前へ移動する。
机と椅子はドアに近いところに置かれているのだ。
わたしはまだ小さいからこの2つを使うことはできないけど、もう少し大きくなればここで勉強したりするようになるのだろう。因みにアネットがよく座っているのはこの椅子だ。
椅子の上には何もないけれど、机の上にはランプがある。今は点いていないが辺りが暗くなるとお父さんが点けてくれ、寝た後は消してくれる。
暗闇に一人は寂しいから、とてもありがたいアイテムだ。
……机の上にはランプ以外のめぼしいものはないみたいだね。わたしが小さすぎて見えにくいところもあるけど、何も置かれていないのはわかる。
次いこ、次!
この部屋で最後に見るものは、棚だ。
机の横にあって、見た目は大きい三段ボックス。
一番上には読んでもらったことのある絵本が数冊だけあって、二段目にはかごが置いてある。一番下には何もない。
一番上には手が届かないため早々に諦め、二段目のかごに手を伸ばす。
……よいしょ
「と、とれたぁー!…うわっ。」
かごは何とか取れたが、バランスを崩したわたしは転がって、ゴンっと床に頭を打ち付けてしまった。
「いたたたた」
……大丈夫、名誉の負傷だよ。収穫はあった。さてさて、かごの中身は何かな?
わたしはかごを床に置いて、ゆっくりと上部についてある蓋を取り外す。
しかし中身は想像していたものと違っていて、小さな石やリボンといった小物が入っていただけだった。期待外れである。
……えー、普通じゃん。もっと異世界特有の何かを期待してたのに……
まぁいいや。この部屋はもう見終わったから、他の部屋に行こうっと。
でも、ここ以外は土足だからハイハイじゃ体が汚れちゃうかな。
そんなことを考えながら床にかごを放置し、ハイハイでドアの方へと向かう。
そしてドアの前で止まり、わたしはあることを思い出した。
……あっ!
わたしは浅はかだった……。
何度も見ていたから知っていたはずなのに、ハイハイが出来るようになったことに浮かれすぎて大事なことを忘れてしまっていた。
そう。
この部屋のドアは開き戸。引き戸ではなく開き戸だったのだ。引き戸ならこの体でも何とか開けられたかもしれない。だけど、開き戸はムリだ。ドアの取っ手に手が届かない。いくら頑張ってもムリだ。台になるものを持ってきて取っ手に手をかけようかとも思ったが、この部屋にそんなものはない。
諦めるしかない。
……あー、いつになったら家の中を自由に動き回ることが出来るようになるんだろう。ほとんど軟禁状態じゃん。今日の探索はこれでおしまいかぁ。あっという間だったのに、別の意味でなんだかものすごく疲れたよ。
溜息を一つつくと、床に落とした布団の所に戻ってふて寝をすることに決めた。そして、布団の上にコロンと寝転がって上を見る。
……いつも見る天井だ。そう心でつぶやいて目を瞑った。
しばらくすると、お父さんが戻ってきて「落ちてしまったのかい?けがはない?」と言いながらわたしをベッドに戻してくれる。
……ありがとうお父さん。今はその優しさが物凄く身に染みるよ。
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その後、
さらに辛抱して、1歳3か月になった。
因みに、10か月ぐらいから二足歩行ができるようになったので、もう細かな日数を数えるのはやめて、歩く訓練を始めた。
……今日はその成果を試すのだ!今日こそ暇をつぶせるようなものが家にないか探すぞ!
興奮気味にフンスと鼻を鳴らすと早速行動に取り掛かる。
まずは自分の部屋を出て、すぐ前にある両親の寝室から見ていくことにする。
「よいしょっと」
背伸びをして、目一杯手を伸ばすと取っ手にやっと手が届いた。
カチャっと音をたててドアが開くと、さっそく中を見渡す。
「うーん、ほとんどわたしの部屋と同じだね。特に何もないみたい。」
がっかりして、両親の部屋を出ると次に台所へと向かう。
台所は玄関から入ってすぐの所にあって、貯水タンクや、竈、石窯、テーブル、椅子なんかが置いてある。食料庫や物置らしきものなどもあったが何故かどれもこれも鍵がかかっていて中を見ることが出来なかった。
「ちぇっ、面白いものがあると思ったのに」
わたしはしぶしぶ諦めて、とぼとぼと奥へと移動した。
「ここは何かな?」
他よりも少し小さめのドアがあるが、ここにはまだ入ったことがない。もしかすると、お風呂やトイレがあるのかなと想像しながら取っ手に手をかける。
ガチャリ
「やっぱりトイレだ。」
わたしはまだおまるを使わされているけれど大きくなったらここで用を足すことになるのだろう。
……ぼっとんかぁ~懐かしいね。でもお風呂がここにないとしたら最後の部屋にあるのかな。
首をコテンと傾げて、最後の部屋に移動する。
「よいしょ」
最後のドアは慣れた手つきで開け、中を見る。
「わぁ」
……書斎だ! やったー! 暇つぶせそうだ!
ぱぁーっと顔を輝かせ、喜び勇んで書斎の中に入っていくと、中にいたらしいお父さんに「こっちに来ちゃだめだよ」と言われ止められた。
……なぜだ! すぐ近くにわたしの現状を変えてくれそうなものがあるというのに! 赤ちゃんだからダメなの? くっ、この体が恨めしい。
中に入れないのは絶対嫌なので、慌ててフルフルと首を振って自分の気持ちを主張する。
「いや、はいりたい!」
「エマは寂しかったのかい?でも、ここは大事なものがあるから入ってきてはだめだよ」
何ということだろう。わたしの主張は即却下されてしまった。別に寂しいわけではない。わたしは暇なのだ。
絶対に入ることができないと思い知らされ、あまりの絶望に目に涙がたまっていくのが分かる。
「ぐすん。ふぇーん」
ぽろぽろと涙がこぼれ床に染みをつくって行く。
そんなわたしを見ていたお父さんが慌てて駆け寄ってきてぎゅっと抱きしめてくれる。
「ごめんね、寂しかったんだね。大丈夫、大丈夫」そう言って頭をポンポンとされるとなんだか少し落ち着いてきた。さすがはお父さんである。
だが、現状は一向に改善されていない。また、生殺し状態を味わうこととなった。
現状に変化なし
次は託児所です。