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2話 家の中と情報あつめ 前編



 わたしが生まれてから7か月と18日が経過した。


 わたしは耐えた。よく頑張ったと思う。自分で自分をほめてあげたいくらいだ。





 生まれてから首が据わるまでの5か月間は暇すぎて拷問かと思った。

だけど、首が据われば少しは環境が変わってましになるのではないかと期待していたこともあり耐えることができた。


 しかし、そんな期待は早々に裏切られた。

 これについては、本当、浅慮だったと思う。


 確かに、首が据わってからはお父さんやアネットに抱かれて何度か外に出ることができた。それに、初めて外に出られると知った時は興奮したし、外はどうなっているんだろうとか思って、心を躍らせていた。




 しかし、いざ外に出てみると知らない人に抱かれ、顔を覗き込まれ、赤ちゃん言葉で話しかけられ、無駄に疲れるだけだった。しかも、家の中にいた時は気が付かなかったが外は暑くまさに夏という感じで、日差しを避けるためだとかで分厚くて重い変な服を着せられるし、かなりの苦痛だった。


 そして更に、自分一人で動けないから得られた情報も少なかったし、情報をもとに行動することも出来なかった。得られた情報といえば、

 

 わたしが生まれたのは春頃だということ。

 わたしたちの暮らしているところが王都にある平民街で割と貴族街に近く、町並みは中世ヨーロッパ風だということ。

 そして、平民街と貴族街は高い塀で区切られていて何か許可がないと平民街から貴族街の方へは入れないということ。

 後は、この街には商業ギルドと冒険者ギルドがあってお父さんは冒険者で、アネットは商業ギルドの受付嬢だということぐらいだ。


 ついでに言えば、わたしを抱っこした人たちの会話から自分の髪と瞳の色も分かった。髪は白金(プラチナブロンド)で瞳は深い青らしい。自分で確認してみないことにはわからないが、髪も瞳の色も想像していたより奇抜ではないみたいだ。まぁ、奇抜な色だったとしても、周囲に奇抜な色の人が結構いるからあっという間に慣れるんだろうけど。アネットやお父さんの色に慣れたように。



 ……それにしても、情報が少ないよ。まぁ、情報があったところでどうすることも出来ないんだけど。

 だって、冒険者ギルドや商業ギルドには興味が湧いたけど、まだ一人で動けないから、生殺し状態を味わうはめになったんだもん。



 今になって思えば、あの時どうしてそんなに喜んでいたんだろうと疑問に思う。

自分の体が乳児であることには変わりないのだから、できることは首が据わる前とほとんど一緒なのに。



 ……まじ、糠喜(ぬかよろこ)び。



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・


 だが今は、あの時のような無力な乳児ではない!だって7か月と18日も耐えたのだから。


 生後6か月が経過した頃には、ずりばいも出来るようになったし、きっともうハイハイも出来るようになっているはずだ。今日はそれを試そうと思っている。

自力で座れるようになっているから、体幹もしっかりしているだろうし、きっと大丈夫だ。


 ……なんだかワクワクしてきたよ。


 今日はアネットが子守のためにわたしの部屋に来ているし、ラウルもいる。せっかくだから、二人にもわたしのハイハイを披露しようと思う。


 ……誰かに見られるとなると少し緊張するね。ずりばいの時はいつも一人だったもん。


 わたしは緊張を解くように静かに息を吸って静かに息を吐き出す。そして、ペタペタと床に手を押し当てて、椅子に座ってこっちを見ているアネットに向かってゆっくり進んでいく。


 ……おぉぉ、やったー!出来たよハイハイ


 喜びに浸っていると、わたしがハイハイしているのに気付いたアネットがバッと椅子から立ち上がり、茶色の目を輝かせながらその場にしゃがみ込んでパチパチと手を打ち鳴らしてくれた。

 ゆっくりゆっくり進んでいき、やっとの思いでアネットのもとにたどり着くと、そのままアネットによって抱き上げられた。


 「エマ!ハイハイが出来るようになったのね!すごいわ!!」

 「アネットぉ?」


 アネットの喜びように驚いて、思わずアネットの名前を呼んでしまった。アネットが目を見開いて「今、何て…?」と言っている。


 ……やばい。まずった。急に喋りだしたら変な子だと思われると思って、気を付けていたのに、つい名前を呼んでしまったよ。まだ呂律が回らないけど、実は咽頭部はもう発達していて単語程度なら喋ることができるんだよね。あーどうしよう。


 わたしが焦っていると、アネットの手がフワッと私の頭に置かれた。


 「エマ!今、わたしの事を呼んでくれたの?うれしいわ、ありがとう!」

アネットはそう言ってわたしの頭を撫で、顔をほころばせる。

それを見たわたしも自然と同じ表情になっていく。


 どうやら、わたしの心配は杞憂に過ぎなかったみたいだ。


 ……良かったー。だけど、油断は禁物。次に喋るときは気を付けないといけないね。単語を小出しにって感じで。

 それにしても、アネットに褒められるとうれしいね。


 わたしがニコニコとアネットに笑顔を向けていると、それを見ていたらしいラウルがよちよちと歩いてきた。


 「ぼくも」


 ラウルが少し寂しそうにそう言うと、アネットは抱いていたわたしを下におろして、「ラウルもいいこね。よしよし」と言いながらラウルの頭をなでる。



 ……やっぱり、アネットはラウルのお母さんだね。ちょっと羨ましい。わたしもお母さんに会ってみたいんだけどこの家にはいないみたいなんだよね。ちゃんと話せるようになってから、それとなくお母さんのこときいてみようかな。

 それにしても、わたしがハイハイ出来るようになったばかりだというのに、ラウルも見せつけてくれるものだ。二足歩行マジで羨ましい!たった数か月生まれるのが遅かっただけで物凄く置いて行かれた気分だよ!いいなぁ二足歩行。



 そうこうしているうちに夕方になってお父さんが帰ってきた気配がした。アネットとラウルもそれに気づいて帰る準備をし、部屋の前で靴を履いている。わたしの部屋は、まだわたしが乳児だということもあり土足禁止だがそれ以外の部屋は土足なのだ。どうやらこの世界の人達は基本的に土足で家の中に上がるという習慣を持っているみたいだ。


 お父さんが近くまで来たので、アネットは廊下を通ってそばまで行き、今日の報告をする。わたしがハイハイを出来るようになったことやアネットの名前を呼んだことなどを話しているようだ。お父さんはそれを聞いて喜んでいるみたいだ。よかった。


 報告が終わるとアネットとラウルは手を振って帰って行った。


 かわりにお父さんが部屋に入ってきて「今日は、よくがんばったね」と言って頭をなでてくれた。そしていつものように、わたしをベッドまで連れて行き、自分もそばに寝転がってから寝かしつけてくれる。



 ……だけど、わたしは寝るつもりはないよ。今日は絶対にすべきことがあるんだもん。


 ハイハイがせっかくできるようになったのだ。このスキルを活かして今日中に家の中を探索したい。まだろくに、自分の部屋でさえ探索していないのだから。


 わたしは今日のプランを考えながら狸寝入りを決め込む。狸寝入りのつもりが、本当に寝そうになってしまったのは秘密だ。すると、お父さんは私が眠りについたと思ったみたいで、そぉっと起き上がって一度わたしの頬をなでてから静かに部屋を立ち去った。



 ……ごめん、お父さん。本当は寝てないんだ。だけど、せっかくお父さんがくれた時間だもの大事に使わせてもらうね♪


 時計がないからわからないけど、いつもお父さんは一定の間隔で私の様子を見に来る。だいたい1~2時間ぐらいだろうか。もっと長いかもしれないし、もっと短いかもしれないが、それはどうでもいい。誤差の範囲内だ。お父さんが戻ってくる前に家の中を見て回り、この部屋に戻ってくればいいのだ。そしたら、お父さんが床に居るわたしを見つけて、またベッドの上に戻すなり、何なりしてくれるだろう。完璧な計画だ。


 さぁ、ここからはわたしの、わたしによる、わたしだけの時間だ。


 わたしはむくっと体を起こし、ベッドの上にある布団を頑張って床に落とす。そして、後ろ向きになってからゆっくりと床に降り立った。


 かなり上手くいったと思う。若干バランスを崩して転がってしまったが、頭を打たなかったから問題ない。最初に落としておいた布団のお蔭だ。この布団をベッドの上に戻すことはわたしにはできないのだけれど。その辺はお父さんが何とかしてくれるのではないかと期待しておくことにする。



 ……さて、どこからみていこうかな~






今回はエマの容姿が分かりました


次回は後編です

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