33話 お話し合い①
「そうね。今更、貴方達にこの手の魔法を使っても殆ど意味はないものね。」
そういうとお母さんはわたしの首にかかっているネックレスを取り出して手で包んだ。わたしが目をぱちくりさせていると、魔術具の作動を止めただけだから大丈夫よと言って頭を撫でてくれる。
……別に怯えてた訳ではなくビックリしてただけなんだけどなぁ。てか魔術具だったんだコレ。こんなに小さいのに……高そう。
お母さん曰く、この魔術具は対象者の事を知らない人が見た場合のみ茶髪茶眼に見えるようにしており、知人には効果のない代物らしい。トータルで約1時間使用すると本体にヒビが入り使い物にならなくなる為、大変高価でコスパが悪いけれど、もしもの為に取っておいた物だそうだ。
……なんだそれ、耐久力マンボー並じゃん。コスパ悪過ぎ。
「やはり、僕の姪だけあるね。神々しくも美しい」
「何を訳の分からない事を言っているのかしら。この子はわたくしと」
「私の子だ。」
お父さんがお母さんの肩を引き寄せて力強く言った。
新たな情報が多すぎて、頭がパンクしそうになっているわたしはそっちのけで大人達の会話が進んでいく。
「そうは言っても、僕の姪である事に変わりはないでしょう?つまりは我が家門の後継者候補だ。」
「家とは縁を切ったはずよ。それに後継者ならあなたがいるじゃない。わたくしの娘を巻き込まないでちょうだい。」
「姉上が突然居なくなってどれだけ僕が大変だったか。」
「もう、やめぬか。貴族としての義務を放棄した其方の姉もそうだが、其方も過ぎた事をとやかく言っても仕方なかろう。今ある問題を解決する事が先決だと思うが、其方らはどう考える?」
アイザックが二人の言い争いを制止すると、ジュリアンは「失礼致しました。」と謝罪をし、お母さんは頭を下げた。
「恐れながら、アイザック殿下に申し上げます。今ある問題とはどういった事なのでしょうか?弟が言っていた後継者の話でしたら、わたくしどもの娘にはおそらく魔力もございませんので丁重にお断りさせていただければと思っている次第でございます。」
「ロベール、其方も同意見か?」
アイザックがお父さんに目をやる。
「はい、今まで娘にはおよそ魔力持ちにあるような現象も違和感もありませんでした。おそらく、私に似たのでしょう。」
……無能力宣言!?魔法使いの夢潰えた。
「ふむ、其方らの見解はわかった。だが、私達の考えは違うのだ。確かに、能力測定器には全く擦りもしなかった。しかしながら、全ての適性が基準を下回るどころか0を示すなどまずあり得ない。もしそれがあるとすれば、考えられることは限られてくる。」
アイザックは、外部から意図的に能力を押さえ込まれているのか、全ての基準を大きく上回りすぎて測定しきれなかったのかは判らないが……。と付け加えた。
「そんな……魔力持ちだと断定するのは早計ではないでしょうか。私は魔力持ちではありませんし、親が魔力持ち同士ではない子が魔力を持つという前例は聞いた事が御座いません。」
「それを言うなら、親が魔力持ち同士ではないのに子ができると言うのも聞いた事がないですよ。貴方ではなく姉上の血を色濃く引いたのではないですか?容姿もさることながら」
ジュリアンが語気を強めてお父さんに詰め寄った。
「ジュリアン、ロベールに噛み付くのをやめぬか。姉を盗られた其方の気持ちもわからぬでもないが……。」
お母さんがジュリアンを止めるよりも早く、アイザックが顔を顰めながらジュリアンを制止する。ジュリアンは小さな声で「姉上の事は関係ありません。」と呟いていた。
「まぁ、今ここで我々が揉めても仕方あるまい。能力の有無はともかく、一つ確かめたいことがある。ルキウス頼んだ。」
ルキウスと呼ばれた黒フードの人が少しだけ前に進み出た。両親がわたしを庇うようにした為、「痛くもしないし、触れもしないから安心して欲しい。」と言うと、続け様に誰かを呼びかけるように「ノックス」と呟いた。