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1話 言葉を覚えよう!

本編に入るはずだったのですが、主人公が乳児過ぎてまだ話すことができない状態です。申し訳ありません。

この話でやっと、この世界での主人公の名前が分かります。






 わたしは生まれてから今日に至るまでの日数をしっかり、きっかり数えている。今日は3か月と23日経ったところだ。まだ首が据わってない。首が据わるのはだいたい5か月ぐらいだというから、先は長い。





 ……暇だ。





 仕事に追われている時は休みが欲しいって思うけれど、休みが延々と続くとそれはそれで苦痛だ。仕事と休日はどちらが多すぎてもダメ、バランスが大事だとはよく言ったものだ。




 さぁ、ここで今のわたしが置かれている状況を確認してみよう。


 わたしは首の据わっていない赤ちゃん。自分では大して動くことができず、一日の大半をベッドの上で過ごす。言葉を覚えるくらいしかやることがなく、できることも思いつかない。そう、今のわたしは苦痛の中にいるといっても過言ではない。しかもこの状況がしばらく続くのだ。ぞっとする。




 因みに、やることがなさ過ぎて言葉を覚えることに専念していた結果、難しい単語以外、つまり、日常会話は全てとまではいかないが、ほとんど理解できるようになってしまっている。それもわたしが想定していたよりも早くに。しかも理解に至るまでの副産物として読唇術とまでは言わないが、簡単なものなら唇の動きで何を言っているのかわかるという中途半端な技術まで身につけてしまった。


 とりあえず、乳児であるわたしの咽頭部が発達して喋ることができるようになるまでは言葉の習得はほぼ終わったようなものだから、目先の目標が消えて本格的にやることがなくなってきているというのが現状だ。




 想定よりも習得が早まったのには、やることがなかったということだけでなく他にもいくつかの理由がある。そのうちの一つは、この体がまだ乳児であるため、大人より音を聞き分け易かったり、記憶力が良かったりするということだ。今のわたしは吸収力がすこぶる高いと思う。だがこれは、想定内の誤差だ。




 やはり、最大の理由はお父さんが毎日最低1冊の絵本を読んでくれたり、一緒にいる時は話しかけてくれたりしたことだと思う。絵本の読み聞かせは床の上に厚さのある広いマットを敷いて、そこに仰向けに寝転がったお父さんのお腹のあたりにわたしも仰向けの状態で寝かされて行われることが多い。それ以外のパターンはベッドかスリングに入れられている時なのだが、そういう時も自由に首を動かせないわたしの為にお父さんは器用に本を持って読んでくれる。つまり、わたしは目の前を見ていればいいだけだ。このお蔭で文字も半分くらいは覚えることができたし、文法が日本語とほとんど同じだということにすぐに気付くこともできた。それに気づいてからは単語に重点を置いて文章を目で追っていたため、単語を覚えるのが楽にできるようになったのだ。



 それにお父さんとの時間は暇な生活の中で心が荒みかけているわたしに与えられた貴重な癒しの時間だった。だからこそ、ものすごく集中して話をきいた。必死になって唇の動きをみたり、アクセントをチェックしたりもした。もっとも、咽頭部が発達してないので、自分で試そうとしたら案の定失敗したのだが、習得スピードは格段に上がった。



 ……我ながら自分の日常のヒマさに磨きをかける素晴らしい取り組みをしたと思う。



 ……だけど、これからもわたしはやめないよ。せっかくお父さんが読んでくれるのだから必死できく。だってこの時間以外は基本的に暇なんだもん。せっかくのお話をきき逃したらもったいないじゃん。




 絵本は奈留だった時にどこでも見ることができていた一般的な紙のものではなく羊皮紙のような感じで、何かの皮でできているようだった。子ども用で文字も少ない物だからかお父さんが手に持つと小さく見える。そして、少し古びている。だが、そこは気にしない。

 文章と挿絵が一緒についているのは奈留時代と同じで、情景を想像しやすいので言葉を覚えていなかった時も楽しく見ることができた。

内容に関して言えば、一言でファンタジーという感じだった。どれも奈留時代に読んだことがない内容で、知らない神様の登場する話や魔法とか魔獣が出てくる話とかそんなのばかりだった。



 わたしがいる部屋の雰囲気と両親やその他の人の容姿と服装、そして言葉などからうすうす気づいてはいたのだが、絵本の内容がここは異世界であるという確信を与えてくれた。それは、わたしがこの世界にほんの少し興味を持つきっかけとなった。



 だがしかし、首の据わっていない乳児のわたしにできることはたかが知れている。



 今日の読み聞かせの時間はもう終わった。明日の読み聞かせの時間まで基本的に暇だ。



 ……せっかくこの世界に少し興味を持ってきたというのに動けないなんてつまらないよ。もどかしいよ。



 前世の記憶なんていらなかったとつくづく思う。今のわたしの体は言うまでもなく乳児だけど、思考回路は一丁前。だけど、肉体に精神が引っ張られているのかどうか定かではないが、奈留の時は我慢できていたはずのことが転生してからほんの少しだけど出来なくなっている気がする。とてもやり辛い。


 ……あーあ、どうせ記憶とかを引き継ぐのなら動けるようになって思い出すとかそういうのが良かったよ。





 わたしは心の中でそんな愚痴をこぼす。





―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・



 そう言えば、この3か月と23日の間に何人かの人を見た。覚えてない人もいるけれどよく見かける人は覚えている。



 一人目は生まれた時にいた、20代後半くらいで深緑色のウェーブのかかった長い髪に茶色の瞳の女の人。名前はアネットというらしい。アネットはお父さんが出かける日には、必ず家に来る。そして、わたしの世話を献身的にしてくれるとてもいい人だ。アネットがわたしの乳母なのかどうかはわからないが、極たまにだけど、お父さんからお金を手渡されたりしているのを見るからわたしの面倒を見るのを副業にしているのかもしれない。


 だとしても、いつも乳首から直で母乳を飲ませようとするのはかなりやめてほしい。ただの乳児でないわたしが同性の胸に吸い付くのは気が引けるし、生理的に無理だ。わたしの中の何かがブロックしている。



 奈留だったころに培ってきた色々なものを打ち捨てて、我慢すればできないこともないが、この世界に母乳の代替になるものがあることをわたしは知っている。それに、哺乳瓶ではないが授乳用の容器があることも知っている。



 というのも、はじめの頃に授乳を嫌がって「hェーン」と泣いたら、お父さんが不透明の何で出来ているかはよくわからない授乳用容器にトロッとした謎の液体を入れて持ってきてくれたのだ。最初こそ飲むことを躊躇したが、栄養価も高いみたいだし、飲むと青リンゴのような味がしておいしいので私的には母乳よりこっちの方がいい。別に母乳自体は嫌じゃないんだけど無理してまでアネットの胸に吸い付いてすすりたくはないのだ。




 だからわたしは未だに母乳を飲んでいない。乳児なのに。




 二人目と三人目はアネットの子どもで、名前はレオンとラウル。

アネットには三人の子どもがいてそのうち、我が家に来たことのある二人だ。


 レオンの方が年上で3歳。髪は深緑で瞳は緑のいかにもやんちゃそうな男の子だ。レオンとわたしに交流はないし、たまに家に来る程度なのでよく知らない。


 ラウルはわたしと同じでまだ乳児の男の子。髪も瞳も前世で見慣れた茶色で、目にやさしい。もうすぐ1歳らしいから、首は据わっていて、赤ちゃんの画期的な移動スキルであるハイハイもできる。わたしはラウルがハイハイしているのを見た時はいつも目が潤む。羨ましすぎて。



 ……う、羨ましい。わたしがハイハイを身につけられるようになるのは一体何時だ?



 多くの赤ちゃんは生後7~8か月で徐々にって感じだと奈留時代の学校の授業できいたことがある。だけど、この体は思いのほか発育がいいと思う。だからもう少し早いかもしれない。



 ……うーん、待ち遠しい。




 四人目はお父さん。名前はロベルトだ。かなり整った顔立ちで細マッチョだ。歳は30いってるかどうか微妙なラインだ。さらさらの髪は灰色で瞳は赤く、身長は高めだと思われる。



 毎日、絵本を読み聞かせてくれたり、話しかけてくれたり、やさしく抱っこしてあやしてくれたり、とにかくいろいろしてくれる優しいお父さんである。



 しかしだ、お父さんといえども、ただの乳児でないわたしがロベルトに聖域(パンツのした)を見られることにはかなりの抵抗があった。羞恥心崩壊が促されるほどに。

 仕方ないってことはわかってはいる。このもっさりしたパンツを装着しなくてはいけないことも、汚れたら着ている服も全部脱いできれいにしなくてはいけないってことも。沐浴もねえ…。

 

でもまぁ、生理現象に耐えられなくなって漏らしてしまいそうな時は、一応しっかり泣いてお知らせする。

だって、パンツ汚したくないし、一人じゃ何もできないんだもんこの体。


 だけど、いざ服を剥かれるとなると乳児でも恥ずかしい。


 ……でも、まぁ、うん。これに関してはもうあきらめたよ。どうあがいても乳児の私に勝ち目ないんだもん。


 そうだ、お父さんがわたしに話しかけてくれることからわかったことがある。

わたしの名前だ。エマというらしい。アネットもそう呼ぶからそうなんだと思う。


 後は、ちょっと気になるわたしの容姿も少しだけわかった。髪や瞳の色は今まで通り不明だが、わたしの容姿は両親によく似ているらしい。確かめる手段が今のところないため、わたし自身は見ることができないのだけれど。


 それと、お母さんの名前もわかった。アリアというそうだ。

よく、お父さんが「私もアリアも君が生まれてきたことをうれしく思っているよ」といって微笑んでくれることからわかった。


 ……うれしいけど、そんな言葉をきくとお母さんに会いたくなっちゃうんだよね。だけどあれから一度も会っていないんだ。あの時ひどく疲れて見えたから、もしかすると療養中なのかもしれないね。

 

 よっし、切り替え切り替え。とりあえずは、ハイハイができるようになるまで耐えよう。がんばれわたし!暇という名の拷問に打ち勝とう!



 そう心の中で自分に言い聞かせた。






主人公の名前はエマでした。

今回は新キャラを登場させました。


次回は情報集めです。

乳児から幼児までは書くことが少ないのでペース早めで行きます。


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