22話 迎えと再会 後編
しばらく外を見ていたけれど日が落ちて暗くなったので、窓から離れる。
……まだかな。
室内のランプをつけた後は特にやる事もないので、さっき買った食べ物の袋を手にとって、中に入っている自分の分のパンを一つ取り出して食べることにした。小さくちぎって口に入れ、モソモソと咀嚼する。しかしながら、すぐに食べる事をやめる。パンが固くて乾燥している為、口の中の水分が根こそぎ持っていかれたのだ。
「うっ……み、みず」
急いで水を取りに机の上に置いてある荷物のところに駆け寄り、水筒に手を伸ばす。
「ふぅ……助かった」
わたしのか弱い喉に危険なパンを食べるのはやめて、ベッドに座る。
……お母さんに会えるのはいつなんだろう。明日かな?
クウォライドにいるのなら、もうすぐ会える筈だ。
「どんな顔をすればいいんだう……。」
嬉しいけれど、不安に思う事もある。そのような事をボーッと考えているうちにわたしは寝てしまったらしく、「カチャッ」というドアの鍵が開く音で目を覚ます。知らず知らずのうちにベッドの端で丸まっていた体を起こして、ドアの近くまで歩く。
わたしがドアの前に到達する前にドアが開く。そこには少し疲労感の見えるお父さんが立っていた。わたしを見ると微笑む。
「待たせてしまってすまない。」
「ううん」
わたしは「大丈夫、気にしないで」の意味を込めて首を横に振ってニコリと笑う。すると、お父さんはクルリと斜め後ろを振り返り、手を伸ばす。わたしの所からは見えないけれど、誰かいるのだろうか。そう思っていると、お父さんの「さあ、早く」や「大丈夫」などという小さな声が聞こえた。それに躊躇う女の人の声も微かに聞こえる。
……もしかして!!
「お、かあさん?」
言葉が口をついて出る。
お父さんがこちらを見て微笑んで、その女の人を引っ張るのとほぼ同時にわたしの体は動き出していた。
ポフッ
あたたかくて柔らかい感触が体に当たる。意識していないのにブワッと涙が溢れてくる。ついさっき迄、どんな顔をすればいいかとか、何を話せばいいかなどを考えていたのに、そんな考えは真っ白に消え去っていた。ただ、お母さんのそばにいたくて、抱きしめてもらいたかった。
堰を切ったように溢れ出てくる涙をそのままに、子どもみたいに泣きながら掠れる声で「お母さん」を何度も呼ぶ。
すると、わたしに抱きつかれた状態だったお母さんがしゃがんで、ギュッとわたしを抱きしめてくれた。わたしはお母さんに体を預ける。
涙で濡れて歪んだ視界でもわかる。お母さんも泣いているのだと。
「エマ」と名前を呼んで、頭をなでてくれるその手は優しくて、安心する。あの時の手と同じだ。まだ、心の何処か片隅で「奈留」だったけれど、この瞬間わたしは完全に「エマ」になった。
そこからの記憶はない。多分泣き疲れて寝てしまったのだろう。
髪を撫でられる感触で目を覚ます。目を開けて真っ先に目に映ったのはお母さんの顔だ。どうやらベッドの上で川の字になって寝たらしく、お母さんとは頰と頰が触れるくらいに近い。この部屋にはベッドが2つあるが両方中くらいサイズ(多分ダブルくらい)なので3人が一緒に寝ると少しばかり窮屈なのだ。しかし、心がほっこりあたたかくなる。
寝顔を見られていたのはちょっぴり恥ずかしくて、布団に潜り込みたい気持ちがあるけれど、3人が近すぎて無理だ。その為、とりあえず挨拶をしておく。
「おはよう」
お母さんは柔らかく微笑んでくれる。そして、小さい声で返事をして、わたしの頰に唇を落とす。わたしは目をパチパチと瞬かせた。お母さんはクスッと笑った後、驚いて固まったわたしを解す為なのか、わたしの後ろをの方に目配せをする。
後ろを見るためにクイッと首を向けるとお父さんがなんとも表現に困る寂しそうな表情をしていた。
……わたしがお母さんとっちゃったから!?
コロンとお父さんの方を向く。
「あぅ、ごめんね、お父さん」
声をかけると、お父さんはわたしとお母さんを抱きしめるように腕を伸ばしてきた。
「へ?」
お母さんがクスクス笑う。
「どうしたの?」
「いいえ、何でもないわ。」
わたしは2人の顔を見比べる。笑顔だ。
……よくわからないけど、まぁ良いや。
それから3人で宿で提供してくれる朝食を摂ると、街をぶらりと散歩する。布とか食材とか色々買って宿でもう一泊した後はまた、ワイバーン飛行機で王都の平民街に戻った。
お母さんが戻ったので、近所の人が騒いでいた。男性陣は喜んでいたし、お母さんと仲の良かったらしいアネットなどは健康のことを気遣ったりしていた。一方でお母さんの事をよく知らない野次馬も混じっていたらしく、そういった人達はみんなの話をきいていた。人様の家庭のことなので、いずれの人もすぐに仕事に戻ったし、騒ぎもすぐに収まった。
次は季節が変わり初夏になります。




