21話 迎えと再会 前編
「迎えに行くから、すぐに支度をしよう。着替えは忘れないように!」
お父さんの声でハッとして返事をする。
「わかった!」
わたしよりもきっとこの日を待ち焦がれていたのはお父さんだろう。わたしがお母さんに会ったのは一瞬だけだ。たくさん思い出があって、ずっと会いたいと思っていて、でもわたしがいるから自分の気持ちを押し込んでいたのでは無いだろうか。わたしに寂しい思いをさせないように。
……わたしも会いたいよ。でも、大人だった過去があるのに何故こんな気持ちになるのかわからない。「母親」がどういうものかも知らないのに……
準備が終わると戸締りをして家を出る。
「そんなに遠いの?」
「そうだね、ここからクウォライドまで行くからかなりの距離だろうね。」
土地勘のないわたしにお父さんが噛み砕いて説明してくれた内容によると、ルミナリア王国の東にはキアント領があり、そこを越えた先にクウォライド領があるという事だった。ちなみにその横はエンブレアナ、そこからいくつかの領地を越えて進むとグランデルスである。東側で1番活気があるのはグランデルスらしい。というのも国境門があって、国の玄関かつ貿易窓口のような役目をしているからだそうだ。王都と比べてもキアントやクウォライドはそこそこ綺麗な街で、クウォライドを過ぎてエンブレアナに入ると大分雰囲気が変わると言っていた。
「かなり遠いと思うんだけど、着替えこれで足りるかな……頑張って詰めたんだけど。」
わたしは自分の荷物をジッと見つめる。お父さんも自分の荷物をチラッと見た。わたし達が持ってきているのはせいぜい3日分くらいだ。
「どうだろう。でも、もし足りなくても大丈夫。念のために持ってきただけだから、調達出来れば向こうで買えばいいよ。」
お金は心強い味方ですね。わかります。
「それで、移動はどうするの?馬車とか?」
電車やバスが走っている筈も飛行機が飛んでいる筈もない。徒歩は辿り着ける気がしないから絶対にない。ここはやっぱり王道の馬車だろう。
「半分当たり。途中までは馬車でそれからは秘密、行ってからのお楽しみ。」
「えー、気になるよ。」
……お預けとか、メッチャ気になるんですけど!馬車以外に何か乗り物ってあったっけ?
うーんと腕を組んで考え始めたわたしを見てお父さんがクスッと笑い、遠出用のマントのフードをスッポリ被っているわたしの頭にポンと手を乗せた。
馬車に乗って、東の方角へ進む。森が見えてきたところで一度降りて、そこからは抱きかかえられて移動した。王都の東側はわたしたちの家のあるところよりも綺麗ではなかった。それでも、王都というだけあって平民街の割にはきれいな部類に入るらしい。国の中心から外に行くほど格差が著しく表れるといったところだろうか。貴族街と平民街の垣根のない領地もあるらしいから、実際どうなのかはわからないけれど。
ギルドの支店だろうか、前に行ったことのあるギルドよりも小さめの建物に入ると、お父さんはギルドカードを出してクウォライド領までの手配を頼む。それからは少しの時間手続きが終わるのを待ち、また再び移動を開始する。
「ねぇ、お父さん、どこに向かってるの?あっちは森だよ。」
「これでいいんだよ。」
そういうお父さんは森の中を突き進む。抱きかかえられているわたしは初めて通る東の森の中をきょろきょろと見まわしていた。
……西の森よりも高い木が多いね。
「ほら、エマもうすぐ見えてくるよ。」
「え?」
お父さんが指さす方向を目を凝らして見つめる。どんどん近くに進むことでその形がはっきりとわかってくる。
「……ドラゴン。」
「そう、あれはワイバーン、ドラゴンの一種。あれに乗ってクウォライドまで飛ぶんだ。」
……え、びっくりしすぎてリアクションが取りにくいよ!ワイバーンって図鑑に載ってたやつじゃん!この世界では一般的な乗り物か何かなの!?飛行機なの!?
心の中で突っ込みを入れていると、目の前でお父さんがパタパタと手を振る。
「大丈夫かい?」
「うん、平気。びっくりしたけど……」
わたしたちが近くに寄るとワイバーンは羽と尻尾を小さく動かす。
……人懐っこい子なのかな。乗り物になるくらいだから危険じゃないよね。おとうさんもいるし……。
そう思った時、[乗って]という声が響いてきた気がした。気のせいだと思って、ワイバーンに目をやるとこちらを見つめている。
……あれ?いや、無いでしょ。あの力はあれだし、うん、ないない。もう治まってるはずだし気のせいだよ。うん。
わたしは思考を放棄するためにフルフルと頭を振った。そしてお父さんに促されるままにワイバーンの背に乗り、そのままクウォライド領の開けた場所に降ろしてもらってワイバーンと別れた。帰っていくワイバーンの背を見つめながら「早かったね。」と呟くと「うん、今日はいつもより速く飛んでくれたみたいだ。」と返事が返ってきた。ゆっくり飛ぶ時もあるのだろうか。速いのは怖いので、今日のような大事な日以外はゆっくりの方がいい。
景色をじっくり見る余裕はなかったけれど、空を飛んだことで、森林の緑色、建物の密集地、農地か何かだろうか何もない茶色の土地を上から確認することはできた。
クウォライドにあるギルドの建物に入り、様々な手続きをした後は、食べ物を買って、宿探しだ。お父さんは少し値の張りそうな宿に決めると、手早く宿で必要な手続きを済ませる。
「部屋は前払いですが、それでいいですか?」
「構わない。」
「小金貨2枚です。」
お父さんは革でできた巾着の中から2枚の硬貨を取り出してカウンターの上に置く。
「はい、ちょうどですね。お部屋は3階の306号室で、カギはこちらです。」
お父さんはカギを受け取ると、わたしを抱きかかえるために両手を広げて、「行こうか」と微笑む。
「うん」
部屋につくと、お父さんが言う。
「私は今から外出するけど、エマはここで待っていてくれないかい?」
「え……一緒に行っちゃダメなの?」
知らない部屋で1人でいるのは不安で嫌だ。
わかりにくいけれど僅かにお父さんが困った表情をみせる。
「すぐに戻って来るから。」
「……わかった、待ってる」
わたしがついていっても足手纏いだし、用事のあるお父さんの邪魔をしてはいけない。コクリと頷いて大人しく待つ約束をする。
お父さんが出ていった部屋に鍵をかけ、窓から下を見下ろす。そして、窓から西日が差し込み、眩しいので目を細める。
帰宅時間だからだろうか、先程までよりも人が多くなった気がする。いろんな人たちが荷物を背負って移動している。そんな人達の中を走っていくお父さんが見える。あっちはさっき通ってきた道だ。ギルドにでも行くのだろうか。
わたしはそんな事を考えていた。
次は後編




