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19話 調べものと金物屋




 本日は調べものをする日である。しかし、もう既に諦めモードに突入しつつある。というのも、どこを探してもシロのような魔獣の記述はないのだ。書斎に入った時にお父さんが渡してくれた魔獣大図鑑なるものを見ているのにだ。図鑑に載っている事が全てではない為、この図鑑には載っていないだけだと考える。

 あとはパラパラと流し読みし、栞の挟まれていたページを読む。ドラゴンに関するページだった。他の魔獣に比べると希少種の部類に入るけれど、竜種の中でもワイバーンなどは比較的数が多いと記述されてあった。


 ……ドラゴンも物語だけじゃないんだ。居るんだね、この世界は。


 湖にあった不思議植物に関する記述は植物大図鑑に載っていた。あの手のような形の植物は「ルテデ」というそうだ。綺麗な水を好む為、この植物が自生している場所は水が綺麗なのだそうだ。他には薬に利用される事もあると書かれてあった。


 「まだ、読んでいるのかい?」


 図鑑には難しい表現やわからない単語が沢山出てくるので、辞書を引きながら読んでいたらお昼の時間になってしまっていたらしい。お父さんに声を掛けられて気づく。


 「うん、でももう調べたいことはだいたい終わったから、今から片付けるとこ。」

 「そう、お昼はホワイトシチューだから冷める前に来るんだよ。」


 ホワイトシチューそれは甘美な響きだった。お父さんのホワイトシチューは絶品なのだ。ベシャメルソースの作り方にかなり拘っていて、わたし基準ではお店に出せるくらい美味しい。もともと作り方はわたしが伝授したのだけれど、今やお父さんの方がホワイトシチューとグラタン、ビーフシチューに限っては上手に作る。

 うかうかしていると他の料理でも差がつけられそうだ。

 でも今はそんな事はどうでもいい。食べたい。


 「やったー!大急ぎで片付けて、食べに行く!」

 「慌てなくても大丈夫、お鍋には足はついてないから逃げないよ。」


 お父さんがクスッと笑う。



 美味しいシチューに舌鼓を打ちながら、ほっこりした気分で話しかける。


 「また腕を上げたね、お父さん。美味しすぎてほっぺが落っこちちゃうよ。この牛すじなんかホロホロで病み付きになりそ……。」

 わたしは自分の頬を押さえる。


 「ありがとう。そう言われると作り甲斐があるよ。」

 「うん、又作ってね。……あ、それはそうと、今日は丸一日休みだったよね?食べ終わったら金物屋に行かない?」

 「どうして金物屋なんだい?」


 お父さんはパンをちぎりながらこちらを見る。


 「調理道具を注文しときたくて。とりいそぎ注文したいのは粉をふるう道具なんだけど……お父さんもあると便利でしょ?」

 「……確かに、粉がダマになる時があるからあった方がいいかもね。……よっし、注文しよう。他に欲しいものはあるかい?ついでに頼んであげよう。」

 「うーん、いくつかあるにはあるんだけど、それは完全に自分の趣味用だから、自分でお金を貯めてから買うつもり。」

 「そうか……遠慮しなくてもいいのだけれど。」


 お父さんは困った表情を作り、微笑む。


 「遠慮じゃないよ。他の子達もそうしてるんだよ。」


 必殺『みんながしてる事』を繰り出す。これを繰り出した事によりお父さんは納得した表情になった。

買ってもらえる事は嬉しいけれど、何でもかんでも与えられていたら、それに慣れてしまう気がするのだ。自分に出来る事は自分でやるようにしないと、将来困る。特にこの世界は前と比べて、低年齢で職につかないといけないのだ。レオンやカレンは10歳でギルドに登録すると言っていたから、多分そのくらいなのだろうとおもう。わたしは冒険者になりたいと今は考えているけれど、気が変わるかもしれない。今のうちから様々なスキルを磨いて就職に役立てるのだ。



 金物屋につくと、粉ふるいを注文する。それとは別に金属のボウルも2つ自費で頼んだ。

金物屋のおじさんとは前に泡立て器を注文しに来たときもあったけれど、職人気質なのか無口で会話があまり成り立たない。しかし、貴族街にも商品を納品しているだけあり腕は確かで、弟子の数も多い。見かけによらず、太っ腹なところもあって、安く請け負ってくれるいい人だ。

 はじめてここに来た時、「この世界に泡立て器とかの調理道具はあるんだろうか。無かったら説明が大変じゃない?」と思っていたけれど、我が家に無いだけで普通に存在していた。ということはこの世界の食事はわたしが思っている以上にいいのかもしれない。前までのお父さんの料理スキルが低かったのか。託児所では乳幼児に合わせた食事をメースやガルシアも食べていたと考えた方がいい。


 ……外食、してみようか。


 「それじゃあ、おじさん宜しくお願いします!1週間後に取りに来ますね。」

 「あいよ。」




 「お父さん、今日の夕飯なんだけど、何処かで食べていかない?」

 「んーそうだね、偶にはいいのかもしれないけれど……」


 どうしたのだろう。お父さんは考え込むように顎に手を置く。金欠ってわけでは無いだろうし。わたしはジッと見つめる。


 「どうかしたの?」

 「いや。ただ、エマの口には合わないのでは無いかと思ったんだ。」

 「え……そうなの?」

 「うん、食べられないわけではないのだけどね。でも……あの店なら……」



 ……つまり、どういうこと?気になるよ。怖いもの見たさってやつだよ!


 今度こそこちらの食生活を覗いてみせる。ふんぬ。



 「どんなのか行ってみたい!料理の研究にもなるし。」

 「じゃあ、そうする?」

 「うん!」



 夕食までまだ時間がある為、市場で食材を買って家に帰る。時間になったら二人でまた外出だ。


 家から近いという理由で2つ並んだギルドの裏手にある『お食事処ガイストン』というお店に入る。客層は女性よりも男性が多く、若年層はあまりいないように思えた。


 客で賑わっているという程でもないのですぐに席に着くことが出来た。


 「メニューは無いの?」

 「こういうお店には無いよ。品質は違えど、どの店も似たような料理をだすから、皆が覚えてしまって必要ないんだ。」

 「ふーん。じゃあ、どういうお店にならあるの?」

 「んー、そうだね、他領や外国の人向けのお店にはある筈だよ。後は……もっと高級な……例えば貴族街のお店とかかな。まあ、後者は平民が簡単にはいけない場所だよ。」


 お父さんが苦笑する。


 ……貴族街かぁ。平民のお金持ちとはまた違う世界の住人がワンサカいる場所……確か商人とか冒険者とか、一部の人は許可を貰って貴族街に入れるんだよね。貴族に呼ばれでもしなければ入れないのかぁー。ハードル高すぎ。お父さんは入ったことあるみたいだし、わたしも冒険者ランク上げて許可貰えるようになりたいな。



 そうこうしている内にお父さんが注文してくれた料理が運ばれてくる。


 ポルフェンというパンにクリームと、野菜スープに蒸した野菜、ベーコンとスクランブルエッグのお皿が次々とテーブルに並べられる。


 ポルフェン以外はどれもこれも、見たことがあるものだ。蒸し野菜に至っては茹で野菜と並んでランキング1位に入るくらい昔はよく見た。


 わたしは味を確かめるために一品ずつ順番に口に運ぶ。しかし咀嚼しなくても味は判明してしまう。




 味はどれも普通、これといってマズイというわけでもなく、コメントに困るものばかりだった。大衆向けだからなのか、これではお父さんやわたしの方が料理がうまいと宣言できてしまう。前までのお父さんでもこの程度なら作れたと思う。いっそのこと、二人でお店を出せばお金になりそうな気がする。


 ……お父さんがここにくる前に言っていたことがやっとわかったよ。そりゃあ、わたしの口に合わない筈だよ。だって、わたしグルメだし。



 そんな考えを巡らせながら、最後にポルフェンを一口サイズにちぎって口に入れる。

次の瞬間、脳に衝撃が走った。先程まで食べていたもののせいでわたしの味覚がおかしくなったのか、美味しさの判定基準が下がってしまったのかと一瞬自分を疑い、もう一口食べてみる。


「……!?お、おいしい!」

「ふっ、エマ顔が……」



 お父さんがわたしのリアクションに驚いて、笑う。



 悔しいことにはじめて食べたポルフェンは美味しかったのだから仕方がない。ミルク風味でふわふわしていて、クリームやジャムがすごく合う味だった。


 帰り際に教えて貰った話だと、ポルフェンは色々な店で食べられるけれど、各店で味が異なるのだそうだ。この店ではしっかりとレシピが決まっていて、もう何年も同じ味なのだときいた。いわゆる、看板料理というやつだろう。お父さん基準でもガイストンのポルフェンが1番だそうだ。



 ……家でも作れたら毎日食べられるのになー。めっちゃ美味しい。



 食べた後は寄り道をせずに真っ直ぐに帰った。



 夜はシロはいないかもしれないけれど、自分の影に話しかけながら寝た為、不思議と寂しくはなかった。















次は閑話

エマ視点ではありません。

エマだと多分一瞬で終わるので。

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