表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/36

0話 これは、どういうことだ?



 車にはねられた後、一体どれだけの時間が過ぎただろう。




 意識はあるのだが、どこを見ても黒一色で、自分の体を確認することさえできない。立っているのか、座っているのか、それとも寝ているのかもわからない。そもそもちゃんと目を開けられているのかも怪しい。




 ……わたしは死んでしまったの? だったら、意識があるのはなんで? そういうものだから?それとも未練があるから?


 いや、後者はないだろう。わたしに未練があるとしたらアニメやマンガやドラマの続きが気になるということぐらいだ。おばあちゃんが死んでから身内はいないし、これといって親しい人もいない。それに会社の仕事もしっかり片付けてきた。思い残すことは特にないはずだ。




 そう自分で納得した後、また長い時間を過ごす。


だいぶ時間が経過した頃、少し光を感じることができるようになり、音も聞こえるようになって来た。しかし、瞬きをして見ても何かが視界に入るわけでもない。それに、自分の体の筈なのに馴染んでいない感覚がする。どうやらわたしは重症のようだ。多分、生きているには生きているのだろうけれど……。だとしたら今は病院にいるのだろうか。そんな事がわかってもやる事がない事には変わりない。出来るだけ早くこの状況を打開するためにおとなしく寝て、早く回復させなくては。



そう思ったけれど、終わりのわからない何もない時間を延々と過ごすのはかなりキツイ。誰からの反応もない事はわかっている。でも、心の中だけでも愚痴らないとやっていけない。



 ……やることがないから暇!!もう、おかしくなっちゃいそうだよ。確かに、仕事後の休日に家に引きこもって自分の時間に浸っているのは好きだよ。だけど、何もなくて何も見えない空間で一人いるのはきつい。発狂する!

あぁ、ゲームしたい。アニメ観たい。家においてきた積み本に手を付けたい。この際、仕事でもいい。何かやりたいよ。





 なんでもいいからわたしに何かさせて!





―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・



 長い間何もできずに、只々状況が変わることを願っていると、急に周囲の雰囲気が変わって先程までと違う強い光が差し込んできた気がした。わたしはおそるおそる閉じていた目を開く。するととても奇抜な髪の色をした女の人が真っ先に目に入った。




 深緑色のウェーブのかかった長い髪に茶色の瞳で、歳は20代後半くらいだろうか。顔のつくりは西洋系で服は中世ヨーロッパ風だ。そんな彼女が心配そうに眉を落としてわたしの顔を覗き込んでいた。




 知らない人、しかも奇抜な髪の人に見つめられ、正直驚いた。一瞬思考が停止したが、直ぐに自分の置かれている状況を確認するため、自分にできる範囲で情報を集める。



 ……うん。絶対、わたしをはねた車の運転手じゃないね。それは言い切れるよ。女の人の見た目からも判断できるけど、それよりももっとわかり易い判断材料がここに!


 そう、わたしの体がものすごく小さくなっているのだ。いや、小さいっていうよりもう、赤ちゃんになっているといった方が正しい。



 ……転生? 夢だよね? 誰か、ウソだといって!



 わたしが現状把握に必死になっていると、急に景色が反転した。何事だと思ったが直ぐにさっきの女の人がわたしを逆さ吊りにしていることを理解した。

そして、女の人はそのまま、わたしのお尻を叩いてくる。




 パチン パチン




 わたしは驚きとあまりの痛さに大声で泣いた。どうやら、夢でもウソでもなく、現実のようだ。ものすごく痛い。奈留の時はこれくらい我慢できたんだけど、赤ちゃんになったからか我慢できなかった。



 わたしが泣いていると女の人は私を抱き直して、ほっとした表情で微笑んだ。



 「――――――――」



 女の人が何かつぶやいたけど、何を言っているのかよくわからない。わたしが泣いたことで安心したみたいだったから、「産声が上がってよかった」といったのかもしれない。


 産声は確か、赤ちゃんが初めて肺呼吸をする時に、それまで使ってなかった肺を大きく広げて泣くっていうものだったはず。わたしは混乱していたから気にも留めなかったけれど、この女の人はなかなか産声が上がらなかったから新生児仮死かもしれないと思って心配そうな顔をしていたのだろう。



 ……ごめんね。



 それから女の人は、少し離れた場所にある台の所までわたしを連れていき、そこに置いてあったぬるめのお湯を張った沐浴用の桶に入れて体をきれいにしてくれた。その時にわたしは自分の性別が女であることを確認して少し安心した。

性別が変わっていてもなんとかなるだろうけど、勝手がわかるまでは色々と困りそうだなと冷静になって考えていたのだ。


 身体を清められた後はおくるみに包まれ、さっきまでいた場所に連れていかれる。



 生まれた直後は見ていなかったけれど、近くにベッドがあったらしい。そのベッドには20代くらいの薄い金色の髪に水色の瞳をした美女が横になっていた。その女性の髪は乱れていて、顔もかなり疲れているように見えた。だけど、わたしが連れてこられたのを見て無理に起きようとしていた。おそらくここでのわたしのお母さんなのだと思う。



 わたしを抱いていた深緑髪の女の人は慌てて、お母さんが起き上がるのを阻止しようと言葉を発していた。



 「―――――」



 やっぱり何を言っているのかわからない。



 そのあとすぐに、わたしはお母さんのそばに置かれた。お母さんはわたしの方に顔を向けてやさしく微笑みながら話しかけてきて、近くにいた深緑髪の女の人がそれに「―――――」と返していた。


 それを聞いたお母さんはほんの少し苦しそうに笑って、わたしの頬を撫でた。







 この世界のことはまだ何もわからない。だけど、こうしてやさしく触れられると胸がぽかぽかして幸せな気分になる。それはわたしにもわかった。

自然と頬が緩む。



***



 ほんの少し時間が経った後、どっと眠気が押し寄せてきた。

驚きの連続で疲れていたことと、お母さんのやさしい手に安心したことで気を抜いたからだろう。わたしは我慢できずにその眠気に体を預け、ゆっくりと深い眠りに落ちていく。





 ……目が覚めたら言葉を覚えなきゃ。それがわたしのしばらくの課題だね。





たぶん次から、本編に入れます。

次は、言葉を覚えます。


書いていて思ったのですが、私は記憶もちで転生したくないです。色々と疲れそうなので…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ