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14話 解放

 




 今日は家ではなく、森に行く途中で皆と合流して昨日のようにワイワイ話しながら歩いた。そして森に着くと各々の仕掛けた罠をチェックしたり採集をするために単独行動を始める。単独行動を始めるとやっぱりキーンがやってきて頭の上にとまった。もしかするとどこからか見ていたのかもしれない。


 わたしは一番初めに燻製肉を入れた餌アリの罠のチェックをしに行くことにした。一番期待しているからだ。


 「あれ!?無くなってる……罠も壊れてるし……。つくり方が甘かったのかな……。」


 ……ちぇ。


 わたしは壊れた罠の枠の部分を指でつまんでそう呟くと、その場を放置して次に向かう。木やツルで作ってあるからそのうち土に還るだろう。2つ目の仕掛けは壊れていなかったが何も入っていなかった。こんなもんかと溜息を一つ吐くとあまり期待していない3つ目のポイントに足を進める。するとキュイッとキーンが鳴いた。


 「はいはい、やっぱ何も入ってないんでしょ。」


 わたしは罠が見える位置に少し歩く。


 「ひゃっ!?」


 罠には勿論何も入っていなかったが、ひょいっと茂みの陰から何かが飛び出してきた。わたしは驚いたせいでベタンと尻もちをついてしまった。痛い。


 「な、何?……小さな犬?」


 わたしの正面には真っ白な生物がいつの間にかちょこんと座って尻尾を振っていた。目の色はわたしよりも少し薄めのブルーでクルクルしていて可愛い。あまりの可愛さにお尻の痛みも忘れて起き上がるとその生物の前にしゃがみ込んだ。そして撫でようと思って手を伸ばそうとした瞬間、頭に何かが響いてきた。思念波だろうか、不完全で断片的なものだが確かに頭に直接流れ込んでくる。わたしのものでない感情、考え。わたしではないとしたら、目の前にいる生物のものだ。

そう言えば、奈留の時にも似たようなことがあった。いつの間にか何も感じなくなって、記憶の端に追いやられていたけれど、この感じは確実に味合ったことがある。幼い頃はこれに悩まされていたので、それは断言できる。しかし、今感じているものは前のとは少し違う。前は辺り構わず色々な生物の思念を拾っていたし、今感じているもののように不完全で断片的なものではなかった。だが、これが向こうの世界とここでの違いなのかのか、そうでないのかは今のわたしにとってはどうでもいいことだ。これが制御出来ずに続いたら大変なことになるということは、奈留の時に経験している。わたしは気持ちを落ち着かせるように深呼吸すると前にいる生物を見据えて、何を伝えたいのかを聞くことにした。この生物がきっかけになって発動したのだから何かわかるかもしれない。それに、一か八かだがこの機会を逃したらもう次の機会が無いかもしれないと考えての決断だ。


 ……こっちでのこの力じゃ何処までいけるかわからないけど、やってみる価値はあるよね。



 「……」



 ジッと犬らしき生物を見つめても大したことは分からなかった。分かった事は撫でてほしがっている事と名前を呼ばれたがっていることくらいだ。それよりも集中したことで嬉しいという気持ちを物凄くぶつけられてしまい、くすぐったい気分になってしまった。


 ……名前って言われても分かんないし……。わたしに付けろって事かな?


 わたしは顎に手を当てて考える。


 ……名前付けても我が家じゃ飼えないかもしれないし、仮の名前でもいいのかな?だとしたら某アニメ映画の山犬の名前にする? でも、この子小さいからちょっとしっくりこないよね……。もういっそ白いからシロでいっか。



 一応考えてみたが結局一番簡単でわかり易い名前で呼ぶことにした。


 「シロ」


 シロはクゥーンと鳴いてわたしの方に歩み出てきた。わたしはそんなシロの頭を撫でるために手を伸ばす。


 「……っ!?」



 触れた瞬間、手の甲が急に光り出し見たこともない模様が浮かび上がってくる。それに呼応するようにシロの体も光り出す。わたしが呆気にとられている間もその光は強さを増していく。その光景を見つめていると、次の変化が突然訪れた。それは、わたしの体で起きた。わたしの中の何かが溢れ出ようとしている感じと外部から何かが入ってこようとしているという感じがしたのだ。溢れ出るといっても体液とかじゃないのは分かる。しかし、何なのかはわからない。初めて味合う感覚で怖いのだが、それよりも苦しいという感情の方が勝っている。外から入って来たものが自分の中にあるものと混ざり合って強大になり、力を増していっているのでわたしの体で対応できないと悲鳴を上げているのだ。暫く力の奔流に抗い、耐えていたが、それが出来なくなったわたしは自分の意識を手放した。






 どれだけ意識を失っていたのだろう。キーンが髪を啄む感じとふわふわとした感触で目が覚めた。


 「あれ?ここは……あ、そっか。あの時……でも……わたし生きてる?……あ、治まってる。」


 目覚めたばかりでぼんやりした思考の中わたしは自分の手や足を確認する。少しだるさが残っているが手足はしっかり付いている。手の甲に浮かんでいた模様も消えている。


 「ふぅ、今日は疲れたよ。もう帰りたい。」


 幸い、気を失ってからそれ程経っていないようで、日の傾き具合から考えて昼過ぎで時間的に余裕があった。早めに帰ろうと思ったわたしは「よっこいしょ」と声を出して立ち上がる。その時に近くにあったものを支えにした。



 ……ふわっ?


 掌にふわふわっとした感触が伝わった。わたしはゆっくりと顔を上げる。

 「……え?」


 状況からしてわたしを包み込むような形で丸まっていたであろうその生物は大きかった。見た目は巨大な狼で、某アニメ映画に出てくる山犬よりも大きいだろうと思われた。しかし、顔つきはシロにそっくりで優しそうだった。


 「シロ?」


 呼びかけると小さくワンと鳴いて返事を返してくれる。シロだ。



 わたしがシロの体から少し離れるとシロはシュルシュルシュルっと小さいサイズに戻った。どうやら気を遣ってベッドの代わりになってくれたり、今もわたしがもたれていたから気を遣ってくれていたのだろうと思う。


 ……めっちゃいい子。



 「ありがとう、シロ。」



 シロにお礼を言って体を撫でまわすと、キーンにもありがとうとお礼を言う。キーンもずっとそばに居てくれていたのだから労わなくてはいけない。その後わたしはこの場でほんの少し時間を使い帰る支度をする。



 「それじゃあ、シロまた……あれ?」


 ちょっと目を離したすきにシロはその場を去ったらしく居なくなっていた。


 ……行動は早っ! わたしも早く帰ろうっと。……でも大きくなれるんだねシロ。ま、いっか……また会えるといいな。



 皆よりも早めに帰ることにしたので、別の所で採集をしていたカレンとイリーナにそのことを伝えた上で家路についた。












罠には何もかかっていませんでした。

今回は海老で鯛は釣れませんでしたが、

ふわふわ、もふもふの動物と出会いました。


次は買い取りです。

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