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13話 集団行動と採集




 複数の足音が家の前で止まるのが聞こえた後、扉をコンコンとノックする音が聞こえた。わたしが椅子から降りるより先にお父さんが扉を開け、わたしはその後ろから外の様子を窺う。


 「よく来てくれたね、レオンに皆。今日はよろしく頼むよ。」

 「うん!オレに任せてよ!」

 「あぁ、期待してるよ。」


 お父さんの言葉に真っ先に反応したのはラウルの兄のレオンという男の子だ。誰だったか名前が思い出せなかったけれど、会話の中に名前が出てきたことで救われた。レオン以外に家に来ているのは、託児所でのイツメンのラウルとイリーナ、ティレーヘルともう一人イリーナによく似た赤毛の女の子である。多分会ったことは無い。



 「それじゃあ、お父さん今度こそ行ってきます。」

 「うん、行ってらっしゃい。日が暮れる前には帰ってくるんだよ。」

 「はぁーい」



 お弁当とナイフなんかが入った革の鞄と水筒を肩にかけると採集物を入れる用の籠をもって、お父さんにパタパタと手を振ってから家を出る。そして皆と挨拶を交わし、歩きながら初見だった赤毛の女の子に話しかけた。

 「おはよう、初めましてだよね、お姉ちゃん。わたしはエマ。お姉ちゃんは?」

 「初めまして、カレンよ。今日はイリーナの付き添いで来たの。」


 話によるとカレンはイリーナの3歳上の姉なのだそうだ。つまりレオンと同い年である。わたしとカレンは自己紹介の後もしばらく話をして、いつもどういう風に森の探索をしているかだとか家にいる時は何をしているかだとか他愛もない会話で盛り上がった。途中でカレンの妹のイリーナも会話に加わって女子トークを開始した。因みにわたしはイリーナの背をいつの間にか抜いていたようで女子の中でイリーナが一番年下に見えるという話がカレンの口から出てきた。やっぱりわたしは発育が良い。流石に3つ上のカレンの身長には今は負けるけど同年代には負ける気がしない今日この頃だ。




 「久しぶり、オレのこと覚えてる?」


 突然声をかけられたかと思ったら、このメンバーのリーダー的存在なのか先程から皆より一歩前に出て歩いていたレオンがそわそわとした様子で会話に割り込んで、わたしに話しかけてきた。父親であるフランクと同じことをきいて来るところはやっぱり親子だなと思って感心する。レオンの名前は忘れていたけどそれは言わずに、ニコリと微笑んで「覚えてたよレオンお兄ちゃん」と返事を返しておく。



 「おぉ、良かった。忘れられてたらどうしようかと思ってたんだよ。今日からよろしく。オレとカレンは10歳になったらギルドに登録するからそれまでだけど。……そんなことより、今日が初めてなんだろ?手、繋ぐか?」

 「えっ……?」

 急に話に割り込んできたかと思ったら、ペラペラと一人だ話し始めただけでも驚愕していたのに、あまりにもスルッと手を繋ぐか聞かれて免疫のないわたしは不覚にもびくっとしてしまった。相手は子どもなのに侮れない。子どもだからこそか。一瞬動揺しているとカレンがスッとレオンとわたしの間に入って救いの手らしきものを差し伸べてくれた。


 「レオン、急に変な話しないで。あなたいつも唐突過ぎて、ウザイのよ。エマは子どもだけで行く森がはじめてというだけで今までに何度か行ったことがあるそうよ。だから、あなたなんかと手をつなぐ必要なんかないし、手を繋ぎたくなったら今そばにいるわたしやイリーナが繋いであげられる。変な兄貴風吹かせてると皆に嫌われるわよ。まぁ、あなたが嫌われようがわたしにはどうでもいい事なのだけれど。……それとわたし達の会話に割り込まないでくれる。鬱陶しい。」


 カレンはレオンを見下すように胸の前で腕を組み仁王立ちしてフンッと笑った。


 ……カレン、マジ容赦ない。さっきまでの事よりこっちの方がびっくりだよ。さっきまでの優しいカレンはどこ行っちゃったの?


 「エマちゃんびっくりしちゃった?お姉ちゃんはレオンお兄ちゃんには厳しいの。でも、レオンお兄ちゃんいつも気にしてないみたいにニコニコ笑ってるんだよね。あれはあれで仲がいいのかな?あたしならお姉ちゃんに怒られるのは嫌だなぁー。エマちゃんは?」

 「わたしも嫌だよ!」

 「だよね!」


 そうして、イリーナと二人で頷き合った。それにしてもレオンとカレンは末恐ろしい。





 森に着くと、レオンとカレンが先頭に立って、獣道が何処かそこが何日前のものなのかだとか、動物や魔獣がいそうなポイントが何処かなどを教えてくれた。2人が言うには、獣道は他とニオイが違うらしい。野生っぽいニオイがするそうだ。わたしや他の三人にそれが分からないのは経験が足りないからだと言われた。他にもいろいろ教えてもらったが、基本的に経験が必要なものばかりだった。お父さんと来たときは詳細を教えてもらっていたが、2人の説明は何となくこうというものが多かった。これが大人と子供の違いなのだろうかそれとも2人の方が普通なのだろうか。

 大方の案内が終わると、みんなそれぞれ採集や作った罠を仕掛けに散る。わたしも自分の行きたいところに向かうことにした。思ったより早く単独行動ができるようになってルンルン気分のわたしが皆に背を向けてスキップをしながら進んでいると、何処からともなくキーンが飛んできて頭にとまってわたしの毛繕いを始めた。わたしの頭が気に入ってるらしくよくとまるこのグリルスは森に来るたびに私の頭の毛繕いに勤しんでいる。くすぐったい。



 それからわたしは教えてもらった獣道を進んで少し開けた場所に罠を仕掛けてその中に持ってきた燻製の欠片を入れた。餌を入れなくても捕まえられるらしいけど、入れた方が捕まえやすいと聞いたからである。わたしは海老で鯛を釣るのだ。ふふん。

 その後は自分がこのあたりかなと思う場所に餌ナシの罠を仕掛けた。今日仕掛けた罠は餌アリ1つと餌ナシ2つの全部で3つである。余った時間はお弁当を食べたり、木の実や薬草果実などを採集をしたり、お箸をつくるのにぴったりな木の枝を探したりした。なぜ今になってお箸づくりをしようとしているのかというと、お箸を使わないのに慣れてきたのでもういいかなと思っていた時に自分用のナイフを貰い、料理をする時に役立ちそうだしせっかくだから一応作っておこうという考えに至ったからである。




 見つけた枝をいい感じに削ってお箸を作っていると日が少し傾いて鐘の音が聞こえた。いつの間にか時間が経っていたようだ。残りは家ですることにして、パパッと片づけを済ませると皆と待ち合わせしている場所に急いで向かった。皆を待たせてるかなと心配だったが、急いだお蔭で一番乗りだった。そして皆と合流すると家に帰った。キーンは皆が来るほんの少し前に森の奥に帰って行った。もしかするとキーンには見えていたのかもしれない。



 「ただいまー。」

 「おかえり、今日はどうだった?」

 「楽しかったよ。見て見てこんなに沢山採れたんだよ。」


 わたしは採集用の籠をお父さんに差し出す。「どれどれ」と言ってお父さんが覗き込み、「凄いじゃないか」と頭を撫でてくれる。自然と頬が緩む。


 「それはそうと……この棒はなんだい?」


 お父さんが作りかけのお箸を指さして首を傾げる。鞄に入れずに籠に入れたままにしておいたのを忘れていたが何ということもない。わたしはお箸の有用性を語る。



 「料理に使うのか、なるほどね。見たところマスラの木みたいだから強度と耐久性は高いよ。」

 「へぇー、お父さんってやっぱり物知りだね。」

 「そんなことないよ。昔はそうでもなかったんだから。」

 「ん?」


 遠い目をしたお父さんを見てわたしはコテリと首を傾げる。すると話を変えるようにお父さんが口を開いた。


 「この棒エマが使いやすいように私が手直ししようか?どんな風にしたいか言ってくれたら出来るよ?」

 「うーん、実はこれを作ってる間ちょっと楽しかったんだよね。だからもうちょっと自分でやってみたいの。出来ないところがあったらお父さんに頼んでもいい?」


 お父さんはニコリと微笑んで頷いてくれた。



 ……奈留の時のことを思い出しながら作っていたから、懐かしくて楽しかったんだよね。あの時は竹だったけど。



 それからわたし達はお父さんが作ってくれた夕食を食べながら今日の出来事を話し、その後、それぞれの部屋に戻った。わたしは自室でお箸を作り終えた後、桶にお湯を入れに一度台所に向かい、また自室に戻って桶に張ったお湯と布で体を綺麗にして、それを片付けるという作業をした。面倒だった。





 余談だがお父さんが作ってくれた今日の夕飯は中々美味しかった。最近はわたしではなくお父さんが料理する日が増えてきていて、その腕前も日に日に上達している。料理にハマってくれるのは結構なのだがそのうち追い抜かれてしまいそうだ。私の仕事がなくなるのは近いかもしれない。私も頑張らなくてはいけない。




 ……明日は今日仕掛けた罠のチェックだ。何かかかってたら換金しようっと。お父さんはお金持ちみたいだけどわたしは無一文なんだもん。じり貧金無しなんて嫌だ。自立自立。






やっとお箸を作りました。

罠も仕掛けて来ました。

エマは自分で稼ぎたいみたいですね。


次は罠をチェックします。

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