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12話 お母さん

 





 わたしが発した言葉に反応してお父さんが立ち止まる。そして視線を石畳に向けたままこちらを向いた。


 「―― 帰ろう。」

 「え?」

 「その話は帰ってからするよ。」


 お父さんは再びわたしの手を引き歩みを進める。わたしはそれ以上は何も言い出せなかった。あれほど気になっていたことだけれどお父さんが放つ緊張感にまた怖くなって嫌な想像をしてしまったからだ。私たちは家に着くまでの間終始無言だった。


 家に着いてから開口一番に椅子に座るように言われたわたしはおとなしく言うとおりにし、お父さんを見つめる。すると、「いつかは聞かれると思っていたけれど……。」と前置きをしてお父さんが口を開いた。わたしは自分が聞いたことにもかかわらず、その後に続く言葉が怖くて思わず小さくなった。


 「アリアはこの町を離れていて会えないけれど、そのうち戻ってくるよ。」


 わたしはホッと胸をなでおろす。最悪の答えではなかったことに安心したわたしの頭には次の疑問が浮かんできた。それは、何故この町を離れているのだろうか、会いに行けない程遠いのだろうか。というものだった。わたしはその疑問をそのまま口に出す。するとお父さんは一度目を伏せこちらを見つめると言葉を選ぶように話し始めた。


 「アリアは彼女の実家のあるところに帰っていて、そこで療養しているんだ。この町では治せないからね。」

 「どういうこと……お母さんは何処か悪いの?もしかして、わたしのせい?」


 自分がこの世界に転生したばかりの事を思い出す。あの時の母の姿はあまり体調がよくないように見えた。あれから2年以上も経っているが、あの時のことが響いているような感じがして思わず言葉にしてしまった。お父さんは「それは違う。」と言って慌てて首を振って否定してくれたが多分そうだ。胸が苦しくなってきて俯く。


 「エマ、よく聞くんだ。彼女がここにいないのは決して君のせいじゃない。もともと体が弱かったんだ。それなのに私が……。だから私のせいなんだよ。」

 「え?」

 お父さんはそれ以上何も語らずにニコリと微笑むと、この重い空気を断ち切るようにパンと一度手を打ち鳴らした。


 「アリアが戻ってくるまでは私とエマの二人きりだけど、戻ってくると騒がしくなるよ。今は今で楽しもうエマ。」

 「うん。」


 わたしは首を縦に振ることで会話を終える。まだ、霧がかかったようにもやもやしている部分もあるがこれ以上聞いても話してはくれなさそうだし、何よりもお父さんがわたしを元気づけようとしてくれているのが分かったからだ。


 ……お父さんを困らせたくないし、悲しませたくないもん。






 その夜、夢を見た。

 この世界のではない奈留の頃の記憶だ。幼い頃、わたしは施設や親戚の家を転々としていた。遠縁のおばあちゃんの所に行くまで住む場所があってもそこが自分の家という感じがしなかった。両親の顔も知らないし、何故いないのかも知らなかった。そんなころの夢。まさか異世界に来てまで見るとは思わなかった。



 「なんか、スッキリしない朝だよ……。」


 ……もやもやっとした複雑な気持ち。


 夢を見た日はダラダラと時間を過ごしてしまって気持ちを切り替えることが出来なかった。そのため次の日からは気を紛らわすように平常運転を意識した。いつも通り自分にできる家事をこなしたり、森につれて行ってもらって罠のつくり方や動植物について教わったりした。お風呂に関してはあれからもう行っていない。というのもギルドに登録してからランクを上げ自力で行けるようにすると決めたからだ。でも、桶での沐浴に我慢できなくなったら、お父さんにつれて行ってもらおうと思っている。


 そうこうしているうちに秋が終わりを告げ、寒い冬が到来した。お父さんは物資が少なくなる冬を越すために秋のうちに品物を大量に買い込んだりと準備で大忙しだったみたいだが、冬はあまり仕事にも行かず家でゆっくりしていた。わたしも冬の間は家にいることが多く特に変わったことはなかった。因みにこの世界では季節ごとにお祭りもあるみたいで、一番大きいお祭りが年末年始のお祭りだそうだ。だけど、どのお祭りにもまだ参加したことがないわたしは参加できることを楽しみにしている気持ちだけでその年の冬を過ごした。



 




 

 春が来た。

 成長したわたしは4~5歳ぐらいに見える。下手するともっとかもしれない。それほど発育がいい。成長が早いのは嬉しい事なのだが、老化が早かったらどうしようと悩んでいる今日この頃である。



 そして、今日はお父さんの引率なしで森に行ってもいいという許可が出たので、森に行く日だ。


 「それじゃあ、行ってきまーす」

 「待ってエマ」

 「何?」

 「忘れ物、それと今日はラウル達が迎えに来てくれるからもう少し待たないといけないよ。」


 一人で行動できると浮かれすぎて、お弁当や水筒、ナイフなんかが入った荷物を丸ごと忘れていくところだった。しかも、単独行動じゃなくて集団行動だと言うことを告げられ人生そう甘くないことを改めて思い知らされてしまった。



 ……はぅ、集団行動か。託児所の時みたいにならなきゃいいんだけど。自由が……



 ダメだ。こんなことを考えているとまた変なフラグが立ってしまう。今のはナシ。わたしはブルブルと頭を振って、荷物を取りに行くと玄関が見える位置に座った。





前回同様文字数少な目。

エマの母親は無事ですが、会えない理由があります。


次は子ども達だけで集団行動します。

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