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11話 お風呂




 キーンと森で別れた後、一旦家に帰宅して着替えを持って、お風呂に入るべくギルドへと向かう。商業ギルドのほうにもお風呂はあるが今日行くのは冒険者ギルドだ。二つのギルドは隣接していて、家と森の間あたりにある。冒険者ギルドの門の前につくと、お父さんはわたしをひょいっと抱き上げて門をくぐり中に入っていく。今日は裏口からではないらしい。


 ギルドの中は酒場のような感じで、いくつものテーブルやイスが置いてあった。いかつい風貌のおじさんや、筋肉ムキムキのお兄さんがひしめき合っていて、若い人や女性は少ない。入って右手の方にはいくつか掲示板のようなものが設置されており、周りには何人もの人が集まっていて、そこに貼っている依頼票を選んでいるみたいだった。絵面的には暑苦しい。掲示板の上の方には大きく青や緑といった色が書かれていることからそれが難易度なのだろうと推測する。入り口からまっすぐ進むと受付カウンターがあり、数人の従業員が控えていた。ここで依頼表を提出するなりしてクエストを受注したりするのだろう。言うなれば、某オンラインゲームのギルドとそっくりだ。


 お父さんは受付カウンターまで来ると懐から金色のカードを取り出して提示する。


 「ロベルト様ですね。お話はギルド長より伺っております。どうぞお通り下さい。」


 受付の女性はカウンターの内側から奥につながる扉を開けてくれ、わたしはなんだろうと思いながらお父さんに連れられて一緒に中に入る。そこはさっきまでいた場所より比較的綺麗な通路になっていて、通路を進んだ先にある部屋はそれよりも綺麗だった。応接室なのだろうと思う。その応接室にはガタイの良いおじさんが一人会議机の所に座っていた。ラウルの父親でありアネットの旦那であるギルド長だ。ギルド長はとても忙しい人なので、アネットやラウルと交流のあるわたしでもほとんど会った事がない。


 ……インパクトのある姿形だから誰なのかすぐに分かるけど、名前何だったっけ? あまり関わり合いのない人の名前って奈留時代同様すぐ忘れちゃうんだよね。記憶力は良い方なんだけどな……反省、反省。えーと、うーん、フランクだったかな?


 「おぉ、よく来たな。」

 「話とは何ですか?」

 「ん、私もエマに会いたかったから面会するようにアネットに言ったのだよ。いつもアネットだけエマに会えるのは狡いではないか。」


 「それだけ、かい?」と先程までの改まった口調を崩して呆れたような声色でお父さんが尋ねると、ギルド長は取り繕うようにゴホンと一つ咳払いをした。



 「それはそうと、久しぶりだなエマ。前に会ってからかなり間が空いてしまったが私を覚えているか?」



 ……顔は覚えてるよ。でも名前はうろ覚えなんだよね。ごめんなさい、そんな目で見つめないで


 「はい、お久しぶりです。」

 とりあえず、笑顔でごまかすことにした。名前に関しては微妙だが、顔は覚えていたので嘘は言ってないしきっと大丈夫だ。

 わたしの思惑通り、ギルド長は満足そうにハッハッハッと高らかに笑った。



 「それでフランク、アネットに頼んでいた件は大丈夫なのだろう?」

 「風呂のことなど何ということもない、他ならぬお前の頼みだからな。それに……もし断ると私がアネットに怒られてしまう。」


 ……名前はフランクで合ってたんだ。


 アネットに怒られるのは嫌だと言ってフランクはなさけなく笑う。見た目は強そうだが、アネットのお尻に敷かれているようだ。だからお父さんはフランクじゃなくてアネットに頼んだのかもしれない。それにしても、お風呂に入りたいと言っただけでギルド長が出てくるとは思わなかった。もしかすると、ギルドのお風呂を使用する為にはギルドに何らかの形で所属していなければならないのかもしれない。そうでなければ年齢制限があるのかもしれない。何れにせよ、各町にあるギルドが商業と冒険者の二つだけだということと人口の事を考えると何らかの条件があるのは間違いないだろう。もっとも、わたしのようにお風呂に恋い焦がれている人間がこの世界に何人いるかは知らないが。



 「アネットは上にいるから先に風呂場に行くといい。私から伝えておく。久しぶりにエマにあえて癒されたよ。ありがとな。」


 そう言うと、フランクはわたしに向けて笑いかけ、手を伸ばしてきた。お父さんはわたしを抱き抱える片方の手を放し、フランクの手をはらった。わたしは何故かわからず目を瞬く。



 「なっ……ロベルト!? まさか、まだ許してくれないのか!?」

 「君のアドバイスに乗ったせいでどんな目にあったか話しただろう?」


 焦るフランクと爽やかな笑顔のお父さんが対照的だ。見ただけでどちらの方が立場が上なのかが分かる。ギルド長なのに腰が低いのがフランクなのだとわたしの脳にしっかりと刻まれた。


 「お前から聞いた話は俄かに信じ難かったが、それが本当なら悪かったと何度も言っているではないか。だが、あの人の職務態度はかなり良いと評判だし悪い人ではないと思うぞ。それに友達と遊ぶことも子どもには大切だろうし、何かが起こったわけでもないのだから、もう良いではないか。」

 「ハァ、本質的には悪い人じゃないっていうのは知っているよ。だから、本当は一日だけのつもりだったけど、私もこの子の遊び相手の事を考えて暫く通わせたんだ。だけど君は何もわかっていないね。この子に変な影響を及ぼすかもしれないじゃないか! 事が起こってからでは遅いんだよ。……こんな話をしていても何かが進展するわけだはないからね、もうやめよう。」

 「過保護になるのもわかるが、それにしても過保護すぎるぞ。……ちょっと待て、継続してつれて行ったのはお前じゃないか。なぜ私が怒られなければならない!?」

 「君が言わなければ私は連れて行かなかった。原因は君だよね?」


 有無を言わさぬ笑顔でお父さんは微笑む。すると、「うぐっ」っというフランクの呻き声が聞こえた。


 ……ごめんなさい、原因はわたしです。



 文脈から託児所のメースの事を言っているのだと分かった。メースは基本的に変態さを前面に出していないので他の人からの評価は高いらしい。わたしは特に何もなかったが、お父さんが心配してくれていたことが分かって嬉しいと思うと同時に、託児所に行く原因を作ったり、通うと言って大変な目に合わせたことに対してとても申し訳ない気持ちになった。


 ……悪い人じゃないってお父さんも気付いていたみたいだけど、わたしが託児所に通っていた間の送り迎えでメースさんに絡まれてたから余計にね……。フランクさんもとばっちりごめんね。



 「それじゃあ、もう用がないなら私たちは行くよ。」と言ってお父さんは踵を返す。わたしは謝罪の意味も込めてぺこりと頭を下げる。本当ならもっとちゃんと90度に腰を折ってお辞儀をしないといけないけれど抱きかかえられている今の私には無理だった。


 来た道を戻ってカウンターから出ると、お父さんは受付の人に再度金色のカードを見せてお風呂を使用することを一言伝えてカウンターの近くにある扉を開けて中に入る。中にもカウンターがあり男湯と女湯に別れているみたいだった。


 「ここでアネットが来るのを待っていようか。」

 「うん。」


 設置されている椅子に二人で座ってアネットを待つことにする。待っている間にお父さんから聞いた話によると、お風呂は大浴場と個室があって、冒険者のランクによって使用できる設備が違うのだそうだ。大浴場を利用するにもある程度のランクが必要で今回の私はかなりの特別扱いなのだと判明した。


 「おまたせ。会いたかったわ!」

 「わたしも!」


 数分待っているとアネットがやってきてわたしを抱き上げてくれる。お父さんは複雑そうな顔でアネットにわたしの事をよろしくと言って、わたしの頭をポンポンとすると男湯の方へ向かっていった。


 「さっ、わたし達も行きましょうか。」

 「うん!」

 「うちの子はお風呂嫌いだけどエマは気に入るかしら。」

 「ラウルはお風呂嫌いなの?」

 「ええ、せっかくお風呂があるのだから、利用者が少ないときに入らせるようにしているのだけれど、嫌がるわ。」

 「ふぅーん。」


 勿体ないなと思いながらお風呂場に移動し、そこからは女同士の裸の付き合いだ。アネットに使い方を教えてもらいながら入ったのだが、大浴場の内装が奈留時代の銭湯や温泉とあまり変わらなかったので戸惑うことはなかった。ただ石鹸があってもシャンプーやコンディショナーが無いのでいまいち物足りない感じがした。それと、女性冒険者が少ないせいか、冒険者ランクのせいか大浴場なのに人があまりいなかったのが印象深かった。わたしはこのお風呂を利用するにあたって多くの人にお世話になってやっと入れた感じなので、次は正式ルートでギルドに登録できるようになってからランクを上げて自分一人で来ようと決意した。


 ……皆に申し訳ないもんね。それまで我慢。出来ないかもしれないけどその時はその時だよね。


 「世話になったね。」

 「いいえ、とても癒されたわ。」


 お風呂から上がってお父さんと合流すると、3人で軽く言葉を交わしながらギルドの外に出る。こうしているとなんだか安心できる。


 「それじゃあ、エマまた来てね。」

 「うん、ありがとうアネットさん。」



 アネットにお別れを言って帰路につこうとする時、視界の端にラウルが走ってきているのが見えた。わたしはお父さんに手を引かれるままに歩くが、後ろの方で嬉しそうに森で採れた戦利品の報告をするラウルとその話をきくアネットの声が聞こえた。



 ……いいな、お母さん。


 「「お父さん」 「エマ」」


 わたしの名前を呼ぶお父さんの声と重なったが、わたしは止めずに次に続く言葉を口から紡ぎ出す。ずっと聞きたかった言葉だ。でも、聞くのが怖くてなかなか言い出せなかった言葉だ。


 「わたしのお母さんは何処にいるの?」






今回短め。



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