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9話 お菓子作りと西の森 前編


 わたしが家の料理係になって数日が経った。あれからは1週間に1回とは言わず、ほぼ毎日2人で市場に食材を見に行っている。お父さんが1日中忙しいときは流石に連れて行ってはもらえないが、それでも3歳になる前にここまで色々出来るようになるとは思わなかったから、大きな進歩だ。行動してみるものである。何事もチャレンジが大事だということだろうか。


 それにしても、まだ一人で出歩けないわたしの為に忙しい時間を縫って市場に連れて行ってくれるお父さんには感謝してもしきれない。



 ……マジありがとう!! 



 そんなお弁当の中身は、現在パターン化されつつある。始めの頃は毎回違うものにしようと意気込んでいたが、非力な子供の体だという事と前世にあった材料や調理器具がない事が祟って、作れる種類が減ってしまったのだ。市場に海産物が売られていればもっと料理の幅が広がったと思う。しかし、この国では海の幸は滅多に手に入らないらしい。というのも、海に面しておらず、外国から輸入したものも殆ど貴族街で消費されるからだそうだ。


 ……小さい川魚ならたまに見かけるんだけどな。


 「料理のレパートリーを増やすには日々の努力と研究が必要だね。頑張ろうっと。」

 洗い物をしながらつぶやいて、グッとこぶしを握る。



 今日はアネットが忙しくて我が家に来てくれない日で、お父さんが帰ってくるまで家にはわたし一人だけだ。仕方ないと思うし、半日我慢すればいいだけだけど、ちょっぴり寂しい。奈留の頃は勿論の事、エマになったばかりの時はこの位で寂しいと感じることはなかったはずだ。なんだか不思議である。

 こんな寂しさを紛らわすには何でもいいから作業をするのが一番なので、夕食の支度をする時間まで部屋の掃除をすることにした。自分の部屋と台所はテリトリーなのでいつも綺麗にしている。しかしそれ以外はあまり手を付けたことがなかったから、今日はトイレとお父さんの部屋を徹底的にきれいにすることにした。



 ……書斎にカギがかかってなかったら、ついでにそっちも掃除したかったんだけど。



 まず、わたしはトイレ掃除を済ませる。因みにわたしがこのトイレを使えるようになったのはごく最近の事だ。ぼっとんトイレだから、ある程度体が大きくならないと下に落ちる恐れがあって使えなかったのだ。そのため、それまではおまるで用をたしていた。恥ずかしさを押し殺していたことは記憶に新しい。まさかこんなところで自分の成長を実感するとは、人生何が起こるかわからないものである。


 

 次はお父さんの部屋を掃除するために別の道具を用意して移動する。

 


 「お父さんは綺麗好きだから綺麗にしてるね。でもよく見ると埃が溜まってる。」

 わたしはそっと指で箪笥の出っ張っている部分をなぞる。


 用事がある時以外は立ち入ったりしなかったし、家の中の探索をした時も自分の部屋と内装があまり変わらなかったからじっくりとは見なかった。よく見てみると汚れは見つかる。それでこそ掃除のやりがいがあるというものだ


 ……まぁ、あの時は汚れを探してたわけじゃなくて、面白そうな物がないか探してたんだけどね。



 わたしは早速掃除に取り掛かる。床を軽く箒で掃いた後に、濡らしてきた襤褸切れで汚れている部分を拭く。家具は手の届く範囲で埃を被っている部分を丁寧に拭いた。


 「ふぅ、後はこの大きなクローゼットだけだ。こういう扉だと下の方の隙間埃が溜まりやすいんだよ。」


 そう言うと、埃を取るために扉に手をかけた。


 ……ん?


 「あれ?」


 扉を開けてみると向こう側は思った以上に奥行きがあって広かった。その広いスペースの一部は区切られている。そして中央には浴槽のようなものが設置されているのがみえた。わたしは思っていたものと違うものがあった事に驚いたが、直ぐに中に入って確認することにした。


 「ここ最近使われていたっていう感じがしないけど、これって、お風呂だよね? じゃあ、あっちの区切られている部分は脱衣所かな? 」


 わたしは一部区切られているスペースに視線を向けて首をかしげる。


 ……それにしても、お風呂が見つかっただけでもすごい収穫だよ! 家の中を探索したときに見つけることが出来なかったからこの家には無いのかと思っていたし、お風呂が家庭にあることが一般的じゃないのかと思っていた。それっぽいものが見つかっただけでもかなり嬉しい。


 わたしは嬉しさに頬をほころばせながら、浴槽を覗き込んだ。


 ……あれ?


 「これ、お湯をどうやって注ぐの?」


 疑問に思って辺りを見回してみる。給水タンクもなければ、水を沸かす為のものもない。それらしきものは何一つ無かった。


 「うーん、排水するところがあるから多分お風呂なんだろうけど……。これを使うとなるとお湯を溜めるだけでも一苦労だね。後でお父さんに使い方を聞いてみないと分からないね。とりあえずここはそのままにしておこうっと。」


 部屋を出るとお昼ご飯を食べるために台所に向かう。かなり長い時間掃除をしていたこともあり、お腹はペコペコだ。



 「いただきます」

もぐもぐ


 ……はぁ、おいしいけど家でお弁当を食べるのって物足りないし、つまんない。お弁当を作り始めたばかりの頃は家で食べるのも新鮮でありだと思っていたけど、全くもってアリじゃないね。


 お弁当と言えば遠足を連想するわたしは、どうにかして遠足気分を味わうことが出来ないか考えてみる。


 「やっぱり、外で食べるしかないよね。お父さんが帰ってきたら頼んでみようっと。」


 一人で外を出歩くのは却下されるだろうが、誰かに連れて行ってもらうことには許可が出ると思う。もしかすれば、3歳になる前に、一足早く森に行くことが出来るかもしれない。




 夕方になると、カギを開ける音がきこえて、お父さんが帰って来た。わたしはすぐに駆け寄って、いつものように空になったお弁当箱を受け取ると、お父さんの「今日も美味しかったよ」という言葉に笑顔だけで返答する。

 さあ、ここからが本題だ。


 「お父さん、お願いがあるんだけど、きいてくれる?」

 「ん? 何か欲しいものでもあるのかい?」

 「違う、そうじゃなくて、わたしも外でお弁当を食べたいなと思って。せっかくお弁当作ってるんだもん。」

 

 受け取ったからのお弁当箱にグッと力を入れて答えを待っていると、お父さんはクスッと笑って口を開いた。


 「何だ、別にいいよ。エマの事だから、外って言っても森に行きたいんだよね? 西の方の森なら明後日連れて行ってあげるよ。」

 「え? いいの?」


 正直もっと粘られると思っていたから拍子抜けだ。どうしてだろうと思って目を瞬くと、その様子を見たお父さんが答えてくれた。


 「エマはしっかりしているし、もう森に行けるんじゃないかと思っていたんだ。流石にまだ小さいから一人で行かせることは出来ないけど、次の春には3歳になるし、少し早めに森での採集の仕方とかを教えてもいいかと思っていたんだよ。」

 

 お父さん曰く、冬になると寒くてお弁当どころじゃなくなるため、秋のうちに何回かつれて行ってくれるらしい。ここでは誕生季で年齢が変わるので春になれば行きたいときに森に行けるようになる。歓喜に打ち震えているとお父さんがパタパタと目の前で手を振って来た。


 「どうしたんだい?」

 「うぇ? あっ、あまりの嬉しさに、つい。」

 「そんなに喜んでもらえるなんて思いもしなかったよ。」


 フッと笑ってそう言うとわたしの頭に手を置いてそっと撫でてくれた。そして服を着替えるために自室に行こうとする。


 「あ!」

 「大きな声を出してどうしたんだい? エマ?」

 驚いたお父さんが振り返って、瞬きをする。


 「お父さんに聞きたいことがあったの忘れてた。」

 「何?」

 「お父さんの部屋にあるのって、お風呂でしょ? あれってどうやって使うの?」

 「あぁ、よく知ってるね。お湯を浴槽に溜めて使うんだけど、貯水タンクなんかを設置していないから大変で、私は使えないんだ。ギルドにもお風呂があるからそっちを利用しているよ。エマがもしお風呂に入りたいなら、ギルドで入れるようにアネットに頼んであげるけど、どうする?」

 「入りたい! ありがとう!」


 まだ小さいから桶にお湯を張って体を洗うだけで事が足りていた。しかし、成長すればきつい。前世が日本人だったこともありお風呂への思い入れが強いわたしは即答した。



 ……明後日は森にも行けるし、今日はなんて良い日なんだ! 俄然やる気が出てきたよ。遠足と言えばお菓子! お菓子はこっちでの料理に慣れてきたらチャレンジしようと思って後回しにしてきたけど、明日作るぞ!!



家のお風呂は使い勝手が悪すぎて使えないけれど、ギルドのお風呂を利用できるようになりそうです。森に行くことも出来るようになりました。次回は後編

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