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虎と燕と江戸町乱歩  作者: 蟬時雨あさぎ
序篇
1/21

零――或る春の日に

 黒い瞳が、一瞬黄金(きん)に輝いた様であった。


「ねぇ、この絵」


 桜の花びらがどこからともなく舞う、青空()えるうららかな春の日。陽気な香りに誘われたのか、普段以上の賑わいを見せる市の一角である。他の町人たちとはどこか違った、不思議な男の売る絵の一つを少年は指差した。


 その絵に描かれていたのは、――(おに)


「その絵が、どうかしたのかい?」


 男は、優しげな笑みを顔に張り付けているようであった。

 男を見てから、再び少年は鬼の絵を見る。その瞳は、やはり黄金(きん)に輝いていた。


「何か、良くないものが憑いてるよ」


 至極真面目に、言い放つ少年。


 本来ならば、何を言っているのだと一蹴(いっしゅう)されてしまうような言葉に、男は目を見張った。

その様子に気がつくことなく、少年は熱心に絵を見続けている。


「君、名前は何と言うんだい?」


 男は笑みを浮かべて言う。少年は絵から視線を離し、顔を上げる。


 大賑わいの市の中で、男と少年の間には静寂が訪れているかのような、独特の時間が流れていた。


「……虎影(とらかげ)佐野(さの)虎影(とらかげ)


 真っ直ぐと男を見つめて、おずおずと名乗る少年――虎影。


 夜闇(やあん)のような、肩につくほどの髪と瞳というその容姿は、まだ六にも満たぬ幼いものである。しかし、口調はその容姿に似つかわしくない、大人びたものであった。


「そうか、虎影と言うんだね」

貴方(あなた)は?」


 嬉しげな笑みを浮かべた男に、虎影は尋ねる。男の、腰ほどまでの長い髪は背中で一つに結われ、少し焦茶を帯びていた。

 その髪形のせいもあってか、江戸の町人達とは違う、どこか不思議な雰囲気を虎影は敏感に感じ取っていた。


「私は、……土御門(つちみかど)清弦(せいげん)。ところで」



「虎影、君は絵に興味はあるだろうか?」


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