7.絡みついた白いネバネバの
ヤバイ、明らかにヤバイ。
なんかヤバイものが釣竿の糸に絡みついちゃってるよ!
これ気が付かなかった振りをして、こそっと上げたら大丈夫かな。
俺がそう思って引き上げると、その白い触手もズルッと上に上がってきた。
「あーなんか、だんだん太くなってるし」
吸盤、なんか吸盤ぽいの付いてる。
これタコ、いやタコは白じゃないな。イカだよね、イカだと思うんだけど。
まず川にイカとかあり得ないし、もうちょっと上げてみよ。
「やっぱ太いよ、太すぎるよ……」
「勇者殿は、さっきからゴソゴソ何をやってるんだ」
「イーミャ、ごめんなんかヤバイのが釣れちゃって」
突然、グラグラっと船が揺れた。
海上からガバッと、白いイカの足が飛び出して船に絡みつく。
「これは、クラーケン!」
「なんで川でクラーケンが釣れるんだよ!」
言ってる場合ではない、船はミシミシミシと嫌な音をたている。
あらかじめ強化呪文が船にかけられていたのが幸いして、すぐに沈むことはないが沈没も時間の問題だった。
ガバッと川の上に姿を表した全長八メートルにも及ぶ巨大なイカのモンスター、これどうしたら良い。
「困ったねー、クラーケンは船を見かけると潰す習性があるからねー」
「わあああぁぁ、どうにかならないの!」
「どうにかすれば良いのだな、勇者殿のご命令とあらば!」
イーミャは、腰から七色に輝く細剣を抜いて、船から飛び出して川から出てきている白い触手を跳び回ってクラーケンの頭までトットットンッと辿り着くと、そこでさらに高らかに飛翔した。
そして、空中で錐揉み回転しながら落下し、デカいイカの頭に思いっきり鋭い剣を突き刺した。
女性としても小柄な騎士であるイーミャが、華麗に剣を突き刺しても、巨体相手には何ともならないと思ったがそうではなかった。
ビリビリビリッとクラーケンの巨体全体に激しい電雷が走って、ドゴォーーン! と音を立てて崩れた。
激しく上がる水しぶき、なんと一突きで倒してしまった。
さすがレベル99の天才猫竜騎士、というか猫竜すら使わなかった。
チャンドラーは、何をしているのかと思えば、船にまとわり付いている白い触手をガジガジと噛んで食べているところだった。
「そんなの生で食べて大丈夫なのか……」
「ふみゃぁ、うみゃぁ」
「チャンドラーは好き嫌いせずなんでも食べるからな」
イーミャは、崩れ落ちるクラーケンの身体から羽が生えたように軽く飛翔してまた俺の下へと帰ってきた。
身に着けている白銀の鎧は軽いとはいえ、華麗で美しい身のこなし。
「その剣もすごかったね、なんて剣なの」
「ああこの『稲妻の豪腕の疾風の迅雷の暴虐の電雷の巧者の聖銀の突剣+10』のことか」
「何その、スーパーチートな聖剣……長いから『稲妻の剣』でいいよ」
「うむ、その名は良いな。勇者殿をお守りするために、私は最強の剣を欲したのだ」
クラーケンを無事に倒せたのは良かったけど。
イーミャが得意げに腰に差している魔法の聖剣には、まったく見覚えがない。
「本当にその聖剣なんだよ、俺の使ってた勇者の魔剣より強そうじゃないか。そんなのあったら楽に大魔王倒せたよね」
「魔王城から持ち帰った戦利品の中に……」
「えっ、そんな凄い聖剣なかったと思うけど」
「それに加えていろんな魔剣や聖剣があっただろう、城の宝物庫に収められていたが」
「うん、あったね」
「そのうちからなんでも一本持って行っても良いと言われたのだ」
退職金代わりってやつか。
元々俺達の物もあるし、一本ぐらいなら良いって話にはなるだろうけど。
「でも、そんな凄い聖剣なかったけどなあ……」
「たくさんの聖剣や魔剣があって、私はどうにも選びかねた。勇者殿をお守りするのだ、それは最強の剣でなくてはならない。ふと横を見ると、『合成の箱』と書かれたアイテムがあるではないか」
「うわー、その先聞きたくない」
「こうして、私は最強の聖剣を持って勇者殿をお守りすることができる」
「いや、それ一本だけじゃないよね! 明らかに八本ぐらい合成してパクって来たんだよね」
「一本なら持って行ってもいいと言われたのだ。一本は、一本だ」
その剣のおかげで助かったけど、あーもうなんかいろいろとマズいよ。
「勝手に八本も持ちだして、城から苦情が来ないといいけどなあ……」
「新しい剣に勇者殿が立派な銘を付けてくれて嬉しい。この『稲妻の突剣』に誓って、我が命脈の続く限りお守りしよう」
「俺のせいみたいにするのやめて!」
「勇者殿に捧げる我が剣である」
偶然創りだしてしまった聖剣を得意げに掲げて、イーミャは俺を守ると誓いを立てるのだった。
合成の箱にいれて強力な聖剣ができるなら、大魔王倒す前にやっとけって話なんですが
やらなかったのはおそらくうまく合成できる可能性が100%じゃなかったんでしょうね。
次回イカを食います、たぶん。