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勇者、南へ  作者: 風来山
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5.猫竜の腹毛

「うんうん、チャンドラーは勇者殿とも仲良くなったようだな」


 イーミャによると猫竜キャドラは、極めて温厚な猫であり子供を腹の上で寝かしつけるのも得意なのだそうだ。

 子供扱いなのは癪に触るが、暖かい猫の腹の上が格好のベッドであることは確かだった。


「まあ、助かるのは助かるよ。ちょっとうるさいけど」


 ブルブブブブと喉を鳴らしているのは可愛いといえば可愛いのだが、携帯のバイブ音をずっと聞いているようなものでうるさいとも言える。

 チャンドラーも人間が大好きなようで、俺を腹の上に乗せて幸せそうに寝ている姿は猛獣という見解は変わらないが、微笑ましくも見える。


 さすがに騎士が乗って戦うようにしつけられた猫竜キャドラと言ったところか。

 船の内装を創造魔法(クリエイト)で一心不乱に作っているシドンと、それを手伝っているイーミャ。


 それを尻目に、俺の身体を挟むように丸まって寝るチャンドラーの白い腹毛をふかふかのベッドにして、しばらく休憩することにした。

 今の俺に出来ることは、邪魔にならないようにしていることぐらいしかない。


「ふああぁ、暇だな」

「ぶふうっ」


 首の毛を掻いてやると、ちょっと気持ちよさそうな声を上げる。

 大変暇なので、俺は猫竜キャドラがどこを撫でられると気持ちいいのか、いろいろ触って見ることにした。


 手足や長い尻尾は触られてもあんまり感じないらしい、顔や首元は気持良すぎるのかむずがったりして危ない。

 結局、腹や背中を撫でているのがお互いにとって一番良いようだった。


 俺が、チャンドラーの白い腹毛や、黒と白が混じってグレイに見える背中で寝っ転がっているぐらいがちょうどいい刺激になるようで、ブルブブブブと大きく喉を鳴らしている。

 チャンドラーは生きているのだから、その腹の上に寝そべっていればドクンドクンと心臓が鳴る音も聞こえれば、プスープスーと、オレンジ色の逆三角形をした鼻が鳴る呼吸音も聞こえる。


 最初はうるさいとおもった喉の音だが、長く聞いていると心地いい音に聞こえてきた。俺もようやくこの人懐っこい猛獣に慣れたのかもしれない。

 はあ……なんか、猫の腹の毛に捕まって寝てると船旅って気分がしないな。


 船の船室、空間拡張(フィールドワイド)の魔法で広げられた町の広場ほどの巨大で殺風景な空洞、そこにイーミャが柔らかい絨毯を敷いている。

 城の部屋によく敷かれている西方産のベルベット製の赤い絨毯だ。かなりの高級品である。オンボロ船に敷くには、かなり不釣り合いだ。


「イーミャ、でっかい荷物を抱えてると思ったらそんなの持ってきたのか」

「うん、退職金代わりにもらって来たぞ」


 もらってって、勝手にパクって来たんじゃないといいけどな。

 とりあえす、敷いてもらったからには三人でそこに座る。


「やることがない」

「だねー」「うん」


 猫竜キャドラと戯れてるだけじゃさすがに退屈してしまう。

 船旅ってこんなにのんびりしたものだったんだろうか。


 俺達は三人とも冒険者としてモンスターと戦うことしかしたことがない、船で旅をする知識がない。

 とりあえず、何をしたらいいかも分からない。


「おいチャンドラー、ちょっと外の様子を見に行かないか」

「にゃ?」


 俺が背中によじ登って動いてくれるように頼むと、さすがは騎乗用の猫竜キャドラ

 俺の意図を察してダッダッと賭けていって、船の先頭部分まで連れて行ってくれる。


「おー、なんだか景色を見ると船旅って感じだ」


 小さな船頭から見る灰雪国グレースノーの冬景色は、わびしくも美しいものだった。

 寒さに凍りついていた山々が、春の暖かい日差しに溶け出して息吹を吹き返す。雪解け水が流れだし、川を作っている。遠くに見える山の枯れ木には、青い新芽がつき始めていた。


「釣り糸でも垂らせば、魚が釣れるかもれないな」

「にゃおーん!」


 魚と聞いて、猫竜キャドラは喜んだ。

 どうやら、魚が好きらしい。


「といっても、釣竿も釣り糸もないんだよな」

「にゃおーん」


 不満気な低い声を上げる。

 こいつは、人間の言うことが分かっているようだ。


「ダイスケ-、釣竿なら魔法で作ってやるぞ」

「おーありがと」


 シドンが創造魔法クリエイトで、釣竿を作って持ってきてくれた。

 ちゃんと糸の先に、針と擬似餌まで付いている。


「なあ、シドン。これどうやって作ったんだ?」

「んー、なんかいらない木の棒があったから、それと猫の毛を組み合わせて作った」


「そりゃ凄いけど、いらないの棒ってオールってやつだったんじゃないか」

オールって何?」


 何と言われる困るけど、なんか船をこぐ道具だよ。あるでしょ、そういうの。

 ま、まあいいか。シドンが居ればオールは要らないっぽいし。大丈夫かな、だいじょうぶだよね。


 まあいいか、だいじょうぶとしよう。


「よーし、チャンドラー。これでお前の夕飯を釣ってやるからな」

「にゃおおおーん!」


 あんまりデカイ声を出すと、魚が逃げるから黙っていようね。

 俺は釣竿を水面に垂らすと、静かに当たりを待ったのだった。

なんというか、この話はこういうテンポです。

こういうテンポで続きます。

なんとかなるでしょう、だいじょうぶだよね。

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