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勇者、南へ  作者: 風来山
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2.勇者からの卒業

「こ、これは勇者様……。療養中のところ申し訳ありません」


 金髪碧眼の雪のように肌の白い見目麗しい姫様、大魔王を倒して灰雪国グレースノーに平和が戻ってからは若き女王として君臨している、当年とって十八歳のエリーザベト・クリスティー・グレースノー陛下。

 その姫様が思わず玉座から立ち上がってしまうほど、宝石のような碧い瞳を見開いて驚いていた。


 居並ぶ廷臣や、兵士たちもざわついている。

 伝説の魔剣の勇者であった俺が、小柄の少女騎士と白衣を着た幼女に抱えられるような情けない姿で現れたからである。


 今の俺だって、杖ぐらいあれば歩けるのだが、あえて恥をしのんでこの姿で現れたのには訳がある。

 どうも、勇者である俺を姫様と結婚させて王様にしようという機運があったからだ。


 昔のままの俺だったら、美人な姫様と結婚して勇者王になって活躍して、みんなを幸せにできたかもしれない。

 でもこんな身体になってしまっては、とても王様になんてなれようがない。


 よろよろと杖をつく半病人の王様なんか、復興間もない灰雪国グレースノーには負担を与えるだけだ。


 国の重鎮たちを前に俺が弱っていることを示せば、もう勇者を王様にするなどと誰も言い出さないはず。

 玉座の前に下ろしてもらった俺は、わざとらしい咳き込みをしながら、よろよろと立ち上がる。


「ゴホゴホッ、失礼致しますエリーザベト陛下。自分で歩くこともままならぬ身体に成り果てまして」

「おいたわしいですわ、勇者様」


「姫様がお呼びと聞いて参りましたが……」

「ええ、そうなのですが、それよりも勇者様のお加減はよろしいのですか」


 痩せて青白い顔をした俺を、姫様は心配してくれている。

 この姫様はとても良い人なのだ。


 魔王軍から助けたときの恩をずっと忘れず、今だって役立たずになった俺を治療するため、最大限の配慮をしてくれている。

 だからこそ、これ以上その好意に甘えるわけにはいかない。


「大魔王の呪いをかけられましたので、身体は完全には良くなりませんが、助けてくれる仲間もおります」

「そうですか、お身体が良くなられるまで我が城にいつまでもおいでください、いえ良くなられてからもずっと……」


 チラッと横を見ると、小柄な少女騎士よりもさらに小さなブカブカの白衣を着た銀髪幼女が、私が助けてやっている「えっへん」とない胸を張っている。

 これでも全知全能の大賢者なんだが、見えないよな。


「姫様、いえエリーザベト女王陛下。残念ですが、今日は暇乞いとまごいに参ったのです」

「えっ……そんな、どこに行こうと言うのです」


 そこで、大賢者様の出番だ。

 頼むぞ大賢者。俺のアイコンタクトで、シドンが打ち合わせ通り口添えしてくれる。


「勇者くんの治療のためには、転地療養が必要なのー。南の国に、勇者くんの身体を癒す温泉があるんだよー」


「そんな……いえ、勇者様の療養ならば仕方がありませんが、大賢者シドン様! 勇者様を何とかここで治療できないのですか」

「うんとねー、寒いからねー。温かくしないとダメなんだよ」


 よし、これで理由は立った。


「……というわけです。この身体ですので、徒歩も馬車の旅もできません。船を使って南へと向かおうかと思います」

「勇者様、また戻ってきてくださいますよね」


 俺は頭を横に振った。


「この国で、俺の出来ることは終わりました」

「そんな……、この国の民は皆、勇者様をお慕いしております。私も……、この国が復興するために、勇者様のお力がまだまだ必要なのです」


 この国のためにか。

 傷つく前の俺なら、きっとその言葉に奮起したのだろうけど、今はこの国のためにこそ役立たずの俺は旅立たねばならない。


「大魔王城より持ち帰った宝や、魔剣や聖なる鎧など全てこの国に置いていきます。俺にはもう必要ないものですから、それでどうか復興してください」


 俺だって頑張って戦ったけど、それ以上にこの国の民にはたくさんの恩を受けた。

 一緒に戦った人も、助けてくれた人も、仲良くなった人もたくさん居た。俺が手に入れた宝で、その人々が救われるなら一番いい。


「あのっ、勇者様……」


 エリーザベト女王が何か言おうとするのを、ハゲチョビンの大臣が遮った。


「勇者様、この度の温情ありがとうございます。船は立派なものを用意しておきますぞ。この国の民総出で、勇者様の旅立ちをお見送りします!」

「船は助かりますが、小さいモノで結構です。見送りはいりません」


 大臣も、無力になった勇者が王様になるのは困るようで口添えしてくれた。

 宝を置いていくというのでとても喜んでいるようだ。俺だって船が手に入る。お互いにWin-Winの関係というわけだ。


「それでは、失礼いたします。どうぞいつまでもお元気で、エリーザベト女王陛下」

「勇者様!」


 俺が背中に乗りかかったのを合図に、イーミャが俺を背負って赤絨毯をずんずんと下がる。

 なんか、いつもは猫竜キャドラに乗っている少女騎士に乗るって不思議な気分だなと思ってしまう。


 イーミャは細かいことを気にしないので、乗り心地は正直あまり良くない、足を引きずって痛いなと思ったら、シドンが魔法で足を浮かせてくれたのか楽になった。


 よし、これで後顧の憂いを残さず旅立つことができる。

次回から、二人の美少女(片方はアレですがw)と、スローな船旅がはじまります! 

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