校長先生
下地に前作があると意外に書きやすいですね。ただそれに縛られないようにしないと新規の人がわけわからんくなりそうですが……
「みんな、無事か!?」
大声を張り上げながらこちらに向かってくる人影がある。
大きな体躯が目立つ。あれは校長先生かな?
「あ、団長だ! 匠、あとはよろしくね」
そう言って備前兄さんがそそくさと逃げるように去っていく。それにしても団長って?
「む、備前さんが何故ここに」
「いや、僕も何がなんだか……」
さっきのことを話した方がいいんだろうか。僕だって戦えるって。
でも備前兄さんに黙って勝手に話すのも良くないかもしれないな。とりあえず誤魔化すことにしよう。
「あ、でも僕達を助けてくれたのが備前兄さんなんだよ。いや、すごかったなぁ」
「ほう、で、お前は何もせずに私を襲うタイミングを計っていたと言うことか?」
「いやいや、そんなわけないじゃない!!」
どうしてそんな結論に行き着くのか。でもまあ備前兄さんが戦ったことにしたら僕は何もしていないことになるのか。
それはそれでちょっと悲しいな。
「おお、如月に五十嵐、お前達も無事だったのか」
「はい、知り合いの人が助けに来てくれて」
これは嘘じゃない。助けに来てくれたのは本当だし。あ、でも人じゃないからちょっと嘘ついたことになるのかな?
「知り合い……ああ、今逃げていったアイツか。後でワシがシメておく。しかしアレがここに来たということは……」
うん? 校長先生は何か知ってるのかな?
「それにしても上級生がこうもやられるとは……いくら主力の連中が駆り出されていないとは言え、これはちょっと考えねばならんな」
「校長、あの数を見たでしょう? 無理もありませんよ」
いつの間にか教頭先生がいた。影が薄い、というよりは気配を消していたんだと思う。目の良さだけは自信があるしね。
「しかし貴様等、何故外にいる」
「あ、えっとそれは……」
しまった! そういえば絶対外に出るなって言われてたんだった……
「体育館が襲撃された。なら打って出るまでと思っただけです」
「五十嵐、だからとは言って……いや、この状態を見てただ責めるわけにはいかんな」
そうだよね、実際にワイバーンの群れの大半は香那ちゃんが倒したんだし、勝手に外に出たことを差し置いてもただ怒られるのは理不尽だ。
「ヒース、すまんが後を頼む。ワシはちょっとこの二人に話がある」
「分かりました」
え? 僕も?
「この場で無事立っているのがお前ら二人しかおらんのだから仕方ないだろう。ここで起きたことを話してもらうぞ」
「はい……」
仕方なく校長先生についていく。どこに連れていかれるんだろうか。
歩くこと数分、連れてこられたのは校長室だった。うわぁ、校長室なんて卒業するまで入ることなんてないと思ってたよ。
「さて、話してもらおうか。大体は予想もしているが、それでも当事者達に話を聞く方が正確な情報を得られるからな」
「えっと……」
備前兄さんのことは話していいんだろうか。
「先程も言った通り、体育館が魔物の襲撃を受けたので打って出ました。空を飛ぶ魔物はあらかた片付けましたが、人の形をした魔物が現れ、私はそいつに負けた」
ギリッと歯を食いしばる音が聞こえる。よっぽど悔しかったんだろうな。
「人の形……そいつは人の言葉を話したか?」
「話してました。僕が思うにあれは魔族なんじゃないかと思います」
そうか、まだ授業でも出てきてないし、香那ちゃんもあれが魔族だということは知らなかったのか。
「魔族……そうか、ビゼンが来るわけだ。もしもの時のためにアイサを使いに出しておいて正解だったというわけか」
アイサ先生が向かったのって要は僕の家だよな。となるとやはり校長先生と母さん達は知り合いだという線が濃厚だ。
「それでさっきの、多分校長先生は知ってるかと思いますが、備前兄さんが助けに来てくれてその……魔族を倒してくれたんです」
「魔族を……倒した? ビゼンがか?」
訝しげに僕を見る校長先生。あ、これは多分嘘がバレている。
というよりも備前兄さんの正体を知っているんだろう。
「校長先生は備前さんと知っているのか?」
「ああ、奴とは古い知り合いだ。如月、ビゼンが魔族を倒した。それは間違いないな?」
どうしよう、本当のことを言った方がいいんだろうか。思わず香那ちゃんのことを横目で見てしまう。
「……なるほど、分かった。五十嵐、身体にまだ傷が残っているようだから保健室に言って治療を受けてこい。その後体育館に戻ってヒースを手伝え」
「私だけ、ですか?」
「如月には傷が見当たらんようだからな、もう少し話を聞いたら同じく手伝いに回す」
もっともらしい理由だ。でも要は僕だけ残れって言われてるわけだよなぁ……
「分かりました。では失礼します」
少し違和感を感じてはいるんだろう。だけど理由としてはもっともだし、校長先生の出した指示に間違いはない。
静かに扉を閉めて香那ちゃんが出ていく。廊下から聞こえる足音が遠ざかっていった。
「さて如月、いや、小僧と呼ばせてもらおうか。何故嘘をついた」
やっぱりバレていたようだ。
「じゃあやっぱり校長先生は備前兄さんの正体を?」
「もちろん知っておる。言っただろう。アレとは古い知り合いだとな」
じゃあ隠す必要もないのか。良かった。
「すいませんでした。香那ちゃんは備前兄さんの正体を知らないので、勝手に話していいものか迷ってしまって」
「なるほど、理由があるなら構わん。それにおいそれと広まっていいことではないからな。それくらい口が固い方が良い」
別に怒られるわけでもないのかな。
「で、ビゼンがあそこにいて五体満足なお前がいるということは……使ったんだろう? ビゼンを」
「はい、備前兄さんに言われて」
それから僕は校長先生に事実を話した。
ビゼン兄さんが僕を契約者と呼んだこと。魔力のないはずの僕が魔法を使えたこと。急に身体が軽くなったこと。
そして僕が魔族を倒したこと。
「銃で魔法を?」
「はい、でもやっぱり信じられませんよね。僕が魔法を、しかも複数属性を同時に扱えるなんて」
だって僕自身が未だに夢だったんじゃないかと思うくらい現実味のない話だ。それこそ誰に言っても信じてもらえないだろう。
--きっと、香那ちゃんにも。
「ガハハハッ! 何をしょぼくれた顔をしておるか! ワシが言いたいのはな、やはりカエルの子はカエルだったということよ」
「カエルの子は……じゃあやっぱり校長先生は母さんを知ってるんですね?」
でもビゼンの契約者は父さんだったようだし、今のカエルは父さんのことか?
「ああ、知っておる。それにお前の父のこともな」
「やっぱり!! 父さん……はどんな人だったんですか?」
僕の台詞に一瞬顔が曇る。もしかして聞いちゃいけないことだったのか?
「お前にはすまないことをしたと思っている。ワシが、ワシ等にもっと力があれば……」
どうやら校長先生と父さんはただ知っている、という仲ではなさそうだ。
「全てを語るのはワシの役目ではない。ビゼンか、シャルか。どちらかからいずれ話があるだろう。だが小僧、貴様の父は強かった」
「そう、なんですか」
「ああ、それに奴の得意としていた武器も銃を使った魔法だった。それと刀を二本使っての二刀流剣術」
「父さんも剣術を? しかも二刀流?」
さっきの僕と全く一緒じゃないか。ああ、それでカエルの子はカエルってことなのか……
「小僧、この学園を守ってくれたことを感謝する。それからビゼンのことだが、やはり先程小僧が隠していたように、今はまだ明るみに出すべきではないだろう。何しろお前はまだ新入生、上級生は快く思わんだろうし、お前自身が戦場に立つことになる」
「でもそれは仕方ないんじゃ……」
「いや、お前が戦場に立ち、武勲を立てれば立てるほど、魔族からの襲撃も厳しいものになるだろう。そうなれば更に被害が大きくなる可能性もある。それにお前の話では力を使ったのは今回が初めてなんだろう? いくら大きな力があっても使いこなせなければ意味がない」
諭すように、または戒めるように校長先生は言葉を続ける。
「言っただろう? いくら実力があっても実力が出せずに殺されてしまえば意味がないと。少しずつ慣れさせるようにビゼンには言っておく。せっかく得た力を自由に振るえないことは苦しいだろう。だが理解して欲しい」
そう言って校長先生が頭を下げる。この学園で一番偉い人が、一番下にいる、僕なんかに。
「校長先生、頭を下げないでください」
だからこそ分かる。この人はこの学園を、そして僕を守ろうとしてくれている。
「分かりました。僕はこの力をひけらかしたりしません。時が来るまで隠し通します」
チクリと、胸が痛むような感覚があった。
何故自分の力を使ってはいけないのか。自慢してはいけないのかと。そう叫ぶ弱かった僕がいる。
みんなのためだ、そう言い聞かせて弱い僕を抑え込む。
けれど。
「だけど僕は備前兄さんがいなくても強くなってみせます」
強くなりたい。この気持ちにだけは嘘はつけない。だって。
「大切な人を守るために」
今日は備前兄さんが間に合ったから香那ちゃんを守ることが出来た。
けれど間に合わなかったら? 僕も香那ちゃんもきっと殺されていた。
誇るのは備前兄さんを振るう僕じゃない。僕自身が強くなった、その時だ。
「うん、よく言ったね。匠」
「備前兄さん!!」
後ろから声をかけられた。この人一体どこから入ってきたんだろう。
「なんせ僕は精霊だからね」
「ビゼン、貴様……!!」
あ、校長先生が怒ってる。
「落ち着いてよ団長。それに団長がアイサに依頼して僕を呼んだんでしょ?」
「うむ、小僧等にもしものことがあってはいかんからな」
「あ、匠のこともそう呼ぶんだ。安心してよ団長。匠は強くなるよ。それこそコウよりね」
僕のことも? 父さんより強く?
「えっと、僕のこともってどういうこと? それに父さんより強くってどれくらいなの?」
「ああそうか、匠はコウのことよく知らないもんね。まずひとつめ、団長はコウのことも小僧って呼んでたんだよ。それからふたつめ、コウの強さ……そうだなぁ……」
強そうな校長先生やあんな凄い力を振るったビゼン兄さんが言うんだからきっと強かったんだろうな。
「剣術なら5番目くらい。魔法に関しては2番以下を圧倒的に引き離して1番だろうね」
「えっと、それは父さんの仲間達の内ってこと? 父さんの仲間って何人いたの?」
順番だけ言われても対象になる人数がわからないと凄いのかどうか分からない。ビゼン兄さんもおっちょこちょいだなぁ……
「いや、世界でだよ?」
「あ、なんだ世界で5番目の剣の腕で魔法は1番なのかぁ」
……え?
「今、なんて?」
「うん、今自分で言ったじゃないか。剣は流石にイガさんやアランの方が上だったし、レインもいたからね。魔法に関してはもう神を殺せるレベルだろうね。あれは」
世界一……父さんが? 母さんも何も教えてくれなかったのに……
というか今の僕じゃ逆の世界一なんだけど……カエルの子はカエルってハードル上がりすぎじゃない?
そういえば確かに母さんも美人だし、きっと父さんもカッコ良くて立派な人だったんだろうな。
「まあそうだろうな。近接戦闘ならワシでも勝機はあったが、魔法を使われたら一瞬で負けたわい」
「校長先生は父さんと戦ったことがあるんですか?」
もしかしてあまり仲は良くなかった、とか?
「小僧が冒険者の試験を受ける時にちょっと、な」
「ああ、命のやり取りじゃなかったんですね。安心しました。ちなみにどんな魔法だったんですか?」
ついつい興味を持って聞いてしまう。
「……ップキック」
さっきまでとはうってかわってボソボソと話す校長先生。
「え? なんですか?」
もう一度聞いてみる。
「ドロップキックだ!! よりによってあの小僧! 普通に魔法を使えば良いものをわざわざドロップキックのためなんぞに使いおって!! 思い出したら腹が立ってきたわ!!」
何してんだよ父さん……
一気に僕の中で父さんのイメージが崩れていく。全然カッコ良くないじゃないか!!
「まあまあ団長、で、僕の力を隠すことと匠を鍛えるのには賛成だよ」
「む、ならビゼン、お前が小僧の面倒を見ろ。いいな」
「もちろん、なんせ匠は僕の正式な契約者だからね。強くなってもらわなきゃ困るよ」
備前兄さんが鍛えてくれるのか。修行とかするのかな。ちょっとワクワクする。
「あ、それからイガさんにも手伝ってもらうつもりだよ」
イガさん? って誰だろう。身近にそんな人いたかな?
「あいつにか……小僧」
「はい?」
校長先生も知ってる人なのか。
「死ぬなよ」
「え?」
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