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絶体絶命

多勢に無勢である

「で、キミが敵ってことでいいのかい?」

「この場に人間がいること事態が異常だ。他に判断のしようもあるまい」

「なんでもいいから、とっとと殺して終わらせようぜー」

「全くアナタは、少しくらい真面目にやったらどうです」

「真面目とかいいから、別にいいじゃない少しくらい遊んだってさ」


 三者三様というべきか、会話になっているのか、それともなっていないのか。


 人間に当てはめて言えば、クソガキ、武士、チャラ男、委員長、姉御。こんな感じだろうか。


 バロンも不良というか、ジャンキーというか、キャラがハッキリしてたな。こんなこと考えてる余裕があるのかも怪しいけど。


「この後ろにある学園を目指してるんなら、僕は敵だよ」


 この状況で誤魔化すことに意味もないだろう。あえて宣言する。


「そっか、なら僕の翼を傷つけたのもキミってことだよね? じゃあ殺すね?」

「せっかくだけど遠慮するよ」


 魔族が僕に向かってくる。名前も知らないし、聞くつもりもないからクソガキと呼ぶことに決めた。


 クソガキは鋭く尖った爪で僕を切り裂こうと襲いかかってくる。


「モード小太刀」


 右手だけ小太刀に持ち変え、クソガキの攻撃を受け流す。本当は二刀流で戦いたいところだけど、何せ相手は複数。魔法も必須になると考えてベレッタは残すことにした。


「あれ? どこから剣が?」


 答える代わりに返す刀で斬りかかる。が、バックステップで軽くかわされてしまう。


 見た目と言動の通りにすばしっこい相手のようだ。


「人間の魔法師って接近戦は大したことないって言ったの誰だよー」

「あいにく今は魔法だけじゃやっていけない時代だからね」


 間合いを測りながら、今度は答えを返す。出来ればこのまま一対一に持ち込みたいからだ。


「そっかー、人間も頑張ってるんだねー」

「必死だよ、弱いからね。だから帰って貰っていい?」


 今のうちにいつでも動けるように魔素を取り込んでおく。


「アハハ! キミなかなか面白いこと言うね!」

「こっちは真面目なんだけどなぁ……」


 本当帰ってくれないかな。


「ダメに決まってるじゃん!」

「だと思ったよ!」


 クソガキが再度こちらに向かってくるが、これは予想通り。


「フリージングパイル!」


 ベレッタを向け、引き金を引く。今ならクソガキと他の奴等とは直線上に並んでいる。


 なら一体でも倒すか、あるいは手傷を負わせることが出来れば……


「うわっ、あぶな!」


 クソガキは相変わらずのすばしっこさで氷柱を回避する。そのまま氷柱は後ろの集団に向かっていく。


「フンッ!」


 命中する。と思った矢先に武士魔族が氷柱を殴り付けた。


 バギィンッ! という音が聞こえ、氷柱が砕ける……ちょっと待ってあんなのアリ?


 っていうか武士っぽい甲冑を纏ってるくせに、まさかの武術家タイプ……?


 そりゃあ魔族に人間の常識を押し付けるのはおかしいかもしれないけどさぁ……


「何を遊んでいる! とっとと始末してしまえ!」

「別に遊んでなんかいないよ、それにアンタに命令される筋合いなんかないし?」


 武士とクソガキは仲が悪いのか。魔族同士で一蝕触発の空気が漂う。


「二人とも、争いは後にしなさい。今は魔王様の命を優先すべきです」

「まあまあ、人間の戦うのなんて久々なんだからはしゃいでんだよ。ちょっとくらいは見逃してやんなって」


 委員長が二人を戒めるが、姉御が委員長をたしなめている。一体どういう構図なのか。


 それにしても僕を無視して会話している辺り、やはり相当な実力があるのか、はたまた僕が舐められているだけなのか。


「もういいから、とっととアイツ殺して帰ろうぜ。いい加減だりーんだけど、この後オンナと遊ぶ約束あるし」


 チャラ男は種族が違えどチャラ男なようだ。なんかムカつくなぁ。


「分かった。なら貴様とは後程存分にやってやる。まずはあの人間を始末してしまうとしよう」

「ちぇっ、分かったよ。後で覚えてろよ」


 だけどどうやら悪い方向に転がったらしい。結果として一対一の望みは潰えたようだ。


 --ならせめて先制の一撃だけでも!


 ブースターを発動し、油断しているクソガキに突きを放つ。


「わっ!」


 僕の接近に気付き、慌てて回避行動を取るクソガキ。


 流石に速いけど、このタイミングなら!!


 人間でいう心臓の辺りを狙った一撃は、クソガキが必死で横に飛び退いたことで外れる。だけどここで終わらせはしない。


 ラピッドで方向修正し、クソガキを追いかけて袈裟斬りを放つ。これも回避しようとするが、体勢が整っていなかったためか、クソガキの翼を一枚切り落とすことが出来た。


 とは言えこの場所は敵陣真っ只中。ブースターで後ろに大きく下がり、いったん距離を取る。


 倒すことは出来なかったものの、一撃を加えることに成功した。それにこちらの攻撃が通用することが分かったのも収穫だ。


「僕の、僕の翼が……」


 翼を切り落とされたのがよっぽどショックだったのか、クソガキはこちらに向かってくるでもなく、地に落ちた片翼を見ながら何か呟いている。


「許さない、許さないぞ。殺してやる。殺す。コロス!!」


 悲鳴にも似た叫びをあげながらクソガキが迫ってくる。その速度は先程までよりも速い。


「くっ!」


 ラピッドを駆使しながら回避し、攻撃を仕掛けようと試みるが、いかんせん相手の猛攻が激しく、反撃するまでに至らない。


 せめて解放状態だったならとも思うが、初戦で力を使い果たすわけにはいかない。なんとかこの状態で勝機を見出ださないと。


 幸いにも今日は砂がほとんど溜まっていない状態なので、魔力はまだまだ練れる。上手く魔法を駆使して戦えばなんとか……


「悪いが一対一は認められん」

「なっ!?」


 横から声がした。この声は武士か。


 危険を感じ、視界の届かない左方向に刀を出し、同時にクソガキの攻撃も回避するためにラピッドを発動する。


 武士の攻撃が刀にぶつかり、大きな衝撃を受ける。何せフリージングパイルで放った氷柱を叩き割るほどの力だ。なんとかラピッドが間に合ったおかげで、衝撃を逃がすことは出来たけど、直撃したら一撃でやられてしまうかもしれない。


 距離を取っても安心する暇はない。二体同時とは言え諦めるわけには……


 前方を見据えた瞬間、眼前に氷の矢が迫っていた。ほとんど反射的にベレッタを向けてファイアボールを撃ち、相殺する。


 ファイアボールが氷の矢にぶつかった瞬間爆発し、その爆発に巻き込まれてしまう。小さな爆発ではあったが、熱風と衝撃が僕を襲ってくる。


 地面を転がる僕に向けて、大斧が振り下ろされる。一体どこから、と考えている暇もなく、無理矢理ブースターを発動し、地面に身体を削られながらもなんとか回避に成功する。


 爆発による火傷に加えて、地面に激しく身体を擦った影響で、激しい痛みが僕を襲う。だけどここで気を失ったら二度と目を覚ますことは出来ないだろう。


 いつでもブースターで上空に飛べるように構えながら、状況を確認する。


 どうやらあの氷の矢は委員長が放ったようだ。どういう魔法かは知らないけど、手に氷で出来た弓を携えている。


 そして大斧は意外にもチャラ男の獲物だったようだ。肩に大斧を担ぎながら、ダルそうな格好でこちらを見ている。


 理由は分からないが、姉御だけは僕を攻撃しなかったらしい。だけど次も攻撃してこないとは限らないので、安心出来るものでもないが。


 --五対一……


 正直言って余りにも分が悪い。ブースターで逃げることは出来るかもしれないが、逃げたところで意味がない。なんとしてでもこの場を凌がなければ。


「アハハハハハハ、なんだよその格好! さっきまでの威勢はどこにいっちゃったのかなー?」

「余計な言動は慎みなさい。逃げられては困るのです」


 逃げる? 僕が?


「逃がすわけないじゃん。アイツは僕から翼を奪ったんだ。逃げたってどこまでも追いかけてぶっ殺すよ?」

「んー、俺はめんどいから逃げてくれてもいいけどね。これ重いし」


 さっきから逃げる逃げるって五月蝿いな。


「逃げるって、誰が?」

「あ、まだクチ聞けたんだ? この中で逃げるとしたらキミしかいないじゃーん。状況分かってんの?」


 いちいち腹の立つしゃべり方だなぁ。


「ああ、翼を斬られて痛いから逃げるのかと思ったよ」

「は? 何言ってくれちゃってんの?」


 僕はもう逃げないって決めたんだ。状況? 分かってる。どう見たって劣勢だよ。勝てる見込みなんて全くと言っていいほどないってことも理解してる。


「そんなに喋ってないと怖いなら、かかってきなよ。クソガキ」

「調子に乗るなよてめえええええええ!!」


 僕の挑発に乗って、クソガキが怒りに任せて突進してくる。速いは速いが直線的だ。


 ーーおじさんには向いてないって言われたけど、今この時だけは。


「モード、大太刀」


 ベレッタを消し、小太刀を自分の身長よりも長い大太刀へと変化させる。


「フレイムソード」


 父さんの記憶から、刀へ魔法を付与--正確にはビゼンという精霊に炎の魔力を与え、それを刀に纏わせる。


 --頼む、一撃でいいんだ!


 大太刀を腰に構え、クソガキを待ち受ける。


 チャンスは、一度。


 足腰から腕へ、捻転の力を伝え、大太刀を全力で振りきる。


 ーー暴風……!! 決まってくれ!!


 カウンター気味に放ったそれは、クソガキの胴体を真っ二つにせんと奴を襲う。


 だけどギリギリのところで相手もそれに気付き、急制動をかける。結果、僕の放った一撃は、奴の腹の皮を切り裂くに止まった。


 ニタリと、愉悦に歪んだクソガキの顔が僕の視界に入る。


「残念だったなぁ。流石にヒヤリとしたけど、これで終わりだよ」


 再度クソガキが地を蹴り、僕を切り裂こうと腕を振り上げ。


「てめえがな」


 --その振り上げた腕が宙を舞った。

そして主人公キラーがやってきた。

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