開戦
まさかの日間学園ランキング4位。プレッシャー半端ナイッス。
バロンが去っていった方向に向けて飛ぶ。恐らく襲撃もそちらから来るはずだから。
アイツが僕に教えるためにわざわざ飛んで去っていったのかは分からないが、半ばそう確信していた。
もちろん外れている可能性もあるが……
少しの不安を抱えながら、ひたすら前を目指す。学園からもそれなりに距離は取ったし、ブースターを続ける必要もないので、速度は落ちるが燃費のいい『スラスター』に切り替える。こちらの方が自由に動けるので使い勝手はいいようだ。
受け取った記憶には、他にも多様な魔法があった。その全部が複属性魔法というのもどうかとは思うが、恐らくサニー姉さんが僕に教えてくれた知識はこれを見越してのことなんだろう。
特に移動系の魔法なんてお目にかかったことはないが、今使っている空中移動用のスラスター、それに長距離にも対応出来る直線加速用のブースターの他に、短距離用のラピッド、中距離用の縮地と、使いこなせば戦いを有利に運べそうな魔法が多い。何故縮地だけ日本語なのかはよく分からないが……
それに放出魔法の広範囲殲滅用として、バアル・バースト。炎の竜巻を生むフレイムツイスターを始め、フリージングパイルや、ドリルクラッシャーなど、物理攻撃にも対応出来る魔法もあった。
対単体用にはスクエアロンド、ケイオスペンタグラム……は闇属性が混ざってるのか。これは僕には使えそうにないな。一部グロ魔法もあったので、これは割愛しておく。
他にも備前兄さんに属性を付与するディゾルブソードや、相手を弱体させるエルーション。気配を消すインドア。これも闇魔法だから僕には使えなさそうだが……正に多種多様だ。
更に備前兄さんを悪魔の姿にする魔法なんかもあった。これはちょっと使いどころが難しそうだなぁ。
いずれにしても父さんが世界一の魔法師だったというのも頷ける。全てがオリジナルで、更に複属性魔法。しかも闇属性魔法が使える人間なんてのも聞いたことがない。
果たして僕はどれだけ父さんに近付くことが出来るんだろうか。
頭の中で魔法の整理をしつつ、基本魔法についても忘れないようにしておく。備前兄さんのおかげで魔法の威力が上がることも知ったし、無理して大魔法を連発する必要もないだろう。
それに……僕が知らなかった事実も一つあった。僕にあって父さんにないモノ。サラさんに聞いた情報が確かなら、恐らく僕にも当てはまるはず。あの時サラさんが『匠も?』と言ったのは間違いじゃなかったらしい。
しばらく進んでいく内に、前方に夜の闇よりも暗い空間が見えてきた。恐らくアレが魔物の集団に違いない。
--多い!!
空を埋め尽くすほどの黒。一体どれだけの数の魔物が集まっているんだろうか。
下を見れば地上にも同じようにビッシリと、魔物と思われる集団がこちらを目指している。救いと言えば、街からかなり離れた場所だということか。
わざわざ合流を待つ必要なんてない。出来るだけ数を減らさないと、囲まれてしまっては元も子もない。
ベレッタはスラスターを発動させたまま、右手に握ったデザートイーグルを前に出し、照準を定める。
--さあ、開戦だ!
「バアル・バースト!」
空中にいる集団に向けて広範囲魔法のバアル・バーストを放つ。
この魔法は扇状に広がっていくので、距離がある方が都合がいい。
「フレイムツイスター!」
空から地上に向けてバアル・バーストを撃つと大変なことになりそうなので、炎の竜巻を生み出す。決して威力が低いわけではないが、それでも威力、範囲ともに、先のそれより少し劣るのは否めないが。
前方を見れば魔物の数が減っているのが見てとれる。だが前にいた魔物が壁になったことにより、後ろにいる魔物には効果が薄かったようだ。
対して地上の魔物は真ん中辺りがポッカリ空いている。横の範囲が狭いが縦の範囲については、一気に魔物を飲み込んだようだ。
どちらも効果としては上々だと思う。相手の数が把握出来ないだけに、あくまで思う。といったところだが。
僕の存在に気付いたのか。空にいる前方の集団がこちらに向かって速度を上げたようだ。どんどん黒い波がこちらに押し寄せてくる。
--近づかれる前に少しでも減らさないと!
「バアル・バースト!」
もう一度バアル・バーストを撃つ。
多くの魔物を飲み込んで行くが、やはり先程よりも接近を許したせいか、成果としては芳しくない。どうやらバアル・バーストの出番はここまでのようだ。
ベレッタを下に向け、ブースターを発動する。魔物の集団よりも高く、上空を目指す。
ある程度の上昇したところで、再度スラスターに切り替えてホバリング状態になり、眼下の標的にデザートイーグルの照準を合わせる。
「ドリルクラッシャー!!」
前方斜め下に向け、巨大な岩で出来たドリルを放出する。この角度なら地上の魔物ごと削り取れるはず。ついでにもう一つオマケもつけるとしよう。
「ヴォルカニックハンマー!!」
これは巨大ウサギの角を折る時に使った、僕のオリジナル魔法だ。あの時は別々の属性を右と左から放出しないと撃てなかったけど、今の僕なら片方からで十分。
巨大な拳骨がドリルを追いかけるかのように落下していく。撃った本人が言うのもなんだけどシュールな光景だ。
僕自身も下降し、空中の集団の正面に立つ。大半は削れたようだけど、それでもまだ全滅とまでは行かない。それにかなり距離も近付いて来ている。
一匹たりとも、というのは難しいだろうが、極力後ろに行かせたくない。特に魔族が混ざっているのなら、それだけでもここで食い止めないと。
この距離だと僕が使う魔法の選択肢が限られてくる。フリージングパイルは縦にはいいけど横の範囲が狭い。ドリルクラッシャーはあまり速度がないから、正面から撃ってもかわされる可能性が高い。
そうなるとツイスター系だけど、これもそれほどの範囲は見込めないし……何かないだろうか?
記憶の中を探す。
--あった。これなら!
父さんの記憶ではなく、僕自身の記憶の中にそれはあった。
--ごめんなさい、ちょっと借ります。
「フレイムレイン」
空に無数の炎の矢を生み出す。
「アイシクルレイン」
空に無数の氷の矢を生み出す。
「ストーンレイン」
空に無数の石の矢を生み出す。
「サイクロンエッジ」
前方に無数の真空刃を生み出す。
「アローテンペスト!!」
そして魔物の集団に向け、一斉に降り注がせる。
広範囲を一気に焼き尽くすような魔法ではないが、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるの法則だ。
正直僕自身もどれだけの数の矢を出したのかよく分かってない。だけど上から降り注ぐ矢の雨に、先方から迫る、いわばかまいたち。
先程までとは違って消し飛ばすようなものではないから、矢に貫かれた魔物が地に落ち、同じく風の刃に切り裂かれた魔物が地に落ちる。
この調子ならほとんどの魔物は殲滅することが出来るだろう。後は地上の魔物もどうにかしないと。
地上に降り立ち、徐々に大きくなってくる魔物の集団を見据える。空の魔物と違って少し遅いが、それでももうすぐ魔物の姿が視認出来る距離になる頃合いだ。
「インフィニティツイスター」
二丁の拳銃から同時に竜巻を生み出す。二つの竜巻は両側から半円を描くように魔物を飲み込みながらお互いを目指す。
やがて竜巻同士がぶつかり、一つの大きな竜巻へと姿を変える。
「ヴォルカニックハンマー!!」
そして竜巻を解除し、上空に巨大な拳骨を発現させる。竜巻が消えたことで空中に舞い上げられた魔物達がバラバラと地上に落ちていく。
そこに拳骨を落とし、一塊になった魔物を押し潰す。怒りの炎を纏った拳骨は一度では収まらず、何度も、何度も地面を叩き続ける。
--うわぁ……これはなかなかグロいかも……
前方にはあまり直視したくない光景が広がっていた。具体的に言うと一撃目で内蔵が飛び出て、二撃目でその内蔵が叩き潰されているような感じだ。
やがて拳骨が消え、文字通り血の海が出来る結果となった。幸い、と言っていいのか本当微妙ではあるが、拳骨が空けた穴に溜まっていたのでそれ以上広がることはないが。
上空からも魔物が降ってくることはなくなった。恐らく倒せるだけの魔物は倒しただろう。
そう思って上空を見上げ、そして前方に視線を戻す。
恐らく今生き残っている魔物、もしくは魔族は強敵と考えていい。問題はそれが何体いるか、だ。
特に魔族がいた場合、バロンクラスの相手だと一体でも苦戦は避けられないかもしれない。剣術と魔法。両方を駆使してどれだけ戦えるか。
「成る程、魔王様が全力で攻めよと言ったのも頷けるな」
「いや、これいくらなんでも被害大きすぎでしょ。責任誰とんの?」
「いいじゃない。別に雑魚なんていくら減ったってさ」
三体の人型が前方から歩いてくる。しかも話題は僕じゃなくて、誰が責任を取るかの内容だ。
「うーわ、僕の翼ちょっとコゲちゃったじゃん。勘弁してよもー」
「ちゃんと回避しない貴方が悪いのです」
更に二体の人型が上空から降りてくる。
--五体も……
五体だけ、という方が本当は正しいのかもしれない。何せ数えきれないほどの大群がいて、残ったのがこの五体なんだから。
だけど全て人型。ということは五体ともに魔族だと考えた方がいいんだろう。そうなると正直厳しいものはあるけど……
--負けるわけにはいかない!
僕の後ろには守るべき人達がいる。だから僕はなんとしてもコイツ等を倒すんだ。
3位以上って凄いなぁ……一体どうやったらそんなに面白いお話が書けるのやらorz




