予想通りの展開
やっとまともにかけたー
「あっ、匠くんだ! おはよー!」
「あ、かいちょ……美夜さん、おはようございます」
また凄い目で睨まれた。そこまでこだわることなんだろうか。
「うーん、なんか違う気がするけど良しとしよう!」
「また朝から元気ですね」
無駄に、と言わなかった自分を褒めてあげたい。
「今日も走ってるの? 頑張ってるねー」
「そういう美夜さんこそ、こんな時間からどうしたんですか?」
昨日は慌てて帰ってきたという理由で、たまたま出会ったものだと思ってたけど、会長もこの辺走ってるのかな?
「あ、私もこの辺走るのが日課だから。いつもは違うコースなんだけどね」
「そうなんですか」
あえて何故かとは聞かない。なんとなく予想出来てしまうからだ。
「えー、そこはなんで? って聞くとこでしょー?」
「えーと……なんでいつもとは違うコースなんですか?」
聞かされた。僕が甘かったというのか。
「ふふん、匠くんが通ると思ったからだよー!」
「じゃあ僕そろそろ折り返しますんで」
言うと思った。そろそろいい時間だし帰るとしよう。
「待てい!」
「うぐっ!」
文字通り首根っこを掴まれてしまう。襟が喉食い込んで変な声が出てしまった。
「何するんですか」
「何するじゃないよー! そこは感激だなぁ。とか生徒会入りたいなぁ。とか言うところじゃないの!?」
「どさくさに紛れて変なこと言わないでください。第一生徒会には入らないって昨日言ったじゃないですか」
昨日戦いが終わった後に僕の力の話はしたはずだ。授業の時間に魔力は使えないし、身体だってキレがない。そんな僕が生徒会なんて入ったら白い目で見られる以外の未来が見えてこないと。
「でもでもだって、昨日の戦い振りを見た後じゃもったいなすぎるよー」
でもでもだってって一発で使う言葉だっけ? 初めて聞いた。
「別に戦わないわけじゃないですよ。ただ生徒会に入る必要はないんじゃないかってだけで……」
「そうかなぁ? ずっと隠れて戦うのって疲れない?」
それは否定出来ないけど、わざわざ全校生徒に僕のこと説明するのもなんか違う気がする。
「だからって授業中は力が出ないから、放課後は頑張ります! ってそれこそ生徒会にいちゃダメじゃないですか」
裏を返せば授業を真面目に受けてないみたいだし。
「うーん、そんなもんかなぁ」
「そんなもんですよ。それに僕じゃなくても、成績が良くて、生徒会に入りたい人なんてたくさんいるんじゃないですか?」
「それはそうなんだけどねー」
だったら入りたい人を優先すべきだろう。そのために頑張ってる人だっているはずなんだから。
「どっちにしても僕は入りません。ただでさえ昨日会長に担がれて校内を走り回ったもんだから、変に目立ってそうですし」
「うっ、あれは匠くんが無視するからー」
肩を叩くとか他に方法もあるだろうに。
「うーん……残念だなぁ」
「別に協力しないわけじゃないですから、何かあったら言ってくれれば手伝いますよ」
なんせ命を助けてもらったようなもんだし。流石にそこまで恩知らずでもない。
「ほんと? じゃあ何かあったらすぐに声かけるね!!」
「僕に出来ることなら」
会長が喜色満面の笑みを見せる。
--ああ、確かに人気が出るはずだよ。
本当に屈託ない笑顔を見せる。子供っぽいと言えば子供っぽいんだけど、会長の場合は顔つきが大人っぽい美人タイプだから、ギャップがあるというかなんというか。
思わずドキッとさせられてしまう。
「ありがとう! じゃあまた後でね!!」
「あ、はい。また学校で」
別れの挨拶をかわして会長が走り去っていく。
それにしても今までのクセで学校と言ってしまうが、実際には学園なんだから言葉にする時も学園と言うべきなんだろうか?
そんなとりとめのないことを考えながら帰路につく。なんせ昨日遅刻したばっかりだし、今日は遅刻しないようにしないとだ。
どうせこの後体力もなくなるんだし、今のうちに使い果たしておくとしよう。
全力で走って家に帰り、軽くシャワーを浴びて朝御飯を食べる。ちょっと時間が押し気味なのでかっ込む形となってしまった。
「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
母さんに挨拶をして家を出る。もう香那ちゃんが待ってることはない。そういえば未だに口を聞いてないけど、まだ機嫌直らないのかなぁ……
ぼんやりと歩きながら登校する。何事もなく学園に到着し、教室に入って席に着く。
今日も一日が始まる。あ、早速魔力が抜けていく感覚が……
最初から魔力切れだった頃には感じなかったけど、魔力が吸い取られる感覚とはなんとも言えないものだ。徐々に力が抜けていく感じ。とでも言えばいいんだろうか。
やがて魔力がゼロになり、途端に身体が重くなる。この身体の重さとは十数年の付き合いだが、慣れたとは言っても決して気分の良いものではない。むしろ逆だ。
備前兄さんが父さんの命令だからとは言っていたけど、いつまで続くのかは教えてくれなかった。まさか一生ってことはないよね……?
「皆さん、おはようございます」
そんなことを考えていると、アイサ先生が入ってきた。今日も相変わらずデキる女性オーラを身に纏っている。
「早速ですが、皆さんに転入生を紹介します」
「えっ!?」
「転入生!? こんなに早く?」
クラスがざわめく。やれ可愛い子だったらいいなだの、やれイケメンだったら云々。
そんな周囲のざわめきを耳にしながら、思わず僕は遠い目をしてしまう。
--展開早すぎじゃない?
もはや悟りの境地だ。昨日おじさんから聞いた情報で、転入生が誰かも分かっている。もちろんその予想がハズレという可能性もあるわけだけど。
「それではお入りください」
「失礼する」
野太い声で断りを入れながら入ってきたのは、僕の予想に反して男の人だった。
「あれが転入生?」
「いやいやおかしいだろ! どう見たって高校生じゃねえよ!!」
うんそうだよね。どう見ても高校生どころか、初老と呼んでもいいくらいの年齢だよね。
だけど身体つきはとてもじゃないが老人には見えない。顔に刻まれた皺と、生やした白い髭で初老だと表現したが、体躯だけを見れば三十代くらいだと言われてもおかしくないんじゃないだろうか。
「オッスオラオルデンさん!」
「冗談はお止めください。先王陛下」
先王? ってことはやっぱり……
「陛下と呼ぶなと言ってるだろう。昔からオルデンさんと呼べと言っておるのに。アイサは頭が固いのう」
「そうは仰いましても……」
あ、珍しくアイサ先生が困ってる。そりゃ元とは言っても王様をさん付けで呼べってのも無茶だよなぁ。
「お祖父様。先生が困ってるじゃありませんか」
「ぬう、ほんの冗談だったんじゃがのう……」
オルデンさんと名乗った男性の後ろから、一人の女性が歩み出てくる。随分背が高いけど……でもこの流れだとあの女性は--
「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ございません。アリシア様」
「いえ、こちらこそお世話になる立場ですのに、申し訳ありません」
どうやら間違いないようだ。
「皆さんに改めて紹介します。こちらが転入生のアリシア=バートン=オルデンスさんです」
「ご紹介に預かりましたアリシアです。どうぞ気軽にアリーと呼んでくださいませ」
気の強そうなところは変わってないな。それにしても僕も香那ちゃんも身長が低いままなのに、アリーだけあんなに大きくなって……
クラス中が色めき立つ。そりゃ王族で可愛い女の子が転入してきたとなれば男子も女子も興奮せずにはいられないだろうな。
ぼけーっとアリーの方を見てると一瞬だけ目が合った……気がしたけどすぐに逸らされてしまった。どうやら相変わらず嫌われてるらしい。
「それではアリシア様。席はあちらの席に」
「分かりましたわ」
先生が指示した席は香那ちゃんの隣の席だった。なんとなく作為的なモノを感じないでもないけど、そこには触れない方がいいんだろうな。
「カナ!! 会いたかった!!」
で、席に着くかと思えば香那ちゃんに抱きつこうと突っ込んでいった。
--スパーンッ!
「うるさい」
「ひ、久しぶりの再会ですのに、随分な挨拶ですわね……」
うむう、相変わらず香那ちゃんラブか。香那ちゃんも香那ちゃんでいきなり頭を叩くとか容赦ないな。
「と見せかけて!!」
--スパパーンッ!!
あ、今二発叩いた。
「だからうるさいと言ってる」
「ああ……相変わらず容赦ないですわね……でもそれがいいっ」
いやいやよくないでしょ。あ、なんか他の子も何人か残念なモノを見る目に変わってる。
「あっちに匠もいるだろう。あっちに行けばいい」
「嫌です。なんであんな……」
はっきり嫌ですって言ったな。僕なんかやったっけなぁ……?
気が付けば数人の視線を感じる。うん、分かってるよ。なんでお前ばっかりって視線だよね?
でも今聞こえたでしょ? 嫌ですって言われたんだよ僕。
「はい、それまでにしましょう。そろそろ授業が始まります。続きは休み時間にしてください」
おっとそうだ。授業が始まる……ってオルデンさんまだいますけど?
「オルデン様はどうされますか? 授業を見学なさっていきますか?」
「いや、ワシはダンカンと会ってこよう。たまには旧交を深めんとな」
あ、なんか真面目モードになってる。
「承知しました。では私が案内します」
「すまぬな。よろしく頼む」
アイサ先生とオルデンさんが教室から出ていく。しかし強烈なキャラだったなぁ……
そしてアリーが転入してきて初日の授業が始まった。
ですわ()




