立ちはだかる幻影
もうちょいガッツリ書きたいところなんですが……すいませn
「そうか、お前もようやく命を狙われるようになったか」
「ようやくって言われても嬉しくはないよ」
もはや日課と課した夜の訓練、今はもう魔力も回復してきているし、身体の調子も万全だ。
「強くなりてえんだろ? だったら本気で死合え。それが一番手っ取り早い」
「そりゃあ強くなりたいとは思ってるけど、魔族に命を狙われたいとは思わないよ」
ましてや毎回命がけの戦いじゃ身が持たないよ。
「死合いに人間も魔族も関係ねえ。それに匠、お前だって気付いてんだろ?」
「何が?」
気付く? 何にだろう。
「その魔族との戦いを楽しみにしてんだろ? いつも以上にやる気満々じゃねえか」
「う……」
どうやら話している最中にテンションが上がってしまっていたようだ。
「そんだけソイツとの戦いが楽しかったんだろ? 誤魔化す必要はねえ、ライバルの存在ってのはそんなもんだ」
「ライバル……なのかな」
種族は異なりながらも、同じ剣技を使い、自分の全力を出しながらも、届きそうで届かない。今日の戦いは会長達の横槍が入った頃こそ、辛くも勝利したに過ぎない。
--横槍?
今僕は加勢じゃなく、横槍と表現した。つまり僕自身があの戦いの決着に納得していないということだろうか。
あのまま戦っていれば負けていたかもしれない。だけどもしかしたら……
「うん、確かに否定出来ないや。今日はきっと負けてたと思う。だけど次は負けたくない」
きっとバロンも今日以上に腕を上げてくるに違いない。再戦がいつになるかは分からないが、僕はその一歩先を行かなくては。
「ならいい。負けたくないって気持ちだけは忘れんな」
今日の戦いを思い出す。お互い相手の動きを読み合いながら、回避と攻撃を繰り返した、あの戦いを。
あの時こう動いていれば、もっと早く一撃を打ち込めていれば。
バロンの幻影を切り伏せるかのように、左右の刀を振るう。次の一撃は今よりも速く、それがダメなら更に速く。
呼吸をすることも忘れ、目の前の幻影にひたすら攻撃を加える。今のがダメなら次、次がダメなら次の次。
「オイオイ、ちょっと待てって」
これくらいじゃ足りない。アイツはこれくらいじゃ倒れない。もっと速く、もっと強く。
相手の回避すら先読みしろ。右に動くなら右から斬り伏せろ。左に動くなら左から斬り伏せろ。
「いい加減に……」
大振りはいらない。一撃で足りないなら二撃、二撃で足りないなら三撃、自分のスタイルを貫き通せ。
「しやがれ!!」
いきなり横凪ぎの一撃が飛んできた。かわせないと判断して刀で受ける。
「うわっ!」
威力を殺すことが出来ず、慌てて後ろに飛び退く。こんな一撃も持っていたのか……!!
「ってあれ?」
「あれ? じゃねえよ。ったく」
どうやら我を忘れていたらしい。おじさんが少し呆れ……いや、ちょっと怒ってるか。
「まあいい。目標を見つけるのはいいこった」
「目標……なのかな」
アレを目標と呼ぶのには抵抗があるが、性格はともかく、剣技においては否定は出来ない。
「今日はこんくらいにしとくか。お前も興奮しっぱなしで前が見えてねえようだしな」
「うん、ごめんなさい」
せっかく訓練に付き合って貰ってるのに、自分が勝手に作った幻影と戦っていたなんて失礼な話だろう。
「なに、悪いことじゃねえよ。オレだって覚えはあるしな」
「おじさんも?」
こんなに強いおじさんでも僕みたいに勝ちたい相手がいたのか。
「オレだって最初から強くなれたワケじゃねえからな」
「そっか、そうだよね」
皆修羅場をくぐり抜けて強くなってきたんだろう。おじさんも、それに父さんだって。
「とりあえず今日は帰って休め。また明日から稽古をつけてやる」
「うん、そうするよ」
まずは気持ちを落ち着けないと。今日明日に襲ってくるわけじゃないんだし。
「ああ、それとな」
帰り支度を始めようとした矢先に声をかけられる。何かあったんだろうか。
「アランから連絡が入った。こっちにアリーを寄越すからよろしく。だとよ」
「またそんな急に……」
随分急な話だ。アリーだって向こうの学校があるだろうに。
「なんでも向こうじゃ相手がいねえってんで、香那と一緒の学校に通わせたいらしい。ったく勝手な話だ」
「そっか、アリーも強くなってるんだろうね」
正直僕としてはあまり顔を合わせたくはないんだけど。
「まあお前も思うところはあるだろうが、大事な幼馴染みだ。そんな嫌そうな顔せずに歓迎してやれ」
顔に出てたらしい。
「嫌ってわけではないんだけど……」
むしろ僕が一方的に嫌われてるんだよなぁ……嫌われるようなことした覚えはないんだけど。
「それじゃ伝えたからな。香那には伝えてあるが、まああの性格だ。なんとかしろ」
「なんとかしろって言われても……まあどうにかするよ」
あの二人は仲が悪いわけじゃないから、大丈夫だとは思うけど……ちょっと心配だ。
「よし、じゃあ帰るぞ」
「あ、うん」
それにしても何年振りだろう。お互い小学生になる頃から会ってない気がする。
いつ来るのかは分からないけど、何言われても良いように心の準備だけはしておこう……
幼馴染第二弾登場でございます。




