匠VSバロン2
まだ咳が止まりませぬ。でも書きたくなったから書いちゃった()
「フリージング・パイル!!」
僕が死んだものと決めつけて後ろを向けたバロンに向かって魔法を繰り出す。
先日カッとなって渡辺君に向けて撃とうとしてしまった魔法だ。我ながらあの時はどうかしていたと思う。
バロンを串刺しにせんと、先端が鋭く尖った氷柱を打ち出す。
「チィッ!」
が、しかし紙一重でかわされ、僅かに掠った程度だ。あれじゃダメージなんて見込めないだろう。
「ガキィ、まだ生きてやがったのかァ」
危うく殺されそうになったので力を解放した。急いでベレッタに持ち変え、身体の前に風の盾を生み出すことで、なんとか光線を防ぐことが出来たのでこちらも然程のダメージは受けていない。
先程サラさんが使っていた氷の盾のイメージが役に立った。ここは感謝しないと
フリージング・パイルはかわされてしまったが、間髪を入れずに再度小太刀に持ち変え、バロンへと迫る。解放状態もいつまでもつか分からないので、短期決戦に持ち込むしかない。
一気に距離を縮め、連撃を繰り出す。素手でガードされるが、それでも少しずつバロンの身体に傷を刻んでいく。これならなんとか攻撃も通じるようだ。
「ハッ、さっきまでのは手を抜いてたってかァ?」
別に手を抜いていたわけじゃない。さっきはさっきで全力だっただけ。今は今の全力を出しているだけなんだから。
「おもしれェ、気が変わったぜェ。俺も本気でヤってやるよォ!」
どこからともなくバロンが剣を取り出す。
--二刀流!?
魔族には知性がある。だから武器を使うこと自体に不思議はない。だけどまさか僕と同じで二刀流だなんて。
「どうしたァ? まさか魔族が武器を使うのがおかしいってかァ?」
別に、ただ面食らっただけだ。だけど先程までの素手の攻撃は力任せに振り回すだけだった。なら技量で勝ることが出来れば……
一瞬の間をおいて、再度バロンへと肉迫する。必要以上の力は入れず、相手の動きを先読みし、的確に攻撃を加え……
「そんな……」
相手の動きを読んで死角からの攻撃、それが今の僕のスタイルだ。
確かに今も剣戟の最中を縫ってのカウンターを仕掛けている。
けれどそのカウンターが全て防がれ、逆に僕の死角から攻撃が飛んでくる。その攻撃も凌いでカウンターを仕掛けるがまた同じ。
お互いにお互いの動きを読み合いながらカウンターの応酬が続く形となってしまった。
先ほどまでの荒々しさとは打って代わり、一撃ずつ攻防が入れ替わるそれは、まるでステップを間違えれば命を落とす、死のダンスのように。
かわす。攻撃する。受け流す。攻撃する。
止まらない攻防。止められない攻防。
手を止めればそのまま一気呵成に攻められる。そんな確信にも似た予感が頭に浮かぶ。
「てめェ、その剣技は誰に教わったァ」
不意にバロンが口を開く。先ほどまでの愉悦は影を潜め。まるで僕を憎んでいるかのようだ。
「誰にも教わってない。これが僕のスタイルだよ」
強いて言うなら香那ちゃんのおじさんだけど、剣技を教わった覚えはない。
「気にいらねェ……」
ギリッ、と歯を鳴らす音が聞こえた。
「気にいらねェぞォ、そいつァ魔王様のもんだァ。てめェ等人間如きが使っていい剣技じゃねェ!」
バロンのプレッシャーが膨らむ。それに今なんて言った? 魔王? 魔王だって?
「魔王なんてのが、いるのか」
「ハッ、なんもしらねェんだな。俺の親父が今代の魔王だよォ」
魔王の息子。まさかそんな……
「それに俺が言ってるのはあんなクソ親父のことじゃねェ。先々代の魔王様のことだァ」
魔王も代替わりがあるのか。先々代の魔王、一体どんな……
「まァいい。てめェを殺せばそれで済む話だァ」
先ほど感じたプレッシャーがまた影を潜める。いや違うか。これは殺気を飲み込んだんだろう。
威圧するような感じはない。けれどまるで巨木のような重厚さを携え、バロンが迫ってくる。
『全く、レインもこんなところで存在感発揮しなくてもいいのに』
備前兄さんが何かを呟く。レイン? いや今はそれどころじゃないって!!
『匠、今の状態はほぼ互角。このままだと匠の方が不利だよ』
分かってるよ! けれどこの攻防は止められない。
一進一退の攻防が幾度もなく続き、お互い決め手を欠いた状態となる。せめて何かきっかけさえあれば……
--何か、何かないか?
解放状態がいつまで続くかは分からないが、既に数分が経過してしまっている。この状態が切れてしまった瞬間に敗北が決してしまう。
それまでになんとか打開策を見出ださなくては。
半ば祈るような気持ちで頭をフル回転させる。けれどこの止まらない攻防を打開出来るだけの策は浮かんでこない。
--ここまで、なのか?
心が折れそうになる。
その時、ふと頭の中に流れ込むイメージがあった。この感覚は前にも味わったことがある。確か……
それは一つの魔法。この均衡状態を覆すかもしれない希望の光。
けれどそれには一度距離を置く必要がある。なんとか相手の手を止める方法は……
「アイシクルレイン」
--声が、聞こえた。
そして直後、バロンに向かって無数の氷柱が降り注ぐ。
「なんだァ!?」
氷柱がバロンにヒットするが、大したダメージはない様子だ。だけど。
--止まった!!
バロンの手が一瞬止まる。そしてその間に僕は大きくバックステップで距離を取った。
「モード・ベレッタ」
既に何度か手に取り、徐々に手にも馴染みつつある銃を握る。但し今回は左手にベレッタ、右手に小太刀の変則スタイルだ。
先ほど頭の中に流れ込んだイメージをもう一度呼び覚ます。イメージするのは風、そして炎。
「ブースター!!」
ベレッタを後方に向け、引き金を引く。
途端に強烈な反動が僕を襲う。あまりの急加速に目の前が眩みそうになる。
歯を食い縛り、これまで以上に集中力を高めて目の前の相手を見定める。チャンスは一度。
「いけえええええええええええ!!」
右手に強く握った小太刀を前方へ突き出す。バロンを目掛け、一直線に突き進む。
「なァッ!?」
バロンの驚いた声が聞こえる。でももう遅い!
右手に鈍い感触。恐らく肉を抉る感触だろう。不快感に見舞われながらも、右手の小太刀を更に強く握りしめる。
人間で言う心臓のある場所を狙ったが、バロンが回避行動を取ったのか、はたまた片目による照準のズレか。
僕の刀はバロンの右肩を貫き、それでも尚止まることなく前方へ。
衝撃によってバロンの右腕が千切れ飛ぶ。僕はそのままバロンの後方まで駆け抜ける形となった。
「ガアアアアァァァァッ!!」
バロンが苦悶の声を上げている。今がチャンスだ!!
今度こそ心臓を貫かんとブースターをイメージする。
だがそこで僕の身体に渦巻いていた魔力は霧散し、同時に身体も重くなっていく。
--こんなところで……!!
チャンスが一転してピンチの様相を醸し出す。どうやら解放状態が維持出来なくなったみたいだ。
「クソが、クソがクソがクソがクソがァ!!」
バロンが僕を睨み付ける。まるで憎んでも憎みきれないほどの凶悪な形相で。
「てめェ、てめェだけは絶対に殺すゥ!」
片腕になったバロンが剣を握り直す。
「モード・二刀小太刀」
僕ももう一度、二刀流に持ち変えて迎え撃とうとする。が、手に持ったベレッタがその姿を変えることはなかった。
どうやらモードチェンジすらも出来ないほどに魔力が枯渇してしまったようだ。
仕方なく一刀で対峙する。恐らく勝つのは難しいだろうが、最後の最後まで諦めてなんてやらない。
「やああああっ!!」
そこへ割って入る存在があった。バロンに向かって突きを放つが、不意を狙ったそれは奴の剣に弾かれてしまう。
「会長!!」
「違うっ! 美夜お姉ちゃんだってば!!」
こんな時でもそれなのか。よっぽどの大物なのかもしれない。
「てめェも邪魔するかアアアァ!!」
バロンが怒り狂って会長を襲おうとする。
「アイシクルランス」
そこへ更に魔法の追撃が入る。氷で出来た槍がバロンを襲う。
だがバロンはその魔法も剣を持った手のまま殴り、砕いてしまった。
「匠、戦う力があるなら戦うべきとは言ったけど、一人で無茶しろとは言ってない」
「サラさん!」
学園最強コンビが加勢に来てくれた。この土壇場でこれ以上頼もしい存在はない。
「クソがァ!!」
バロンが叫ぶ。
怒りのままにこちらに突っ込んでくるかと思い、僕達三人は攻撃に備える。
だけどバロンはその場に立ち尽くしたまま、微動だにしない。
「ハッ、いいぜェ。この場は俺の負けにしといてやるよォ!」
--なんだって
先ほどまでの怒りはなんだったのかと言うくらいに、トーンを落として話しかけてくる。
「だがショウ、つったなァ。聞いたぜェ、そこの女がてめェの名前を呼ぶのをよォ」
「別に隠すような名前だとも思ってないけどね」
だがここはチャンスかもしれない。もしかしたら会長とサラさんで勝てるかもしれないが、まだ奥の手が残っていないとも限らない。
それに今の僕じゃ足手まといにしかならない。
「覚えたぜェ、俺は必ずてめェを殺す。殺して、殺し尽くしてェ、肉片すら残さずにバラバラにしてやるよォ……」
「匠くんは私達が守るよ。貴方になんか殺させたりしないんだから!」
会長が言葉を返す。その実力も相まってとても心強い言葉だ。
だけどチクリ、と僕の胸を針が刺す。
「匠は、学園は私達が守るべき。魔族なんかにやらせたりはしない」
「ハッ、そりゃァありがてェこったなァ。だがショウ、てめェはそれでいいのかァ?」
サラさんの言葉も間違っていない。学園を守るのは生徒会の役目でもあるし、何一つおかしいことなんてない。
けれど。
「バロン」
「あァ?」
この針はちっぽけな僕のプライド。
「悪いけど、さっきの殺すってのは遠慮させてもらうよ」
「なんだァ? 怖じ気づいたかァ?」
僕のプライドが僕の胸を刺す。それでいいのかと。
「違うよ」
いいわけがない。
「お前は、お前だけは」
戦う力を持って、ただ守られているのがいいわけなんてない。そんな日々は捨てたんだ。
「俺が全力で倒す!」
守られるんじゃない、守るんだ。今日は守れなかった。でも明日は違う。
僕の言葉を聞いてバロンがニヤリと口角をつり上げるのが見えた。
「いいねェ、俺が殺すまで殺されるんじゃねえぞォ?」
「そっちこそ、帰る途中で死んだりしないでよね」
解放状態でも互角の相手。相手は魔族、憎むべき敵。
「じゃあなァ、次に来た時がてめェの最後だァ」
「君の最後かもしれないよ?」
ケタケタと笑いながらバロンが飛び去っていく。片腕がないせいか、バランスが取りづらいのか若干フラついているようにも見える。
「サラちゃん、魔法で追撃を……」
「駄目だよ!」
会長の台詞を途中で遮る。追撃なんてさせない。
「匠くん!? だって次に来たら本当に殺されちゃうかもしれないんだよ!?」
「殺されません。だってアイツは僕が殺すんだから」
お互いを殺すと誓いあった同士。憎むべき相手ではあったが、僕達はどこか似ている。と感じた。
「匠……くん?」
気が付いたら左目に触れていた。何か意味のある行動ではなく、ただ無意識に。
今僕はどんな顔をしているんだろう。
精魂尽き果てた疲労の滲んだ顔か、それとも殺すと宣言されて怯えた顔か。それとも……
「笑ってる、の……?」
--全力で死合うことの出来ることへの期待か。
自分でも知らなかった。好敵手との再会を待ち望む僕が、確かにそこにいた。
そろそろ10万字、一章としては区切りに入る頃合ですかねー。




