学園最強コンビ2
いいタイトル思いつかんかったんや……
この声は聞いたことがある。
聞いていて禍々しさすら感じる。人間のそれとは違う。この声は。
「ダロンがここ襲って帰ってこねェっつーから見に来たらよオ。相手はガキばっかじゃねェか。アイツもなっさけねェなァオイ」
--魔族!!
前の魔族同様、背中から翼を生やしたそれが校庭に降り立つ。
「あらら、おじさん誰? どう見ても人間……じゃないよね?」
「ア? 人間が気安く話しかけてんじゃねェよ。殺すぞ?」
しかしガラの悪いチンピラ(某W君)みたいな話し方だな。威圧感はチンピラどころではないけど。
「まァ話しかけてこなくても殺すんだけどよォ」
ケラケラと笑いながらそいつが言う。
「でもわざわざオレが戦うのもめんどくせェから、お前等の相手はコイツにやらせるかァ」
そう言って魔族が上空を見上げる。僕もつられて上空を見上げてしまう。
--なんだ、あれ?
「あァ、もう会うこともねェかもしんねェが、俺の名前はバロン。てめェ等が殺したダロンの弟だァ」
魔族が名乗る。
「じゃァな。言っとくが俺のティアマトはつえェぞォ。生きてたらまた会おうぜェ。」
その言葉を最後にバロンと名乗った魔族が姿を消す。気配も消えている。恐らく転移、だろうか。
そしてバロンの代わりに降り立つ存在。さっき上空にいた魔物だ。
「おっきいいいいい!!」
会長が驚いて声をあげる。いや確かに大きいけど、そのリアクションは……
ツッコミを入れてる場合じゃないのについつい緊張感が薄れてしまう。あれはあれで一種の才能なのかもしれない。
「ガアアアアアアアアァァァッ!!」
バロンがティアマトと呼んでいた存在が咆哮を上げる。
--ドラゴン……!?
空想上の生物だと思っていた存在がそこにはいた。
四本足で地上に立ち、鱗で覆われた巨大な身体の上にはぶっとい首と獰猛な顔。そして特筆すべきは何よりその大きさだ。
こんなのが体育館の上に落ちたらひとたまりもない……!!
どう見ても体育館よりも大きい。これじゃ避難する意味がない!
「やっ!!」
だけどそんな巨大な存在にも怯むことなく攻撃を仕掛ける存在があった。案の定、というか会長だが。
神速の一突き。だけどティアマトの鱗に阻まれたのか、傷をつけることは叶わない。
「かったー……これは一筋縄じゃいかなそうだね。サラちゃん。サポートお願い」
「もちろん。一人で戦う必要なんてない。コイツは力を合わせるべき」
会長とサラさんが声をかけあう。
確かに、あの二人ならバランスのいいコンビだと思う。
「炎よ。紅蓮の炎で敵を飲み込め。ヴォルケーノ」
またオリジナル魔法。一体サラさんはいくつの魔法が使えるんだろう。
サラさんの持つ杖が紅く光る。
ティアマトの足元から炎が噴き出し、溶岩と化した岩がティアマトを襲う。
とてもじゃないが高校生のレベルで使いこなせる魔法だとは思えない。威力も然ることながら、魔法を発現させるイメージ力。それに魔力の量。どれをとっても。
いつしか炎が止み、溶岩が地に落ちると同時に会長が駆け出した。
炎で赤熱した部分を狙って突きを繰り出し、同じ箇所を何度も連続で突き続けているようだ。
槍ってあんな正確に同じ一点を突き続けられるものなのか……
正直言って二人とも人間業じゃないと思う。
やがて槍は鱗を貫いたのか、一層深く突き刺さっているのが見えた。
「グオアアアアアアッ!!」
それは痛みによる嘆きか、それとも怒りか。
恐らく二人を敵と認識したんだろう。ティアマトが一際大きな咆哮を上げて巨大な尾を振るう。
サラさんは既に後方に退避しているし、会長は尾を掻い潜るようにかわしながら逆にティアマトに接近する。
「これでも食らええええっ!」
会長が叫び、身体を捻り出す。恐らく大きい一撃を放つつもりなんだろう。
先程傷をつけた箇所をめがけて突きを放つ。
--速い!
インパクトの瞬間は僕の目でも追いきれないほどだった。自信過剰かもしれないけど、それだけの速度が乗った一撃なら、威力も推して知るべしと言ったところか。
槍が突き刺さった場所がパァンッ! と音を立てて爆ぜた。
ー一体どんな修行を積んだらあんな一撃が放てるのか。
見ればティアマトの巨体が揺れている。かなり効いているんだろう。
尾での攻撃は効果がないと今の一撃で悟ったのか。ティアマトが動きを止めた。
その間にも会長が攻撃を仕掛け、サラさんが後ろから会長の邪魔にならないように魔法で援護する。
ティアマトが動かないので様子を見ていると、僅かに腹が膨らみ、胸の辺りが膨らみ、喉が……あれはもしかして!
「ミヤミヤ、来る。離れるべき」
「えっ? うん分かった!」
サラさんから会長に指示が飛ぶ。さすがによく見ている。
会長が後ろに飛び退いた瞬間。
ティアマトの口から炎が吐き出された。
「あちっ、あちちっ!!」
直接炎を浴びたわけではないが、それでも熱風が襲ってくるんだろう。会長が熱がっている。
でもなんか緊張感ないなぁ……
「水よ。凍てつく盾となりて彼の者を守れ。アイシクルシールド」
サラさんが放った魔法は会長の前に発現した。
それは巨大な氷の壁。ティアマトが放つブレスから会長を守るかのようにそびえ立っていた。
「ミヤミヤ、それほど長くは持たない。だけどあの攻撃も長くは続かないだろうから、いったん距離を取るべき」
「サラちゃんありがと!」
どうやらあのコンビに隙はないようだ。会長の攻撃力もそうだが、サラさんの攻守のバランスが際立って優れている。
どちらが上、というのは特色があまりに違い過ぎるので判断できないし、あの二人が敵対することもないだろうから、比べることに意味はないだろう。
きっとあの二人が勝つ。僕は今の攻防を見て半ば確信していた。
『匠、見てるのもいいけど』
「え?」
備前兄さんから声をかけられる。何かあったんだろうか。
『感じないかい? さっき一度消えたあの禍々しい気配が、また近づいていることに』
「そんな、まさか」
確かに二人の戦いぶりを見て安心していたのは事実だ。だけど決して気を抜いていたわけじゃない。周囲への警戒は怠っていないつもりだ。
『そっか、まだ魔力が回復してないのもあるのかもしれないね』
「備前兄さん。本当にあの魔族が戻ってきてるの」
その言葉を信じるのであれば、いくらなんでも酷な話だ。
会長もサラさんもティアマトに集中している。それで第三者の介入に気付けと言う方が無茶だ。
『うん、僕は精霊なのは分かってるよね? 精霊はそもそも魔素を媒介にしてるから、魔力の流れには敏感なんだ。だから、間違いないよ』
「そんな……」
恐らく前回の魔族と同じくらいは強いはず。いや、奴はあの魔族が殺されたと分かっていて、学園を襲撃してきた。なら奴の方が強いのかもしれない。
『で、どうするんだい?』
「そんなの決まってるよ」
勝手な使命感かもしれない。でも僕がやらないと。
『だよね。いいかい? 力を解放するタイミングは匠に任せるよ。今は多少魔力が回復してるだろうから、上手く戦うんだ』
「うん、分かった」
魔族が来る。今は会長達もティアマトに集中しているだろうし、勝つためには集中力を切ってしまってはいけない。
出来る限りあのバロンという魔族が戻ってきていることを、知られないようにするべきだと思った。
匠君がアップを始めました




