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剣術の授業

こっちの話が進む進む。


これはマズいパターン。

 学校生活も一週間もすれば慣れるものだ。


 入学式の魔力チェックからクラスの中の明暗がハッキリと分かれることになった。


 ごくごく平均的な中間グループ、魔力量が多いと判定された上位グループ。そして魔力の反応はあったものの反応が小さかった下位グループだ。


 魔力の量も魔法を使っている間に増えるらしいし、その増え方にも個人差があるし、少ない魔力でも効率良く魔力が練れるのであれば、魔力量が絶対的な差にはならない。それはサニー姉さんに教わって知っている。


 とは言っても、だ。


 あくまで入学時点の魔力量の大小で分かれているこのグループ。反応がゼロだった僕からしてみれば、僕一人だけどのグループにも属することが出来ないのは必然なわけで……


 そして剣術の授業、武術の授業もあったが、少し動いただけでスタミナ切れを起こすこの身体では、ただでさえマイナスから始まっている印象が更に悪化することは当然なわけで……


 つまるところ、僕は入学一週間にして孤立してしまった。俗に言うぼっちである。


 唯一香那ちゃんだけは話しかけてくれるが、元々言葉を多く話す娘じゃないし、登下校の時に一緒になるくらいだ。


 休み時間に話すわけでもなく、結局昼休みだって一人で過ごすハメになっている。


 などと休み時間の間に机に突っ伏して寝ているとあまり嬉しくないことばかり考えてしまうんだよなぁもう。


「ねえねえ、五十嵐さんって如月君と仲良いの? いつも一緒に帰ってるみたいだけど」

「え? そうなのか? 五十嵐と如月ってそういう関係?」


 相変わらず香那ちゃんの周りには人が集まっている。なんせ入学式の騒動に加えて、魔力判定はクラス随一、更に剣術の授業でも教師よりも腕が立つじゃないかと思うくらいの大活躍振りだ。


 それで容姿も整ってりゃ人気が出て当然なんだろうな。流石に僕は小さい頃からずっと見てきたし、それほど彼女が特別だとは感じていなかったけど。


「そういう関係というのがどういうことを指すのか分からんが、私とアイツは生まれた頃からの幼馴染みだ。それ以上でも以下でもない」

「あ、なら付き合ってるとかじゃないんだ?」


 聞くだけ虚しくなるとは分かっていても聞き耳を立ててしまう。いっそ授業中から寝ていれば耳に入ることもなかったかな?


「付き合う? 興味ないな」

「本当に? 五十嵐さんそんなに可愛いんだし、剣術も魔法もスゴいんだから男の子が黙ってないでしょ?」

「私が興味を持つのは強い相手だけだ。それが男だろうが女だろうが関係ない」


 ですよねー。まぁ幼馴染みってだけで相手して貰ってるとは分かっちゃいたが、こう本人もいるところでハッキリ言われるとなかなかクルものがあるね。


「あちゃー、如月君可哀想に。でもそうだよね、五十嵐さんと如月君じゃ釣り合う気がしないもん」

「だよな。どっちもクラス一位ではあるけど」

「ははは、上と下のか? なかなか上手いこと言うじゃないか」


 はいはい笑え笑え。


「五月蝿い。アイツを見下すのはいいが私を引き合いに出すのはやめろ」

「おっとすまん、一緒にされちゃ迷惑だったか?」

「そうよ、五十嵐さんに失礼よ。ごめんなさい五十嵐さん。渡辺君がバカなこと言って」


 渡辺君かぁ、確か彼も上位グループだったかな? まあバカにされるのが悔しくないわけじゃないけど、今の僕が何を言っても話のネタになるだけだろうなぁ。


 とりあえず面倒だし寝たフリを決め込もう。そうしよう。


「ふん、当人は寝たフリってか。力だけじゃなくて根性もない。何しにこの学園に来たんだろうな」

「止めなさいよ。言いたいことが分からないわけじゃないけど」


 何しにっていうか僕達の年代はあらかじめ入学が決まってただろうに。そんなこと僕に言われても困る。はぁ、今日も身体がダルいなぁ。


 その時始業を知らせるチャイムの音が鳴り、先生が入ってきた。次は確か剣術の授業だったっけ。


「よし、それじゃ授業を始める。今日は実習訓練の授業だから体育館に移動するぞ」


 あ、そうか今日は実習訓練だったっけ。また憂鬱になる時間だなぁもう。


 渋々ながら僕も机から顔を上げてのろのろと移動を始める。


 ……ん? 今香那ちゃんがこっちを睨んでたような? 気のせいか。


 体育館に到着し、先生から木刀を手に取るように言われる。


「それじゃ全員木刀は持ったな? 本当は斧やら槍やらが得意な奴もいるかもしれんが、最初のうちはまず基本の剣術を学んでもらう。そのうち武器毎に選択制の授業もあるが今はこれで我慢しろ」


 斧なんて重くて使えない。槍なんて長くて使えない。まあどれ使ったって一緒なんだけどね。


「じゃあ二人一組になれ。戦場じゃ男子も女子も関係ないからな、別に男子同士、女子同士じゃなくても構わん」


 先生が指示を出した後、仲の良い同士、成績の近い者同士など次々とペアが出来ていく。


 当然僕のところには誰も来ない。まあうちのクラスは偶数だし、誰か余った人と組めばいいや。


「おい五十嵐。俺と組もうぜ」


 先程の渡辺君が香那ちゃんに声をかけている。まああれも成績が近い同士ってことかな?


「断る。私は匠と組ませてもらう」

「はぁ? あんな奴と組んでも練習にならないだろ? 俺と組もうぜ?」

「私からすればお前と組んでも練習にならん。どうせ練習にならないんだったらまだ匠の方が役に立つ」


 そう言って香那ちゃんが僕の方にやってくる。しかし本当遠慮ないなぁ……ほらそんな言い方するから渡辺君が僕のこと睨んでるじゃないか。


「チッ、意味わかんねえ」


 恐らくわざとだろう。僕に聞こえるように悪態を吐く。いや僕に言われてもね?


「匠、ボケッとしてないでやるぞ」

「香那ちゃん、なんでまた僕と?」


 幼馴染みだからだろうか? それとも一人ハブられた僕への同情だろうか?


「聞こえていただろう。他の奴と組んだところで練習にならん。だがお前は小さい頃から私の動きを見ているし、眼だけはいいからな。おかしいところがあったら遠慮なく言え」

「ああはいはい、要は道場の延長ってことね。分かったよ」


 確かに昔から香那ちゃんの動きはずっと見てきた。最初は追い付こうとして真似もした。けれどこの身体のせいでいつしか諦め、ただ香那ちゃんに憧れるだけになった。そういえば諦めたのはいつだったか。目標がただの憧れになったのはいつだったか。


「ふっ!!」

「おわっと」


 余計なことを考え始めた僕に対して躊躇なく剣を振るってくる香那ちゃん。こんな僕に対して遠慮のない斬撃だ。


 だけどこの剣閃は知ってるし、軌道も読めている。剣が振りだされるが早いか、僕は紙一重で回避する。


 そのまま二撃目、三撃目が飛んでくる。袈裟斬りから返す刀で足を払う一撃。身体をよじりながら片足を上げてそれを回避する。


 いつもならここでいったん間合いを取るはずだが……まだ剣を振るう体勢だ。これはまだ来るかな。


 足払いから心臓を狙った突きが来る。多分その後横薙ぎが来るから移動ではなく、動かずに不格好なスウェーでかわし、一歩前に踏み出る。


「ふん、相変わらず逃げ足だけは一丁前だな」

「一丁前って久しぶりに聞いたけどね」


 それにしても今日の香那ちゃんは攻撃的だ。もしかして……


「香那ちゃん、なんか怒ってる?」

「腑抜けに怒るような情は持ち合わせていない。気のせいだ」


 うんこれは怒ってるね。腑抜けって言われたし、恐らくさっきの休み時間中のことだろう。


「そっか、剣に感情が乗って振りが単調になってるよ。それからいつも一撃目が同じなのは修正した方がいいって前も言ったよね?」

「くっ、なんでそういうところだけはハッキリと」


 だって遠慮なく言えって言ったの香那ちゃんじゃないか。


 それからしばらくの間香那ちゃんの猛攻を凌ぎつつ、バテそうになったら休憩させて貰うという時間が続いた。


「はぁ、疲れた」

「何故それで疲れるのか未だに理解出来ん」


 いや、確かに攻撃避けるのは身体捻ったり、しゃがんだり、一歩分くらい移動したりなんだけど、一応神経尖らせながらだから疲れるんだよね。


「そろそろ最後だ。匠、打ち込んでこい」

「えー、僕もう疲れたって言ったよね」

「五月蝿い。一撃だけでいい」


 もう、なんで死人に鞭打つようなことを言うのかな。まあでも一撃ならいいか。


「それじゃあ行くよ」

「来い」


 再度神経を集中して剣を腰だめに構える。


 呼吸を整え、鼓動と呼吸、身体の始動が一致するタイミングを待つ。


 --今だ!!


「ふっ!!」

「っ!」


 と、鋭く息を吐き抜刀の一撃を放つ。


 --カコン


 が、剣を振りだした途端に力が抜け、香那ちゃんの構えた木刀に軽くぶつかるような形になり、間抜けな音が鳴った。


「ふう、これで一撃だよ」

「……解せん」


 そんなこと言われても力が入らないんだから仕方ない。それにこれも一撃には違いない。


「よしそろそろ終わりの時間だ。木刀を片付けて教室に戻れ。しばらくは自由に剣を振る授業になるが、そのうち型や防御の授業も始めるからな。楽しんでられるのも今のうちだけだと思っておけ」


 先生の言葉を最後に、バラバラと木刀を元の場所に戻しながらみんなが教室に戻っていく。


「おい」

「え?」


 僕も教室に戻ろうとした時にふと声がかけられた。声の主は……渡辺君か。


「さっきの五十嵐とのあれはなんだ」

「あれはなんだって言われても」


 もっと具体的に言ってくれないと分からない。


「なんであの攻撃が避けられる。五十嵐が手加減したと言ってもお前が避けられるような攻撃じゃないだろ?」

「ああ、それは昔から香那ちゃんの練習を見てきたからね。なんとなく次にどんな攻撃が分かるんだ」

「次の攻撃が分かるって……嘘だろ?」


 いや嘘じゃないんだけどね。というか誰にでも動きのクセはあるし、見れば分かると思うんだけど。


「まあいい、言っとくが俺はお前のことを認めないからな。この腑抜け野郎」


 そう言い残して渡辺君が去っていく。しかも腑抜けって言われるの今日二回目だよ……


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