学園最強コンビの実力
今回主人公は空気ということで
体育館を目指して走り出す。流石に学校に残っていた生徒は少ないのか、はたまた避難が速やかに行われたのか、廊下で他の生徒とすれ違うようなことはなかった。
それに少しいつもより身体が軽い。恐らく備前兄さんとの約束の時間を過ぎたからか、少しずつ魔力が回復しているからかもしれない。
とは言っても急に回復するわけでもないので、あくまでいつもより、といったレベルだ。朝のような快調にはまだまだ程遠い。魔法を使えと言われてもファイアボルトを一度撃てばまた元通りになってしまうんじゃないだろうか。
それでも身体が自由に動かせるのはありがたい。こうして走り続けることも出来るし、最悪肉弾戦ならどうにかなるかもしれない。
体術には自信がないので、あくまで最悪、だけど。
と、走りながら一つ思い当たったことがある。もしかして今の状態なら備前兄さんを呼ぶことも出来るんじゃないかと。
契約、という結び付きがある以上、僕と備前兄さんの間に何らかの繋がりが出来ていることは間違いない。それにあの巨大ウサギと一戦交えた時にもこう言っていた。
--匠の反応が遠ざかっていったから気になって来てみた。と。
つまり備前兄さんは僕の現在地を知ることが出来るわけだ。だったら僕から備前兄さんに何らかのアプローチを仕掛けることも出来るはず。
少しだけ魔素を取り込み、魔力に変換させておく。そして念じる。出来るだけ早く駆けつけて欲しい。と。
『あれ? 匠何かあったのかい?』
そうすると意外とあっさり反応が帰ってきた。どうやら魔力を介して備前兄さんコンタクトをとることが可能なようだ。
「うん、学園がまた魔物に襲われてるんだ。先輩達が戦ってるんだけど、万が一の時に僕も戦えるように来て欲しいんだ」
『なるほどね。こっちにはまだ知らせが届いてないから分からなかったよ。今すぐ行くから無理せずに待っ……』
そう言っていったん通信が途絶える。練った魔力が切れてしまったんだろう。だけど来てくれるって言ってたし、これ以上魔力を練る必要もないか。
あとは備前兄さんがどれくらいで駆け付けてくれるかだけど……
『お待たせー』
「はやっ!?」
もう来た。でも肝心の姿が見えない。恐らく人間の格好ではないと思うんだけど……
『上だよー』
「上?」
声をかけられて見上げてみると、ミニチュアの羊が浮かんでいた。なんでまた羊なんかに?
『知らないよ。文句はコウに言ってよね。僕をこの姿に定着させたのはコウなんだから』
父さん……なんでわざわざ羊にしたんですか……?
事あるごとに父さんの存在がチラつくが、毎回印象が変わる。どちらかというと悪い方に。
『それよりどうするんだい? 早速戦いに行くのかい?』
「いや、まずは避難するよ。まだ魔力も全然回復してないし、解放状態だって長く使えるもんじゃないしね」
もちろん会長やサラさんの役に立てるなら僕も戦いたい。だけど今の状態でどこまでやれるかは分からないし、何かあった時のために解放状態は切り札として残しておきたい。
『そうかい、ならタイミングは匠に任せるよ。まだ武器の形は取らなくていいんだね?』
「うーん、でもその格好も目立つし、姿消したりって出来ないの?」
『出来るよ?』
なら備前兄さんには悪いけどしばらく姿は消しておいて貰おう。
「じゃあしばらく姿を消しておいて貰っていいかな? 消えた状態でもモードチェンジは可能なの?」
『大丈夫だよ。匠が僕を必要としていない時は僕の自由だけど、匠が僕と必要とした時には匠のイメージが優先されるからね』
そういうものなのか。でも僕が必要としているかどうかなんてどうやって判断するんだろう?
『そこは願いの強さだとしか言えないなぁ。どうしても僕が必要だって感じたらそうなるとしか言えないや』
ってことは何もない時に人間の姿から剣の姿になってって命令しても意味ないのか。
『そうだね。僕が自分の意思で匠のお願いを聞くことは可能だけど、断ることだって出来るね』
ややこしいなぁ。まあでも必要な時に来てくれるんなら贅沢も言えないか。
『で、いいのかい? さっきから足が止まってるけど』
「そうだった。早く体育館に行かなくちゃ」
備前兄さんが来てくれた安心感からか、すっかり危機感が薄れてしまっていたようだ。
こんなことじゃいけない。常在戦場なんて言って、実際戦場にいるのに気を抜くなんて。
僕はまだまだ未熟だ。だから戦場で気を抜いちゃいけない。今一度自分を戒める。
体育館に入るにはいったん校舎から校庭に出る必要がある。恐らく戦闘は校庭で行われているだろうから、その時が一番危険だろう。
走り続けること数分、廊下の出口が見えてきた。
走るのを止め、少し息を整えてから出口に向かう。
僕には死角が多い。だからその分辺りを見回すことは癖付けるようにしている。
まず死角となる左側から伺い、続けて右側を警戒する。どうやら付近に魔物はいないようだ。
一気に駆け抜けようかとも思ったけどやめた。出来るだけ慎重に移動することにする。
走ればその分近くに魔物がいた場合に接近も早まってしまうからだ。
ゆっくりと周りを警戒しながら体育館を目指す。
校舎から体育館へはそれなりに距離があり、一度開けた場所に出てしまうことは避けられない。そこが最大の難所だと思う。
「ハァッ!」
「ブモオオオオオッ!!」
校庭から声が聞こえてくる。恐らく生徒、あるいは先生と魔物が戦っているんだろう。
「燃え盛る炎よ。一筋の矢となりて敵を貫け、ファイアアロー!」
「グルガアアァァッ!!」
魔法を詠唱する声も聞こえてくる。警戒を解かないようにしながら、声のする方向に目を向ける。
校庭には魔物の死体がいくつも転がっていた。幸いにも倒れている人の姿は見えない。どうやらこちらが優勢を保っているようだ。
やはり遠征から帰ってきたという生徒達の存在が大きいのかもしれない。
中でも戦場を縦横無尽に駆け巡る存在に目を惹かれてしまった。
それは自分の身の丈ほどもある槍を持ち、的確に魔物の急所を突きながら、迷いなく次の標的へと移っていく。
一中必殺とでも言えばいいんだろうか。一突きした相手には目もくれない。
「ヤアァ!」
女性らしい掛け声とは裏腹に、その一撃は正に必殺の一撃と呼んでいいと思う。突きも早いが、それ以上に戻りが速い。
槍は突き終わった後が隙だと言うけど、あの突きに隙などないかのように、そう見えた。
「水よ。凍てつく刃となりて敵を斬り裂け。アイシクルブレード」
そしてもう一人、空から氷の剣を降らし、魔物を次々と倒していく存在がいた。
それにそんな魔法聞いたことはない。恐らくは基本魔法ではなく、応用したオリジナル魔法だと思う。
オリジナル魔法を使いこなす人がいるとは聞いたことはあるが、実際に目にしてみるとその魔法の精度の高さに驚かされる。
ただ魔法の方向性だけを意識したボルト系、ボール系、ウォール系などのそれとは違う。
確実に相手を滅するために作られた魔法。それは才能か、あるいは努力の賜物か。
--これが生徒会の会長と副会長の実力か……
先程までの会話では想像もつかない。二人の戦士がそこにいた。
だけどこれなら被害は少なくて済むだろう。それだけの安心感を与えるだけの存在感を放っていた。
僕も内心ホッとする。これなら備前兄さんを呼び出すこともなかったかもしれないな。
「ったくよォ。人間のガキ相手に何やってんだっつーの」
その時声が、聞こえた。
また長くなりそうだったので区切っています。ご容赦ください。




