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早朝マラソンとお姉さん

新キャラ新キャラー

 いい朝だ。それに身体が軽い。


 朝の目覚めをこんなにいい気分で迎えたことはないというくらいの清々しさだ。


 さて、今日から体力作りが課題だっけ……


 昨日おじさんから課題を与えられたことを思い出す。


 --勝つことも負けることも出来ない勝負なんかイライラして仕方ねえ。勝負するからには相手は倒せ。


 確かに僕にしてみても、負けないけど勝てないという状況は好ましくない。


 解放状態になればもちろん勝つことだって出来るだろうけど、通常状態では何より刀を振るえば力が抜けていくし、正直攻撃を当てても痛くないだろうなぁ。相手が降参しない限りはほとんど勝ちはないってことか。


 解放状態についてもやっと理解出来た。よくよく考えてみればおかしいと思ってたんだよ。魔力切れの状態から魔力が吸われなくなったからって一瞬で魔力が回復するはずなんてないんだから。


 解放状態はいわゆるろうそくの火が消える間際に強く燃えるような現象と同じこと、長くは続けられないよ。だっけ。


 試しに魔力を練ってみる。身体の中から無理矢理魔力を絞り出すのではなく、外から魔素を身体に取り込み、魔力に変換させる。


 魔素を取り込むという感覚は初めてだけど意外と上手く出来たように思う。体内に魔力が満ちていく。


 これを属性に変換して使う魔法をイメージすれば魔法が使える、か。


 流石に今魔法なんて使ったら部屋の中が大変なことになりそうだから使えないけど。


「ねえ備前兄さん。今僕って普通に魔法が使える状態なんだよね?」

『魔力練ってから聞く質問じゃないと思うけどね』


 そりゃそうだけど、初めてなんだから自信がないんだよ……


 ちなみに備前兄さんは僕が学校へ行く時間帯以外は擬人化しないことを約束してくれた。というよりもおじさんが無理矢理約束させてくれた。


『まあ今の匠ならいくらでも魔法は使えると思うよ。なんせこの十五年間、ひたすら器は広げてきたからね』


 要は僕が生まれてからずっと、備前兄さんが僕を魔力切れにしてくれていたおかげで魔素を取り込み、魔力に変換させる体内の許容量を増やしてくれていたらしい。


「魔素の燃えカス、だっけ? それがないから今こんなに身体が軽いんだよね?」

『僕達は砂って呼んでるけどね。まあゼロってわけではないけど、器の半分以上は空いてるはずだから今の状態が本来の匠の身体の調子だと思っていいよ』


 砂が身体を埋め尽くしたら魔力が練れなくなり、更に砂が身体をどんどん重くしていくんだとか。


 道理でずっと身体が重かったわけだよ……


『昨日も言ったけど匠が解放状態と呼ぶ現象は、体内の砂を無理矢理僕達精霊が燃焼させて力を貸している状態だからね。今の状態はあくまで本来の通常状態ってことだから解放状態とは全然違うってことは理解して』

「うん、それは大丈夫だよ」


 とは言っても昨日までは解放状態が本来の僕の身体能力だと思っていた。流石にそんな都合のいい話はなかったわけだけど。


『じゃあまた学校に行く時間になったら魔力は貰うからね? 今日はサニーと映画見に行く約束してるんだから』

「そんな理由で僕の魔力が全部持ってかれるのか……」


 理由が理由だけにげんなりした。とは言っても僕の魔力を吸うことは父さんの命令だって言ってたから、何かしら意味はあるのかもしれないけど、ありがたい話でもない。


『ほらほら、のんびりしてていいの? 今日から身体鍛えるんじゃないのかい?

「あ、そうだった」


 すっかり忘れていた。急いで支度しないと。


「行ってきます」


 母さんはまだ寝ているんだろう。静かに玄関のドアを開閉する。


 時間はまだ朝の五時半、でもすっかり空は白んできている。


 とりあえず今日は下見を兼ねてゆっくり走ろう。遠くまで行きすぎて戻るのが遅れたら遅刻しちゃうかもだし。


 まずはスローペースで走り出す。今まで長距離走なんてものの五分も持たない内にリタイアしてたから自分がどれくらい走れるのかが分からない。


 だけど今は五分間走り続けても特に息が切れる様子もないし、この調子なら少しペースを上げても良さそうだ。


 少し足の回転数を上げる。体力がなかった頃に少しでも長く走るために覚えた、呼吸のリズムも忘れずに。


 風を切る感覚が気持ちいい。皆いつもこんな感じなんだろうか。


 しばらく走っていると川にかかる橋が見えてきた。そろそろ一度休憩しようかな。


 そう思って橋の手前まで走り、少し早くなった鼓動を落ち着けるために歩く。


 --うん、いい感じかも。


 それなりのペースで走ってみたけど、思っていたよりは疲労は感じていない。


 少し水分を取ることにして、腰に巻き付けたポーチから給水ボトルを取り出す。中身はもちろん某スポーツドリンクだ。


 --美味しい。


 適度に汗をかいた身体に染み渡るような感覚。これはちょっとクセになるかもしれない。


 --ん?


 休憩しながら辺りを見回してみたら正面から女の人が歩いて来るのが見えた。僕と同じように上下ジャージのようだから、あの人も朝から走っていたのかもしれない。それにしても髪長いなぁ。


 恐らく腰くらいまであるんじゃないかと思うが、髪が前の方にかかっており、顔は良く見えない。


 随分疲れているのか、足取りがおぼつかない感じだ。言ってみればゾンビみたいな歩き方になっている。一体どれだけ走ってたんだろうか?


 そんなことを思いながらその女性を見ていると、すれ違うような距離まで近付いて来た。邪魔になっちゃいけないと思って少し横に逸れる。


「み……みず……」


 すれ違い様にそんな声が聞こえた。いや、水分くらいはちゃんと用意しとこうよ!


「えっと、大丈夫ですか?」


 少し心配になったので声をかけてみる。倒れられても怖いしね。


「のど……かわいた……」

「飲みかけで良かったらありますけど……」


 先程口をつけた給水ボトルを見せてみる。


「くれるの……?」

「あ、はいどうぞ」


 僕の返事が早いか、その女性は既にボトルに手をかけている。そんなに喉乾くまで頑張らなくても。


 ゴクッゴクッ、と大きく喉を鳴らしながら一気にボトルの中身を減らしていく。


 ああ、これは全部いっちゃうな……


 女性が飲み終わるのを待つ。


「はーっ! 死ぬかと思ったー!」


 復活したらしい。さっきまで死にそうな声で呻いていたのとは違って随分明るい声だ。


「いや本当に助かったよ! ありがとう! あ、これ返すね」


 女性からボトルを受けとる。うん、やっぱり空っぽだ。


「あ……ごめんね、全部飲んじゃった」

「ああ、それは大丈夫です」


 だって予想通りだし。


「それにしても本当に助かったよ。ありがとうね。途中で飲み物がなくなっちゃって、お金も持ってなかったから本当死ぬかと思ったよー」

「途中でって一体どれだけ走ってたんですか?」


 どうやら準備してなかったわけじゃないらしい。むしろ準備してて足らなくなるっていつから走ってたのか。


「んーと、昨日の夜くらいから?」

「え?」


 耳を疑う。なんでそんなに走ってるのこの人?


「ちょっと隣の県から急いで帰ってこなきゃいけなくて、電車もない時間だったから走って帰ってきたんだよ?」


 いや、だよ? って言われても困る。それに隣の県からって……


「それは大変ですね……」

「あはは、本当大変だったよー」


 それにしても随分人懐っこいというか。


「それにしても恥ずかしい姿見せちゃったなぁ。よいしょっと」


 女性が顔を上げて髪を後ろに回す。そこでようやく顔が見えた。


 少し気の強そうな顔だが、美人と言っても差し支えないだろう。背も高いし、きっとモテるんだろうなぁと思うような容姿だった。


「君はこの辺に住んでるの?」

「え? いや結構走ってきたからここからはちょっと遠いかも……」


 そういえばこの辺はあまり見覚えもないし、そこそこの距離は走ってきたように思う。


「そうなんだ。見たところまだ中学生くらいだよね? それなのに朝から走るなんてお姉さん感心するなぁ」

「いや、高校生ですけど……」


 そりゃ身長は低いけどさ……


「ありゃ、ごめんごめん。そっか、高校生か。じゃあ私と同じだね」

「いえ、慣れてます……あなたも高校生なんですね」

「あなたなんてよそよそしいなぁ。お姉さんでいいよ。お・ね・え・さ・ん!」


 いやだって逆にお姉さんなんて言ったら馴れ馴れしいでしょう。


「えっと、お姉さんも高校生なんですね」

「うん! 三年生だから今年で卒業だけどねー」


 にしても高校三年生が隣の県から走って帰ってくるなんて行動普通するだろうか……


「僕は一年生です」

「お、新入生なんだね。じゃあまだまだこれから背も伸びるよ! えーっと……」


 背の話は別に……


「あ、如月って言います」

「如月君かぁ。かっこいい名字だね。名前は?」

「匠、です」


 なんで名前まで聞かれてるんだろうか。


「お、いい名前だね。じゃあ匠くんって呼ぼう」

「それは別にいいですけど……」


 なんとなくむず痒い。でも次会うかどうかも分からないしなぁ。


「私は美夜(みや)成宮(なるみや)美夜。美夜お姉さんって呼んでくれればいいからね?」


 いやいいからね? って言われても初対面の女性を名前で呼ぶのはちょっと……


「えっと、分かりました成宮さん」

「ちがーう! 美夜お姉さん。ほら呼んでみ?」


 なんでやねん。


「分かりました……よろしくお願いします。美夜お姉さん」

「うんうんそれでよし! よろしくね!」


 呼ばないと開放してくれなさそうなので呼ぶことにした。まあきっと明日から会うことなんてそうそうないだろうし、旅の恥はかき捨てってことで……


「あ! 匠くん時計持ってる? 今何時?」

「あ、持ってます。えっと今七時半ですね」


 話してる内に結構時間が経ってたらしい。ヤバい、僕もそろそろ戻らないと。


「やばっ! 私急いで帰らなきゃ! それじゃ匠くん、またね!!」

「あ、はいまた」


 そう言って美夜お姉さんは凄いスピードで走り出した。


 ハッ! 悠長に見送ってる場合じゃない。僕も急いで帰らないと!


 来た時よりも速いペースで走り、家まで帰ることにした。


 結局家には八時ギリギリくらいに戻り、なんとか遅刻は免れたが、登校中に急に身体が重くなり、結局遅刻してしまった。


 --恨むよ備前兄さん。


評価とか諸々お待ちしております(眠い)

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