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見られちゃった

文字数が多い…

 放課後を迎えて、帰宅の準備をする。


 ふと教室を見渡してみれば香那ちゃんがいなかった。


 そういえばあの後は一度も口を聞かなかった。どうやら相当怒らせてしまったらしい。


 こりゃしばらく続くかな……


 嘆いても仕方ない。僕がそれを良しとしたんだから。


「あれ? 五十嵐さんとは一緒じゃないの?」


 と、声をかけられる。声の主は藤本さんだった。


「藤本さん、今日はありがとう。別にいつも一緒ってわけじゃないよ」

「そうなんだ? ってそうだ、今日如月君のせいで酷い目にあったんだからね!!」


 僕のせいで? 何かしただろうか?


「剣術の授業だよ! あの後五十嵐さんがもう怖くて怖くて……全部寸止めだったけど殺されるかと思ったんだからね!!」

「ああ、そっかあの時の……ごめんね」


 確かに僕のせいだろう。いいとばっちりだったというわけだ。


「もういいけど……五十嵐さんって本当強いんだね。魔法だって凄かったし……」

「そうだね、香那ちゃんは凄いと思うよ」


 正直この学園でも最強じゃないかと思う。まだ他のクラスの子や上級生のことをよく知らないからなんともだけど。


「ねえ、なんで如月君は五十嵐さんと一緒にいられるの?」

「なんでって?」


 そんなこと言われても僕にだって分からない。幼馴染みだからじゃないのかな?


「普通あんな凄い子と一緒にいたら自分が嫌になると思うよ? だってその、私と一緒で如月君もあんまり強い方じゃないし」


 そういうことか。確かにそうかもしれない。


「幼馴染みだからね」

「そういうものなのかなぁ……?」


 別に嫌になったことがなかったわけじゃない。ただ諦めてただけだ。


 でも今は違う。


「ほら、でもいつか追い付いてやろうって目標になるじゃない」

「あんなの目標なんてレベルじゃないよ!!」


 否定されてしまった。


「五十嵐にフラれたと思ったら今度は違う女か。いいねえ出来の悪い奴は、構ってもらえてよ」

「ちょっと、なんでいつも如月君に絡んでくるのよ!」


 また渡辺君か。西田君と言い、本当になんで僕にばっかり絡んでくるんだろう?


「うるせえな、下位組は黙ってろよ」

「なんですって!?」


 藤本さんが渡辺君に噛みつく。気持ちは嬉しいけど……


「藤本さん、僕は大丈夫だから気にしないでいいよ」

「だって酷いじゃない! 如月君だって好きで成績が悪いわけじゃないんだから!」


 いやまあそうなんだけども、これじゃ収まらないから……


「喚くなんて美しくないわね。同じ女として恥ずかしいわ」


 東出さん登場。しかしそのセリフ。一体貴女は何様なんでしょうか。


「でも僕だったら東出さんより藤本さんの方がいいけどね」

「ちょっ、如月君!?」


 何故か藤本さんが焦り出す。あれ? なんか変なこと言ったっけ?


「ははっ、お似合いじゃないか。下位組に最下位。実力のない者同士で慰めあってよ」


 楽しそうに渡辺君が嘲笑う。


「で、なんか用?」


 正直そろそろ帰りたいんだけど。


「お前生意気なんだよ!!」


 あ、西田君もいたんだ。


「落ち着け、おい如月。俺達といいところに行かねえか?」

「うん、行かない」


 そんなセリフで誘われるところなんていいところなわけがない。


「てめえ!!」

「だから落ち着けって。心配すんな。なんかあったら俺達が守ってやるから、な?」


 守ってやるって言われても、一体どこに行くつもりなんだろう。


「ああ藤本、お前は帰っていいぜ。如月だってお前にカッコ悪いところなんて見られたくないだろうしな」

「何勝手なこと言ってるのよ! いいわよ、私もついていくわよ!!」


 え? なんでそうなるの?


「おいおい熱いねえ、それじゃ藤本も来いよ。如月、藤本がこう言ってるんだし、当然お前も来るよな?」

「はぁ……もう分かったよ」


 納得がいかないけど仕方ない。なんでか知らないけど藤本さんがヤル気満々だし。


「じゃあついてこい」


 渡辺君を先頭に、西田君、藤本さん、僕、東出さんと続く。


 後ろに東出さんがいるのは僕達が途中で逃げ出したりしないようにってことか。こういうところだけは頭回るんだなぁ。


「ねえ、どこに行くの?」


 学園から出て、帰り道とは反対の道を進んでいく。こっちって確か何もなかったような……?


「そろそろいいか。なんでもこっちの方に魔物を見たって奴がいたんだよ、あんまり大きくはなかったって話だから俺達だけで退治しようってことさ。なに、さっきも言ったがお前等は俺達が守ってやるから心配すんな」

「なんでわざわざ僕達を?」


 三人だけで行けばいいのに。


「なに、藤本はついでだが、お前は最近生意気だからな。そろそろ格の違いってやつを見せてやろうと思ったんだよ。ありがたいと思え」

「いや全然ありがたくない」


 むしろ迷惑です。


 進む内に人の気配がなくなり、風景も町のそれから林のような場所に辿り着く。


「確かこの辺のはずだが……」

「あ、あれじゃないの?」


 東出さんが指で示した方向に、確かに小さな魔物がいた。動物と見間違えそうだが、角の生えたウサギなんて見たことないし、恐らく魔物なんだろう。


「なんだよ、本当に雑魚っぽいじゃないか。これなら俺でも倒せるな」


 西田君が一歩前に出る。


「ちょっと、いくら魔物だからってまだ子供じゃない!」

「うるせえな。これが成長してでっかくなったら俺達のことを襲うかもしれないんだぞ!」


 いやまぁそうかもしれないけど、これはちょっとなぁ……


「やめときなよ、やっぱり可哀想じゃないか」

「ったく腑抜け野郎が、お前等はそこで見てろ」


 渡辺君も西田君の後に続いて魔物に向かっていく。


「男の癖に情けない」


 そう言い捨てて東出さんも後に続いていく。


 魔物も彼等の接近に気が付いたのか、こちらを警戒しながら唸り声を上げる。


「ファイアボール!!」


 あ、渡辺君は詠唱短縮出来るのか。確かに自慢するだけのことはある。


 彼が放った魔法は魔物に向かっていく。だが流石に速度が足りないのか、魔物にかわされてしまう。だが地面に着地したファイアボールが小さく爆発し、爆風に巻き込まれた魔物にダメージを与えたようだ。


「チッ、避けやがったか」


 舌打ちをしながら渡辺君が魔物に近づいていく。どこから持ってきたのか、その手には剣が握られていた。


 まあ香那ちゃんも小狐丸持ち歩いてるし、今の世の中、子供に武器を持たせる家庭も増えているのかもしれない。


「ならコイツでトドメを刺してやる!」

「やめて!!」


 藤本さんが制止の声を上げるが、渡辺君に止まる素振りは見えない。


 西田君は興奮した様子で見ているし、東出さんも同様のようだ。


 全くくだらない。


 確かに相手は魔物だが、見たところ無害そうだ。別に殺さなくてもいいじゃないか。


 そう思った瞬間、身体がドクンと跳ねるような感覚に見舞われた。


『なら匠、君は君が正しいと思うことをやってみなよ』


 この声は備前兄さんか。でも、どうして?


『匠の反応がどんどん遠ざかっていったからね。おかしいと思って飛んできたらこの有り様さ。まあ何事もなくて何よりだけど。で、いいのかい? このままだとあの魔物は彼に殺されちゃうよ?』


 確かに考えるのは後でいい。今は渡辺君を止めないと。


 力を解放し、一直線に駆け抜ける。


 --キンッ


「やめなよ」

「如月? なんで邪魔をする。そうか、お前もこの魔物を倒して自慢しようってんだな?」


 何故そういう思考になるのか理解が出来ない。


「違うよ、僕はただ君を止めようと思って……」

「だったらその刀はなんだよ」


 どう説明しようか。まさか備前兄さんのことを言うわけにはいかないし。


「あっ、逃げた!」


 西田君が声を上げた。どうやら魔物を助けることは出来たようだ。


「くそっ、せっかく魔物を倒せると思ったのに!!」

「だったらもっと強くて人を襲ってる魔物を倒しなよ。あんな無害そうな魔物じゃなくてさ」

「なんだと!?」


 また口論になるのか。めんどくさいなぁ。


「ひ、ひぃっ!!」

「キャアアアアアア!!」


 そこに西田君と東出さんの悲鳴が割って入った。


 何事かと思って振り向いてみれば、先程と同じく、角を生やしたウサギがそこにいた。


 ただしその大きさは比べるべくもないが。


「まさか……さっきの魔物の親なのか?」

「はっ、あれなら文句ないだろ? どうせデカいだけだ。俺が倒してやる!!」


 渡辺君が僕を押し退け、巨大ウサギと対峙する。よく見れば足が震えているようだ。


「ファイアボール!!」


 先程と同じく、ファイアボールを打ち出す。


 今度は巨大ウサギにヒットし、胸の辺りで爆発した。


「ほらな、大したことないだろ?」


 自慢気に西田君達に声をかける渡辺君。


「グルルルルル」


 けれどダメージはほとんどないようで、こちらを睨み付ける巨大ウサギ。


「なら直接叩き斬ってやる! おい! お前等も手伝え!!」


 二人に向けて助力を要請するが答えは返ってこない。


「役立たずが! なら俺だけでやってやる!!」


 自分を鼓舞するように大声を張り上げ、渡辺君は巨大ウサギに向かって行った。


「はぁっ!」


 気合い一閃、巨大ウサギの前足を目掛けて剣を振るう。


 だが思いの外固かったのか、その剣が肉を裂くことはなかった。


「ガァッ!」


 鬱陶しいというようにその前足を振り上げる巨大ウサギ、渡辺君はその一撃を受けて吹っ飛んだ。


「だ、だから魔物退治なんて反対だったんだ! 俺は知らないぞ!!」

「わ、私も反対したのよ。危ないからって……!!」


 東西コンビが自分に罪はないというように勝手なことを言う。


「如月君、早く逃げないと!」


 藤本さんも僕に逃げるように促してくる。だけど渡辺君がまだあそこにいる。


 巨大ウサギは渡辺君にトドメを刺すつもりなのか、ゆっくりと彼に向かって歩いていく。まるで先程の光景が逆になったかのようだ。


 いくらいけすかないと言ってもクラスメイトだ。自業自得だとは思うが死なせるわけにもいかない。


 巨大ウサギの前に陣取る。


「今のうちに渡辺君を連れて逃げて!!」

「き、如月、お前……」

「いいから早く!!」


 西田君がこちらに走ってきて渡辺君を抱き起こす。かろうじて意識があるのか、西田君の肩を借りて歩き出した。


「お前はどうするつもりだ……」

「みんなが逃げたのを確認したら僕も逃げるよ。だから早く!」

「如月君、そんな無茶よ!!」


 無茶と言われても他に方法もない。ここは従ってもらわないと。


「……死ぬなよ」

「大丈夫、避けるのだけは得意なの知ってるでしょ?」


 巨大ウサギが痺れを切らしたのか、僕に向かって前足を振るってくる。


 だけどこんな単調な動きなら問題なく避けられる。


 巨大ウサギの攻撃を何度かかわす内に、渡辺君達の姿が遠ざかっていき、やがて視界から消えたことを確認した。


 よし、これなら大丈夫だ。


「君の子供を襲ったのは僕達が悪い。けれど僕も殺されるわけにはいかないんだ。ごめんね」


 セーブしていた力を解放する。


「モード・ダブル」


 刀を二本にして二刀流に持ち替える。


 そして巨大ウサギの攻撃をかわしながら、前足に少しずつ斬撃を加えていく。


 ちょうど今日の剣術の授業で試したことのおさらいだ。一撃の威力は重視しない。的確に、少しずつダメージを重ねていく。


「グゥッ!」


 流石に痛みを感じているのか、巨大ウサギの悲鳴が聞こえた。


 でも僕は手を緩めない。緩めたら殺されると分かっているから。


 執拗に足を攻めたおかげか、巨大ウサギの動きが鈍ってきた。


「モード・ダブル」


 もう一度武器の形状を変える。先程は刀を二本にした。今度は銃を二丁に持ち替える。右手にベレッタ。左手にデザートイーグル。自然とこの二丁が手に収まっていた。


 --殺されないためには殺すしかない。でも。


 昨日は躊躇したから殺されかけた。そして殺されないためには殺す気でかかるしかなかった。


 でも。


「堅牢なる地よ。鉄をも砕く槌となれ」


 それでも殺すしかないだなんて悲しすぎるじゃないか。


「燃え盛る炎よ。激情を宿し、怒りの鉄槌を」


 だからイメージしろ。殺さずに相手を無力化するための、その魔法を。


「ヴォルカニック・ハンマー!!」


 詠唱が完了させ二丁の拳銃の引き金を同時に引く。


 眼前に浮かぶは巨大な岩で出来た拳骨だ。


 巨大ウサギの顔に当たらないように調整し、固めに固めた拳骨を降り下ろす。


 その拳骨は巨大ウサギの角を叩き、へし折った。


「よしっ!」


 そこまではイメージ通り。


 ところが威力の調節が上手く出来ていなかったのか、拳骨は角をへし折ってそのまま地面に到達すると、消えずに地面を叩き続けた。


「あ、あれ?」


 ひたすら地面を叩き続け、徐々に地面に穴を開けていく。ドンドンと大きな地響きが鳴り続けること数分。やっと拳骨が消えた頃にはポッカリと大穴が空いてしまっていた。


「なんてこった……」


 今更ながらに実感した。


 --魔法って怖い。


 ともあれ、巨大ウサギも角を折られたショックで気を失ったみたいだし微動だにしない。多分殺してはないと思うんだけど……


「キュルルルル!!」


 そんな巨大ウサギを庇うように、先ほどの子ウサギが前に立ちはだかる。


「大丈夫だって、殺しはしないから。それとごめんな」


 どう考えても今回のことは僕達が悪い。例えあの巨大ウサギがいつか僕達を襲ってくるかもしれない存在だったとしても、だ。


 だけど僕は目の前でクラスメイトを殺されるわけにはいかなかった。だから戦った。


 本当は殺されても文句は言えないのに、だ。


「何が正しかったのかな……」


 ポツリと呟き、拳銃を握りしめる。こんな後味の悪い気持ちは初めてだ。


 いたたまれなくなり、その場を去ろうとする。


「な、なに? 今の? 魔法? でも如月君って魔法使えないんじゃ……」

「あ」


 なんてこった。渡辺君達が去っていったのは確認したけど、彼女のことをすっかり忘れていた。


「藤本さん……逃げたんじゃ……」

「だって如月君一人置いていくわけには……ってそれよりさっきの何!?」


 バッチリ見られていたようだ。どうしよう……


「え、ええと、詳しいことは秘密ってわけには……」

「無理、ちゃんと聞かせてもらうから」


 やだ怖い。


「わ、分かったよ。だけどここじゃ人が来るかもしれないし、場所を変えていい?」

「それくらいはいいわよ」

『やれやれ、匠もツメが甘いなぁ』


 備前兄さん……絶対知っててやってるだろ。


 あぁもう、最悪だ。

ぼちぼち評価も貰えて嬉しい限りです。


まだまだ頑張りまっす。

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