入学
前作(一部)が完結間際で申し訳ないですが、なかなか書けないので温めてたこちらを先に投稿することにします。
「なんだお前、新入生か? 俺等のケンカの邪魔すんじゃねえよ!」
「五月蝿い、こんなところで喧嘩してる方が悪い。邪魔だからとっとと去ね」
「ちょ、ちょっと香那ちゃん」
なんでこんなことになってしまったんだろう……せっかくの入学式だっていうのに……
学校に来るまでは平和そのものだったのになぁ……
「随分威勢だけはいいじゃねえか。女の癖によ」
「随分威勢だけはいいじゃねえか。女相手に」
香那ちゃんが悪い顔をしている。これは流石に止められないか?
「おもしれえ、オイ一年。カナって呼ばれてたな。今から俺の相手はお前だ」
「貴様に名前で呼ばれる筋合いはない。五十嵐さんと呼べ」
売り言葉に買い言葉の応酬だ。どうするか……
いいや、ほっとこう。どうせ香那ちゃんだし。僕が手を出しても怒られるだけだしね。
「五十嵐か。後で泣いても知らないからな!」
「だから五月蝿い。来るならとっとと来やがれ」
「この野郎!!」
女だから野郎じゃないけどね。
「炎よ貫け。ファイアボルト!!」
「魔法!?」
上級生がいきなり魔法を打ってきた。新入生相手に使うか普通?
少し驚いたが、香那ちゃんの方を見ると慌てるでもなく持っていた刀を抜く。
「フン」
そして香那ちゃんはバカにするように鼻を鳴らし、刀を横に振るって魔法を切り裂いた。
「……え?」
目の前の光景が信じられないのか、上級生が目を見開いて静止する。
「どうした? もう終わりか?」
特にその隙に攻め立てるわけでもなく、その場から香那ちゃんは動かない。
「ふ、ふざけるな! どうせまぐれだろ!! 炎よ射抜け! ファイアアロー!!」
中級魔法か、さっきよりも規模が大きい。
「なんだ、結局この程度かよ」
先程のリプレイを見るかのように、香那ちゃんは手に持った刀で魔法を切り裂いた。
「う、嘘だろ……」
「その様子を見るとこれで終わりみたいだな。全く期待外れもいいところだ」
そう吐き捨てて香那ちゃんが上級生に迫る。
「香那ちゃんストーップ!」
「っ!」
刀を相手に向けて放つ寸前で待ったをかける。あのままだったらきっと殺しはしないまでも半殺しにはするつもりだったに違いない。
「匠……何故邪魔をする」
「だって香那ちゃん、あの人斬るつもりだったでしょ?」
いきなり問題起こされても困るもの、もう遅いかもしれないけど。
「当たり前だ。敵意には敵意を。殺しに来るなら殺す。親父からはそう教わった」
「おじさん相変わらず物騒だなぁ……ほらもう敵意なんてないじゃない。だから終わりだよ」
「あ、あっ……」
すっかり香那ちゃんに怯えてしまっている上級生。そりゃ新入生がいきなり魔法を刀で斬っちゃったらそうなるよな。
「ほら行こう。すっかり目立っちゃってるじゃないか」
「ふん、周りの目なんてどうでもいい。行くぞ」
もはや上級生の存在など眼中にないかのように体育館へ向かう。
「ちょっと待ってよ!」
そしてその後を慌てて追いかけていく。うーん、これは高校生活も荒れそうだな……
体育館には既に多くの新入生が集まっていた。特に席は決まってないようだから、既に後ろの方は満席みたいだ。
仕方がないので香那ちゃんと二人で最前列の席へ向かう。ちょうと真ん中辺りに席が二つ空いていたのでそこに座ることにした。
「ようこそ、新入生諸君。ワシは校長のダンカン。ダンカン=ノールだ。諸君等の入学を心より歓迎する」
うわぁこの人が校長かぁ。なんていうか教師というよりも教官というか、現役の傭兵みたいな風貌だなぁ。
「この学園は諸君等が知っての通り、普通の学校ではない。武器を用いた戦闘訓練、魔法の訓練もある。いわば戦士養成所のようなものだな。もちろん一般教養もあるから卒業後に普通の生活に戻ることも可能だ。だがワシとしてはせっかくここで戦闘技術を学べるのだから騎士を目指すべきだと思うがな!」
「だん……いえ、校長、いくらなんでも直球過ぎです。今日入学する子達に進路まで説いてどうするんですか……」
校長の隣にいる男性が諭している。あの人は誰だろう?
「失礼しました。私は教頭のヒースクリフ=ランスです。先ほど校長が仰ったことも事実ですが、ここは学舎。君達が将来を決めるために手助けを行う学校です。将来騎士になる生徒、ウィザードを目指す生徒、ヒーラーを目指す生徒など多種多様な選択肢はありますが、何も最初からこうだと決めてかかる必要はありません。これからの三年間で自分が目指すべき道を自分で選んでください。そのために我々教師陣は全力でサポートします」
おお、教頭先生はすごくいい人そうだ。なんとなく僕と香那ちゃんの関係に似てる気もする。
「ご苦労ヒース。おう、それとそこにいる二人。さっき二年の奴が絡んでたみたいで悪かったな。ワシの監督不行き届きじゃ。後で親御さんにも謝っとくから名前聞いといてもいいか?」
ただのオッサン口調になってるじゃないか……って僕達のことか。
「五十嵐香那だ」
「如月匠です」
こんな大勢の前で名前を言うのは恥ずかしいけど仕方ない。聞かれて答えないのも失礼だし。
「イガラシ……キサラギ……そうか、君達が」
ヒース先生が僕達の苗字を呟く。何か関わりがあるのかな?
「ガハハハハッ、そうかイガラシにキサラギか!! こりゃあいい。後でワシからお前等の親御さんには謝っとく。すまんかったな」
校長も何かあるのか? そんな大笑いするような苗字でもないと思うんだけど。
「よし! 長ったらしい話も面倒だろう。ワシの話はここまでだ。諸君、大いに学び、大いに戦え! 諸君等がワシ等と肩を並べて戦場に立つ日を楽しみにしている!!」
戦場って……でもそうか、卒業したらそういう職業に就くことだってあるもんな。
「さて、校長からの話はここまでです。ここからは私が案内を引き継ぎますね」
教頭先生が再度壇上に立つ。うーん、絵になる人だなぁ。
「先ほど校長からも話がありましたが、ここでは一般教養の授業、魔法を含めた戦闘訓練の授業があります。恐らくここに入学してきたということは承知の上だとは思いますが、この日本にオルデンス大陸が、遠く離れた異国にはゼデンス大陸がそれぞれ融合してから十五年。この国の方々は異世界の民である私達アクリス人を快く迎え入れてくれました」
教頭先生はアクリス人なのか、本当見た目はこっちの人と変わらないんだなぁ。
「しかし私達がこちらの世界に来たことにより、元々地球には存在しなかった魔素が広がり、こちらの世界の方々にも魔法が使えるようになりました。その点については発展していた技術力との融合により、この世界の生活に大きく影響を及ぼしたことだと思います」
そういえばおじいちゃんとおばあちゃんも魔法使ってたな。母さんも魔法が使えるらしいけど、あまり見せてもらったことはなかった気がする。
「ただ申し訳ないことに、我々の世界がこちらの世界に融合してしまったことにより、元いなかった魔物が蔓延っている現状についてはアクリス人を代表して謝りたいと思います」
魔物か……この町は卒業生の自警団や騎士団の活躍もあってあまり魔物が町中に侵入してくることはない。けれど場所によっては魔物が支配する土地もあるって聞いたなぁ。
「だからこそ私達は今まで魔物と戦ってきた経験を生かし、君達に自分を、そして人を守るための術を教授します。罪滅ぼしだとは思いませんが、それは私達の義務であると思っています」
本当に真摯に話すんだな教頭先生は。周りも私語を話すことなく、教頭先生の話に聞き入ってるようだ。
「けれど君達は学生です。このオルデンス学園に通う間、君達の身は私達が守ります。君達はその間に少しでも強くなれるように努力してください。以上、入学式の挨拶はこれで終わりです。後は外にクラス分けが掲示されていますので、自分のクラスの教室で担任の指示に従ってください。君達の学園生活が楽しく、充実したものになるよう願っています」
教頭先生の話が終わり、周りから拍手が巻き起こる。この人教頭なんかじゃなくて政治家にでもなった方がいいんじゃないだろうか?
「よし、それじゃ行くぞ」
「相変わらず早いね香那ちゃん」
それでもちゃんと話は聞いていたんだろう。珍しく香那ちゃんも拍手をしていたようだし。
「校長先生は変わった人だけど、教頭先生は凄くいい人そうだったね」
「ああ、だがあの二人は相当強いな。立ち振舞いに隙がなかった」
物騒な……なんでいつも人のことを強いか弱いかで判断するんだろうかこの娘は。
外に出てクラス分けの掲示板を見る。
「あった、僕は五組みたい。香那ちゃんは?」
「私は……五組だな」
「また同じだね。よろしく」
どういう腐れ縁かは知らないが僕と香那ちゃんは今までずっと同じクラスにしかなったことがない。しかも生まれた日まで同じだ。
五組と書かれている札を見つけ、教室に入る。
どうやら一クラス三十人で構成されているようだ。入ってすぐの席に名前の書かれた札が置かれている。あそこが僕の席か。
香那ちゃんは窓際に歩いていった。どうやら席は離れるみたいだな。
と、思うが早いか、香那ちゃんのところに人が集まっていく。何かあったんだろうか。
「さっきの見たよ! 五十嵐さん? ってすっごい強いんだね!!」
「俺魔法なんて初めて見たよ。なのにそれを真っ二つなんてどうやったら出来るんだ!?」
どうやら入学式の前のひと悶着を見てた人達みたいだ。納得した。僕の方には誰一人来ないけど。
「本当すごいよねー。そんなに小さいのにあんなこと出来ちゃうなんて!!」
「あっ、やばっ」
マズい。香那ちゃんにその言葉は禁句だ。
香那ちゃんは身長が低い。女の子だから身長が低い方が可愛いと思われるだろうが、本人が必要以上にそれを気にしているのだからタチが悪い。
それにその、胸も小さいので更に小さいという言葉には敏感なんだ。
僕も小さい頃にそのことでからかったら酷い目に会わされた。
「誰が……」
「はいはい、もう皆集まってますね。席についてください」
おっとナイスタイミングだ。この空間に大人の人が入ってくるってことはきっとこの人が僕達の担任なんだろう。
僕と同じ考えに至ったんだろう。皆自分の席に戻っていく。
「はい、皆さん席につきましたね。改めて入学おめでとうございます。私はこの五組を担任するアイサ=ランスです。アイサと呼んでください」
おや、苗字がランスってことは……
「気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、ヒースクリフ教頭は私の夫です。ですから教頭も私も名前で呼んでいただけると助かります」
やっぱりそうなのか。夫婦で教師って珍しいのかな。それとも教師同士で結婚したのかな?
「それでは早速ですが、皆さんの席に名前の書いた札があると思います。その札は一種の魔力測定の器具ですので、皆さん手に取って魔力を流してみてください。初めての人も多いかと思いますが、目を瞑って札に力を送るようなイメージで大丈夫です」
この札にそんな機能が……技術の力ってすごいなぁ。
早速札を手にとって目を瞑り、力を込めてみる。
確かに今まで魔法が使えたことはないけど、魔力の練り方は知っているつもりだ。お隣さんの備前兄さんとサニー姉さんが小さい頃から魔法の使い方を教えてくれてたしね。
「無意識の内に流す魔力はその人の得意属性の色が強く反映されます。炎なら赤、水なら青、風なら緑、地なら茶色。光は黄色く輝きます。強く輝けば輝くほど体内に取り込める魔素量が多いということになりますので、魔法師としての素養があるということになりますね」
「おお、俺は赤だ!!」
「私は緑だから風ね!」
「茶色かぁ、地とかの属性って地味な印象あるなぁ……」
皆既に結果が現れているようだ。そろそろ僕のも大丈夫かな? 内心ドキドキしながら目を開けてみる。
「あ、あれ?」
「貴方は……如月君、ですね。どうかしましたか?」
いや、どうかしたというよりもどうもしないんだけど。
「先生、色が変わりません」
「え?」
僕の札だけ名前の書かれた部分以外真っ白なままだ。これはどういうことだろうか。
「え、ええと、もう一度やってもらえますか?」
「わかりました」
もう一度目を瞑り、手に力を送り込む……どうだ!!
「……変わってない」
「これは……確かに変わってませんね」
えっと、それはつまりどういうことなんだろう?
「あまり聞いたことはありませんが、色が変わらないということは魔力を練るための魔素が取り込めないということになります。つまり今の状況では如月君には魔法の素養はないということに……」
「そ、そんな……」
昔から魔法の授業を受けていたのに……? いや待てよ? 確かに授業は受けてたし、知識もあるつもりだけど、実際に使ったことは……
「大丈夫です。今は使えなくても魔法の訓練を続ける内に使えるようになるかもしれません。それに魔法が使えなくても剣術などで補うことも可能ですし、そう落ち込むことはありませんよ」
剣術……香那ちゃんのおじさんにしごかれはしたけど、何故かすぐに息切れしてしまって身体を満足に動かせないんだよなぁ……
……あれ? これってもしかして詰んでない?
こうして僕の高校生活が幕を開けた。いきなり詰んだ状態で。
さてさて、前作も読んでくれていた読者様にはニヤリとしていただきたい描写なども取り入れていければと思います。
匠君のこれからに乞うご期待!